嗚呼、晴天。

 小学生の頃くらいから人並みに恋愛感情があった。そもそも初めて人を好きになったのは幼稚園児の頃だったし、小学生の頃もだいたい一目惚れで女子のことを好きになっていたと記憶している。
 初めて対面で女子に告白をしたのは小学5年生の頃だったと思う。その子は学校一と名高い美少女だった。外見のみならず性格も明るく溌剌としていて、言いたいことはズバッと言い、それでいて平等に優しい素敵な子だった。自分で言うのも恥ずかしいが小学4年生くらいからその子と僕はかなり仲が良かった。思いを募らせていたある日、たまたま遊んでいた一日を通していい雰囲気だったので、その日の夕暮れ時に自分の家の前で告白した。あっさり振られた。理由は気になっている人がいるから、との返答だった。相手は年上の中学生だった。
 数年後、その子は成人式で成人代表として壇上でお誓いの言葉を読んでいた。あの時、その子が気になっていたであろうヒカルくんとはどうなったのだろうと若干気にはなったが、その時分、僕は定職にも就けず、世間的に見れば何者でもない鬱屈とした19歳の「成人」だったので、しっかり自分の道を歩んでいる成人代表に近づくことは叶わなかった。数年ぶりにみたその子は、卑屈な僕がその場から逃げ出したくなるほど美しくなっていた。

 小学生の頃、その子の他にも好きになった子が複数人いる。対面で告白したのはその子だけだったと思うが、他にも女子に思いを打ち明けたことは何度かあった。その中でも、なぜか印象に残っている些細な体験がある。
 その子のことも一目惚れで好きになった。対面で告白をした子と違って、引っ込み思案で学校の中でもそこまで目立たない子だった。男子からはあまり人気がなかったが、学年で一番頭がよく、全てのテストでいつも百点を取っていた。その子のどこに惚れたのか、今となってはうまく思い出せないが、元来、一目惚れとはそう言うものかもしれない。
 たまたま仲が良かった友人に、家庭環境が複雑だった子がいた。小学校に在籍している間も何度か苗字が変わったり、一時的に登校が途絶えたりしていたこともあって、友人らしい友人があまりいなかった。この子になら言っても問題なさそうだとかなり下衆な考えを持ちつつ、その時好きだった人のことを打ち明けた。友人は親身になって話を聞いてくれた後、校庭のジャングルジムで遊びながら、

「そしたら手紙、書けばええんやよ。直接言うんやったら相手もびっくりすると思うし。君、文章書くの好きやろ? 自分の気持ちを手紙に書いて机の中に入れとき」

 このようなアドバイスをもらった。成程、手紙かと妙に納得して、早速その日の帰宅後に自宅にあった便箋を引っ張り出して手紙を認め、翌日の放課後、誰もいなくなった教室に入って当時好きだった子の机の中に手紙を忍ばせた。
 次の日の朝、僕が登校するとその子を含む女子が数人、連れ立ってその子の席の周りで色めき立っている様子が飛び込んできた。教室に入ってきた僕をみて、一様にニヤニヤとしている。その中心にいる当の本人は顔を赤くして、僕が入れた便箋に視線を落としたままだった。全てを察した僕は、恥ずかしさが波のように押し寄せ、照れ隠しのためバカみたいな高笑いをしながら自分の席についた。その日は何事もなかったように授業が始まった。
 結局、その子からはどれだけ経っても何の返答もなかった。小学校を卒業し、中学生となってからは男女間で自然とコミュニティが分かれていったこともあり、全く関わりがなくなってしまった。
 その時、その子の机に入れた手紙の内容は全く思い出せないが、割と長文だったことだけは記憶にある。その子とは直接話したこともあまりなかったから、今思えば唐突にそんな手紙を入れられた方は不気味に感じただろうなと心なしか申し訳ない気持ちになる。

 大人になり、僕は音楽を始め、カンパニュラとして楽曲制作を行うようになった。ある時ふと、その当時のことを思い出す機会があったので、あの頃の気持ちを思い出しながら「或る恋文」と言う曲を作った。楽曲自体はそこまで思い出と関連性はないけれど、個人的にあの曲を聴き返すとその当時の思い出が頭を掠める。
 風の噂で、僕が手紙を送った人は、地元から離れた場所で出会った人と結婚したと聞いた。幸せになるといい、と蚊帳の外から余計極まりない気持ちを持ってしまった。今日は晴天がよく映えている。

https://www.nicovideo.jp/watch/sm35138377


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