おにぎりという小宇宙
何しろ、おにぎりが大好きだ。毎朝、おにぎりを食べ、仕込みを始める。
郷酒は、普段、昼は定食屋、夜は居酒屋として営業している。
おにぎりを頬張る幸せはみんな共通でしょう?と思っていたから、おにぎり屋になりたい気持ちもちょっとあった。
夜のメニューには、数種類のおにぎりを用意していて、毎度毎度、張り切って握っている。
私は米農家育ち。だから、パンはおやつだった。しかもたま〜に。とにかく『ままけ(ご飯たべな)』『ご飯あるんだからご飯食べなさい』と言われた。でも、嫌だったかといえば、そうでもなくて。祖父母と田んぼに出るのは楽しかったし、美しい田園風景と丹精込めて作られたお米は好きだった。
とりわけ、おにぎりにするとなんて美味しいんだ、と毎回喜びながら食べていた。
おにぎりの具のバリエーションは無限大。おかずが無くても満足出来てしまう。おにぎりがあれば安心だ。もはや、心とお腹の友だ。
保存性にも、携行性にも優れているし、冷凍もできるし、宇宙食にもなっているという。
おにぎりは、日本が世界に誇る料理だ。
お米づくりには、88の手間がかかると言われている。
苗箱に土を盛って、種まきし、苗を育てながら、田を耕し、水を張って田を慣らし、一株ずつ育った苗を植え、水の管理と草取り、病気との戦いの末に実った稲をまた一株ずつ刈り取り、脱穀する。そのもみを乾燥させ、もみから玄米を取り出し、さらに精米してやっと炊く前のお米の状態になる。
お米にたどり着くまでこんなにも時間と手間がかかるのに、日照りや冷害や台風や大雨でダメになってしまうこともある。お米とは、ほにほに、繊細で、手のかかる、かまってちゃんだ。でも、だからこそ、有り難く美味しいのだ。
宮沢賢治は、稲作や農業に苦しむ農民を憂い、農民の力になろうとした。田の地質改良や米の品種も熱心に研究していた。「亀の尾」や「陸羽132号」といったそのお米は今私達の食べているひとめぼれなどの先祖に当たる。
さて、おにぎり作り。こうして出来たお米を炊いて、具を入れたりして、握って、海苔で巻いたり、焼いたり。具や海苔にも漁師さんの苦労や、お肉や玉子や野菜など生産者さんの苦労や手間がかかっている。
簡単に食べられる、このおにぎりになるまでに、いったいどれくらいの人の手と、行程があるのだろうか。随分はるばる来たものだ。
だから、私はおにぎりに小宇宙をみる。
沢山の人の営みや、太古の昔から続いて来た稲作の歴史が小さな一個に詰まっている。
東北地方では当たり前の味噌おにぎり(味噌を全体に塗って焼いたやつ)、独特だったことを上京して知った。常識の崩壊、当たり前を疑え、ということを実感した。ユリイカ!!!
実家では太鼓型のおにぎりだったもので、三角握りは未だに鋭角に握れない。親方にダサいダサい言われたけど、この形も愛くるしいと思っているから、私の握るおにぎりは今もずんぐりと大きい。
ホロっとほどける食感を目指しているけど、奥が深く、なかなかたどり着けない気がしている。
そして、今日ももっつもつとおにぎりを食べ、モリモリ張り切って料理している。
まんず、おでって食べでみてくなんせ。
※おにぎりに合う、ばっけ味噌
田舎味噌100g、酒1/2カップ、砂糖大さじ2を小鍋で弱火でよく練り混ぜ、茹でて刻んだふきのとう(ばっけ)5.6玉を入れて、さらによく練り混ぜて馴染ませる。
さぁ、おにぎり握ってどごさ行こう?
おいでくださりありがとうございます。 不器用な料理人、たぬき女将が季節の食材、料理、方言にまつわるよもやま話を綴っています。おまけレシピもありますよ。