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映画「PERFECT DAYS」感想

 私には東京の美しさはわからない。日本人の中にも酷い人間はいるし、汚い風景も隠れてる。けれど、寡黙な男平山の日常に差す緑葉の木漏れ日や人々の喧噪、窓の色、ページをめくる摩擦音、そこに紛れるラジカセの音楽、全てが彼にとって愛おしい日常なんだということが伝わってきました。

 私は小説が好きなので、古書店のおばちゃんの一語一句が毎回面白くて好きだった。パトリシア・ハイスミスは私も読んだことがあったので、「不安と恐怖は違う」というニュアンスの言葉に、確かに……とたったそれだけで共感めいた喜びが湧き上がってきた。いつもの人と店がいつまであるかわからないけれど、きっとその記憶は美しい思い出として残っていく。
 また、同僚清掃員のタカシが見せた二面性にもドキッとした。平山から自分の見栄のためにお金を借りて(しかもその後も返していない)、女に会いに行くのがダラしない人間性を見たのに、知的障害者の幼なじみの男の子に対して仲良く自分の耳をいじらせるだけ触らせている姿に優しさも感じた。人の一片だけを見て判斷していた自分の浅はかさを突きつけられたようで、少し情けなくなった。
 あと、清掃員の助っ人女性(安藤玉恵さん)がプロフェッショナル感がでててすごくかっこよかった。頼もしい、たくましい人、それだけで安心する。まるで大木のように。

 役所広司さんだからこそ表情で魅せる演技、睡眠時のモノクロの継ぎ接ぎ、トイレでの顔の知らないゲーム相手、それぞれのシーンに想像力が刺激された。
 幸田文さんの「木」も読んでみたいなぁ。

 第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートおめでとうございます。発表は日本時間3月11日(月)の朝。楽しみです。

公開中

あらすじと概要

「パリ、テキサス」「ベルリン・天使の詩」などで知られるドイツの名匠ビム・ベンダースが、役所広司を主演に迎え、東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、役所が日本人俳優としては「誰も知らない」の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞した。

 東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山。淡々とした同じ毎日を繰り返しているようにみえるが、彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちている。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読むことが楽しみであり、人生は風に揺れる木のようでもあった。そして木が好きな平山は、いつも小さなフィルムカメラを持ち歩き、自身を重ねるかのように木々の写真を撮っていた。そんなある日、思いがけない再会を果たしたことをきっかけに、彼の過去に少しずつ光が当たっていく。

 東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた。共演に新人・中野有紗のほか、田中泯、柄本時生、石川さゆり、三浦友和ら。カンヌ国際映画祭では男優賞とあわせ、キリスト教関連の団体から、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞。また、第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた。

映画comから引用


2024.2/6投稿、幻ノ月音

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