見出し画像

経営に活かしたい先人の知恵…その20

◆忖度が組織を滅亡させる原因となる◆


 帝王学の書として知られる『貞観政要』に、「個人的に不和となることを避けたり、相手の面目を失わせることを気の毒に思って、明らかに非であることを知っても正すことをせず、そのまま施行するものがある。これは大きな弊害を招き、組織を滅亡させる原因となる」(唐二代目皇帝太宗)とある。忖度して、言うべきことを言わない風潮が広まると、組織は滅亡に向かうとの指摘だ。

 昨年から問題になっているトヨタグループの相次ぐ不祥事の原因も、「忖度」にあると私は考えている。

 2024年1月31日の日経新聞の記事は、「トヨタ自動車グループの不正が止まらない」との見出しをつけて、その原因として「硬直的な開発日程」「物を言えない空気」等々を挙げていた。単純には、上層部から現場に「ムリ」な要求がなされ、現場は「ムリ」なのは分かっているのに、「できないとは言えない風土」があったようだ。

 グループビジョン説明会(1月30日)で、豊田章男会長自らが「トヨタに物が言いづらい点もあると思う」と発言しているので、事実そうなのであろう。

 周知のように、トヨタでは「ムリ、ムダ、ムラ」の3ムの排除に組織を挙げて取り組んできている。それなのに、グループぐるみで「ムリ」が横行していたのでは、現場が疲弊するばかりだ。経営の現場においては、ムリをしないといけない局面もある。しかし、ムリは一時的にしか通用せず、それを重ねると組織が崩壊しかねないことを肝に命じておきたい。

 トヨタ自動車三代目社長の石田退三さんは、従業員に対して「余裕のあるマイ・ペース」を推奨し、「ムリも、ムダも、ムラもいけない。いわゆる3ムの排除が完全に行われなければならない」と話している。

 先の説明会で章男会長は「余裕がなかった」とも発言したが、「余裕を持って3ムを完全に排除」していれば、こんな状況にはならなかったのではないか。流行りの言葉でいえば、トヨタグループには「心理的安全性」がなかったのだろう。

 グーグルでは、自社内のチームを対象に調査をし、この「心理的安全性」をチーム・プレーで生産性を高める一番の土台となるものと、結論づけているが、それはどのようなものなのか?

 一見、それはメンバーが仲良くすることで高まるもの、と考えるかも知れないが、断じてそうではない。

 グーグルの調査チームを率いたピョートル・グジバチ氏は、「お互いに高め合える関係をもって、建設的な意見の対立が奨励される組織」と定義づけている。「心理的安全性」の高さとは、互いに意見を言い合いながら、安心して働くことのできる状態を言うのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?