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経営に活かしたい先人の知恵…その22

◆有能なリーダーと無能なリーダーの違いはどこに◆


 有能なリーダーの共通点として、より多くの人の声に耳を傾けるということが挙げられる。

 唐の二代目皇帝太宗が、側近の魏徴に「どのようなのを明君(優良なリーダー)、どのようなのを暗君(無能なリーダー)というのであるか」と聞いた際の答えは、次のようなものだったと『貞観政要』に記されている。

 「多くの人の意見を聞いて(兼聴)、そのよいものを用いるのが明君であります。逆に、一方の人の言うことだけを信じる(偏信)のが暗君であります。詩経に『昔の賢者は、薪を採るような賤しい人の意見も聞いた』とあります。昔、堯舜(明君の代名詞)の政治は、四方の門を開いて能力のある人たちを招き、より多くの人の話を聞くようにしたのであります。秦の二世皇帝は、その身を宮中の奥深くに隠し、趙高の言うことだけを信用して、他の臣下の話を聞くことができなかったから天下が亡びたのであります。ですから、多くの人の言を聞き、広く下のものの言を入れれば、下情は必ず上に通じ、明君となれるのです」。

 始皇帝亡き後、天下取りに成功した劉邦(漢を建国)は兼聴型、敗者となった項羽は偏信型と見ていいだろう。

 秦の本拠地「関中」を陥れた時、元来女好きだった劉邦は、美女が多くいる宮殿に留まって、歓楽しようとしたが、臣下のアドバイスに従って、財宝にも手をつけずに、宮殿の外で宿営した。一方の項羽は、関中に留まれというアドバイスにも、劉邦を殺せという臣下の進言にも耳を傾けなかった。これが、項羽が天下を取れなかった大きな理由でもある。

 そして先の「薪をとるような賤しい人の意見も聞く」を文字通りに実践したのが、新1万円札に描かれることになった渋沢栄一さんだ。渋沢さんは、兼聴するだけでなく、聞き逃しがないように記録係を側に置いていたと聞く。アメリカの著名な経営学者、コッターさんは著書『幸之助論』に、小学校中退の松下さんが 偉大な経営者になれたのは、目下の人の意見にも素直に耳を傾けたからだと書いている。

 世界有数のホテルグループ、マリオットの二代目経営者マリオット・ジュニアさんも同様の考えを持っていた。「仕事に就いて40年以上にもなるが、人の意見に耳を傾ける能力こそ、優れた管理者が訓練によって伸ばすことのできる最も重要で、しかもたった一つの職場での技術であるというのが、私の結論である。部下の意見にきちんと耳を傾けていない指導者は、重要な情報を聞き逃し、職員や同僚の信頼を失い、革新的で、実務に通じた管理者になるチャンスを失ってしまう恐れがある」。

 最近は「傾聴」が大事だと言われている。確かにその通りなのだが、ただ聴こうとするだけでは届いてこないこともある。ここでもマリオット・ジュニアさんの声に耳を傾けたい。

 「口を閉じているだけでは、上手に耳を傾けていることにはならない場合もある。職員は自然と上司によくない知らせを伝えないようにしたり、事を荒立てるのを避けようとする傾向があるが、人間のためらいを取り省き、問題の核心に達するためには、もっと積極的な聞く技術として、相手に質問する必要も出てくる。私は、『君の考えはどうか?』といった形式の質問が非常に有効だと信じている」。

 松下幸之助さんも、「君はどない思うんや」と質問するのが、常だったと聞く。

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