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岸田ビジョン 分断から協調へ

 本書は元外務大臣の岸田文雄・自民党政調会長の初の著書である。総理大臣を狙える位置にいる政治家は、少なくとも一冊は本を書いているものだが、これまで岸田氏には著書がなかった。そのため、岸田氏が政治家としてどのような理念や政策を持っているかがわかりづらかった。その意味で、本書はまさに待望の一冊と言える。

 岸田氏は本書で、「聞く力」の重要性を訴えている。国民の代理として国政に参加している政治家たちは、なによりもまず国民の声に耳を傾ける必要がある。その上で、国民の声を実現していく。これが岸田氏の目指すリーダー像である(本書12頁)。

 岸田氏は「聞く力」を外交でも発揮している。外交の要諦はまず相手の話を聞くことである。相手国にこちらの思いを押しつけるのでは、向こうは受けつけてくれない。まず相手の主張に耳を傾け、それによって徐々に胸襟を開いてくれるように導いていく。岸田氏はこの方法で各国の閣僚たちと渡り合ってきた(同129頁)。

 岸田氏は本書で、中国の王毅外相と通訳を入れず二人だけで会談したことを明かしている。王毅外相は日本語が堪能だが、周りに中国の関係者たちがいるときは絶対に日本語を口にしない。しかし、このとき王毅氏は日本語で岸田氏に次のように語りかけてきたという。

 「いまの日中関係は大変な状況にある。岸田さん、あなたは宏池会の人でしょ。宏池会であれば中国との関係は大事にするはずだ」

 これに対して、岸田氏が「宏池会をご存知でしたか。いまの宏池会の会長は私です」と応じると、王毅氏から「宏池会の会長でしたか!」と驚いたような反応があったようだ。その後、二人は握手をして別れたとのことだ(同135頁)。

 岸田氏はいまも次期総理候補の筆頭だが、岸田氏が総理になるとすれば、そのころ日中関係は現在よりもさらに複雑化しているだろう。岸田氏が外相時代に培った人脈は、今後の日本にとって大きな意味を持ってくると思う。 (編集長 中村友哉)

(『月刊日本』2021年1月号より)

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書 籍:岸田ビジョン 分断から協調へ
著 者:岸田文雄
出版社:講談社

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