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サッカーチームにおける疲労回復

はじめに

現在ヴィッセル神戸のフィジカルコーチをしているカルロス・アルベルト・ピメンテウのインタビュー記事からフィジカルコーチの仕事として関わる、疲労回復における大切な9つの要素を解説します。

Jリーグは通常土曜日に試合があり、週に1日の試合の場合、試合前日の練習は試合で90分以上戦えるようにエネルギーを蓄えるべく、負荷を軽くします。

試合の翌日をリカバリーに充て、軽い有酸素運動や筋トレではコアトレーニング、マシントレーニングなどで軽い刺激を入れ、破壊された筋繊維を整えます。そして、交代浴を入れています。

その次の月曜日は完全休養します。理由としては、身体の疲労や炎症は48時間後に出てくると考えているためそこで刺激を入れたくないからです。

休養日明けの火曜日には2部練習で、水曜日から金曜日は1部練に設定しています。

しかし、1週間に2試合ある場合にはこのスケジュールは組めず、完全回復しないうちに次の試合を迎えてしまうことになり、コンディショニングが非常に重要となります。

大切にしている9要素

①プログラム調整

体力、走力、アジリティ能力が全部が100%である必要はなく、それぞれの要素が良い状態でハイレベルに持ち合わせていることが重要です。

かつてのフィジカルコーチたちの考え方、プログラミングの仕方は、練習量やバリエーションを多くして、選手を向上させるというものでした。それは最大(MAX)を求める場合には良いですが、よいパフォーマンスを保つためには、いろいろな練習を取り入れてバリエーションを多くしなくても、1つのトレーニング刺激や負荷をシーズンを通して繰り返していくほうが効果的だと経験から感じています。

1つのトレーニング刺激を入れるメリットは他にもあり、その日のコンディションで負荷を感じる部位や程度が違うため、自分で今の状態をモニタリングすることができます。

②サプリメント摂取

アミノ酸などのサプリメントを積極的に摂ることで、選手には試合後、入浴前に必要に応じて適切な種類、量を摂取してもらいます。

アミノ酸はたんぱく質の元になっており、筋肉の修復に必要な栄養素です。

③水分補給

たとえば、体重70kgの選手が、試合後2kg減っていた場合、半分の1kg、つまり1Lを液体で補給します。試合後2時間以内に行うのが理想です。各人の胃の許容量や消化機能の問題もあるため、 一度に前部は無理なので、250mlを15分ごとに摂るように促します。

そのため、試合後と翌日に必ず選手の体重を測定します。試合前の体重に戻っていなければそこで対処します。

普段からコンディショニングシートなどで体重管理をしておくことで、水分補給の目安となります。

④クレアチンキナーゼ値の参考

血液データから、生理学的な数値でコンディションをみます。プロチームによってはレフロトロンというリアルタイムに検査が行える機会があります。ブラジルのチームでは8割程度が導入しています。血液データからリカバリー具合をみてトレーニングの内容を調整します。

その1つであるクレアチンキナーゼ(CK)は細胞の損傷や破壊、細胞膜の浸透性の変化により血中に出てくる酵素で、運動後24時間以降に顕著に数値に現れてきます。(上昇のピークが24時間後)

オフ明けの練習時に選手の筋肉が回復し、練習に耐えられるかどうかをチェックしたいので、試合後36時間~40時間後の数値をみます。例えば48時間後にクレアチンキナーゼの値が高ければ、練習メニューから外したり、別メニューで調整するなどの判断基準になります。

⑤血糖値のチェック

血液データで重視するもう1つの数値はグルコース(GUL)です。5~24時間の間に筋肉にエネルギー源が補給できているかどうかのチェックで、血糖値が十分なレベルまでチャージできているか、24時間でエネルギー的に正常に練習できる80~100の数値に収まっているかをみます。

⑥交代浴の活用

多くの人が炎症を抑えるのに冷やすだけで十分だと考えていますが、文献的にはアイシング単独で炎症を抑えたり、創傷を治癒するということは明らかになっていません。

炎症は組織の修復過程のスイッチとなります。反対に炎症を促進させて治癒を早めるという考え方もできます。

その際に、冷却して血管を収縮させた後、温熱により血管を拡張させ、血流を増加させることで損傷した筋組織の修復を促進させるというのが交代浴の効果となります。実際、研究した所冷却と温熱の繰り返しでフリーラジカルの数値が上昇していました。

【フリーラジカルの例】
リンゴを切った後に冷蔵庫で放置しておくと、色が茶色っぽく変色し、参加します。筋肉も同様で、血管の収縮と拡張を繰り返すことで酸素の流量が増えフリーラジカルが増加し、リンゴのような状態となります。これが回復のシグナルになると考えています。

⑦高気圧酸素

高気圧酸素は通常の空気よりも酸素分圧が高い状態になるので、血液内の酸素が増加することで、損傷部位の治癒促進効果が図れます。ハードなトレーニングや試合の後に、20分~30分くらいカプセルに入ると効果的です。

⑧筋繊維を「整える」

筋繊維を整える目的のトレーニングは試合の翌日に1RMの数値に基づいて、30%~40%の負荷でおこないます。チームによってはマシンを使わずに、電気刺激によって筋肉を動かすという手段を使っているところもあると思います。いずれにしても目的は筋肉の回復を早めるために、試合で疲労した筋肉を放置せずに、軽く動かすことで回復を促します。

⑨観察し、選手の感覚を聞く

他の要素と同様に重要なことで、科学や生理学でなく選手個人のフィーリングを確認することです。日々の観察で、選手が練習している姿や表情を確認しながら、力を出せているのか、無理をしているのか、身体の不調を正直に話してくれいるのか、隠しているのかを感じ取ります。そして、選手に話して言葉を聞きます。選手自身が一番身体のことをわかっていることが多いです。

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