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役者バカの人生…

あの時
どうしても欲しかった役…

俳優として年を重ねた今
思い返してみる
当時は本当に
その役が欲しくて
演じたくて
そのために懸命に努力した
他の人の何倍も何倍も…
演技を練習し台詞せりふも覚えた
でも結局…
あの役を手にする事は叶わなかった
見ず知らずの人が選ばれ
悔しくて泣き明かした
発表されたクレジットに
私の名がる事は無かった

それでも…

落ち込んでばかりはいられなかった
食べていかなきゃ
生きていかなきゃ
そのためにはどんな役もこなす
り好みなんてしてられない
そう思って
ガムシャラに生きて来た数十年
長かったなあ…
振り返ってみると
乗り気じゃなく
本意では無い役でも
懸命に演じてきた
その時々での演技が認められ
評価されて
ファンの方々も付いてくれた

「あなたの演技に感動した」
「あの役はあなたしかありえない」
「感動で涙が止まりませんでした」

そう言って頂いた
応援の言葉や花束に
プレゼントの数々
感動で涙が止まらなかったのは私の方…
私の喜怒哀楽の演技を見て
同じ様に喜怒哀楽を感じてくれる
なんて素晴らしいんだろう

色んな役を演じて来て
その登場人物になり切って来た
自分がその人物だったなら…
そう思いながら演じ続けた日々…

その時々の年齢で
演じられる役を与えられ
役を通して
様々な人生を演じられる幸せ
なんて素晴らしい仕事だろう

だが役者として
得た物は大きかったが
失った物も数知れない

親の死に目に会えず舞台に立ち
悲しい気持ちをいつわ
笑顔で明るい男を演じ
地方公演で
初子の誕生に立ち会えず
祝いの日に狂った殺人鬼を演じた
巡業で妻子とえぬ日が続き
久しぶりで帰れば誰もいない家…
机に置かれた
署名捺印済みの離婚届
何もかも失った翌日に
ラブラブで幸せな男を演じる
なんと残酷で因果いんがな商売だろう

死ぬまでにいくつの人生を演じたのか
自分でも分からなくなった
本当の素顔を
様々な仮面でおお
幾つもの表情に
幾つもの感情
喜怒哀楽をコントロールし
誰にでもなれた
だがそれもまた
かけがえの無い我が役者人生

役者を始めて
もう数十年が経った
もうすぐ私の生は終わる
そう長くは無い

もう一度舞台に立ちたかった
もう一度誰かを演じたかった

あの時欲しくて
手に入れられなかった役…
今でも忘れない
運よく手に入れていれば
今の私は無かっただろう
思えばあれが
始まりだったのかもしれない

我が役者人生に悔い無し

私の墓石にきざんで欲しい
『役者バカここに眠る』…と

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