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【五右衛門風呂】

久しぶりに〈五右衛門風呂〉という言葉を耳にした。

〈五右衛門風呂〉を御存知であろうか・・・

〈五右衛門風呂〉とは、お椀型の鋳物で出来た風呂釜を使った風呂のことで、昭和の中頃まではまだ一般家庭に残っていたし、僕が高校に上がるまでうちにも〈五右衛門風呂〉があった。

ある記述によると、〈石川五右衛門〉は、安土桃山時代に生きた盗賊の首長で、文禄3年に捕らえられて、京都三条河原で処刑された、とある。

〈石川五右衛門〉が釜茹での刑に処されたという言い伝えが〈五右衛門風呂〉と呼ばれるようになった経緯いきさつなのだろう。

さて、この〈五右衛門風呂〉であるが、風呂釜の底に排水用の穴が開いていて、水を張る時は、日本手拭いの端切れかなんかを巻き付けた棒を排水穴に差し込んで栓をし、井戸から汲み上げた水をバケツに入れては何度も運んで水を貯めていた。水汲みは子供の仕事なのだが、これが結構な重労働であった。

風呂を沸かすには、釜の下で木屑や薪を焼いて、直接風呂釜を熱した。

ところが、本火で燃えるようにするまでが至難の技で、新聞紙などの燃え易い物から燃やして、その火を木屑に移す訳だが、新聞紙の火が直ぐに消えてしまって、木屑まで中々燃え移らないのだ。マッチを何本も擦っては点け擦っては点けたものである。オマケに目が痛くなるほど煙たかった。

さて、〈五右衛門風呂〉は身体の芯まで暖まるという長所があったが、逆に欠点もあった。

と言うのが、〈五右衛門風呂〉は、鋳物を下から直火で焚き上げるので、鉄で出来た風呂釜の内側が高温になるのだ。だから、勢いよく追い焚きしている時に、ウッカリ風呂釜の内面に当たろうものなら火傷をしてしまう恐れがあった。鍋をコンロに掛けているのと同じことなのだ。

当然、底も熱いので、風呂釜に足の裏やお尻が直接肌が触れないように、丸いすのこが用意されていて、それに乗って風呂に浸かるのである。

言ってみれば、浮いている丸いいかだに乗って底まで沈めていくといった感じだ。

ところが、新しい簀ほど、木が新しいぶん浮力が強くて中々沈まない。子供は体重が軽いので尚更である。途中でバランスを崩すと、素足で熱い風呂釜を直に踏んでしまうことになる。

「ぅわっちっち❗️」

と、こうなる。

そして、やっと浸かることが出来ても、追い焚き中なら、熱い風呂釜には肌が直接触れないようにしなければならないのだから、入るのにも浸かるのにも経験と熟練を要したのである。

因みに、簀は水気をタップリ吸った簀のほうが断然安定感があったし、よく沈んでくれたので、古い簀のほうが僕は好きだった。

しかしながら、〈釜茹での刑〉という、極めて残虐な方法で処刑された〈石川五右衛門〉の気も知らず、〈五右衛門風呂〉なんていう呼び方が定着してしまったのだから凄いと思う。毎晩、処刑される訳だから・・・

もし、今でも何処かに〈五右衛門風呂〉があったら、もう1度入ってみたい。

(五右衛門風呂釜は、大和重工株式会社が、現在も国内で唯一製造を続けている)

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