「ガチガチガチ…」

おおお…寒い…
歯の根が合わぬ…

このような寒さ…
雪国育ちではない拙者には堪たまらぬ…
蓑みのと綿入れ程度では寒さをしのげぬ

拙者に妖あやかし退治を依頼した村長むらおさの
話ではこの辺あたりか…？

しかし、吹雪ふぶきで何も見え…
ん…？
おお…あれは灯りだ！
『斬妖丸ざんようまる』よ
あれに見えるは人家じんかだぞ…

もし、お頼み申す…
この吹雪に難儀しておりますゆえ
一夜の宿をお願い致す…

おお…相あいすまぬ
宿のみか酒肴さけさかなの馳走ちそうまでとな…
かたじけない…

済まぬ…御新造ごしんぞうどの…
拙者…　疲れ故か…
少々、眠気が…
寝床ねどこを…　所望しょもう致す…

おお…
かたじけない…
ね…眠る…

「バタッ…」

＊＊＊＊＊＊＊＊

オッホッホッホ…
他愛たわいも無いものよのう
妖狩りとやらよ…

妾わらわの口車に乗り
眠り薬の入りし酒肴を喰らうとは…
噂うわさに聞こえし妖狩りとて
美しい妾にかかれば
この通りじゃ…

さて…
こやつも妾の氷の接吻せっぷんにて
腸はらわたから凍り付かせてくれようぞ

それとも、ふふふ…

この美しい雪女の冷たき舌にて
そなたの逸物いちもつを
氷柱つららと化してあげようかねえ

悦よろこぶがよい…
快楽の中で氷漬けとなり
死ぬるがよいわ！

そして妾の
玩具おもちゃになるのじゃ！

＊＊＊＊＊＊＊＊

「ガバッ！」

ふふふ…

罠わなにかかったは
拙者にあらず…
雪女、貴様の方よ！

拙者が貴様如ごとき無粋ぶすいな妖の
策略に乗ると思うたか？

愚おろかなり、雪女よ…

拙者が震ふるえておるは
寒さ故ゆえじゃ
貴様の眠り薬などに
かかると思うたか？

貴様の用意せし酒肴さけさかななど
喰くろうてはおらぬ

それに…
食事の支度の際…
拙者は見たぞ、納戸なんどの奥を…
あの中に眠る何十という
氷漬づけの遺体を…

罪もない男達を
貴様の不埒ふらちな欲望のために…

許さぬぞ…雪女！

貴様の吹雪ふぶきなど
恐れる拙者では無いわっ！

行くぞ、『斬妖丸ざんようまる』！
雪女には熱だっ！

『火炎地獄車かえんじごくぐるま』をヤツに喰らわす！

分かっておる…
あれを使えばこの山小屋を中心に
一里いちり四方は焦熱しょうねつ地獄と化す

だが『斬妖丸』よ！
お前の力で一町いっちょう四方ほどに
範囲を押さえ込め！
さもなくば、麓ふもとの村も消滅致す…

犠牲となりし村人の骸むくろを含め
この雪女の棲すみ処か一帯を
地獄の業火ごうかで浄化してくれん…

やるぞ『斬妖丸』！
焼き尽くせっ！

火炎地獄車っ！