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【極超短編小説】そういうことね

 視野が徐々に広がり、目に入るものの輪郭がはっきりとしてきた。
 僕が目覚めた場所はトイレだった。
 便器にもたれかかったまま寝ていたらしい。
 便器の中には僕の吐物。原型のないハンバーグやスパゲッティ。
 
 昨夜のことは断片的に覚えている。寿司を頬張る彼女の隣で日本酒をひたすら飲んだ。いや飲まされた。
 寿司屋の前に入ったファミレスで胃袋が容量オーバーになっていた僕は、酩酊して彼女の部屋に担ぎ込まれたらしい。店を出てからの記憶はほぼない。

 トイレの床を拭き上げ、便器を磨き、トイレットペーパーの端っこを三角に折って、最後に水洗のレバーを回した。もう一度汚れが残っていないか隅々まで確認してトイレを出た。
   
 彼女はベッドの上で薄手の毛布にくるまって寝ていた。
 彼女の部屋に入ったのはこれが初めてなのに、彼女を視界の真ん中に入れてこの部屋を俯瞰すると既視感がある。それと同時にねじれた様な違和感がある。

 頭がガンガンする。二日酔いだ。早く自分のベッドで横になりたい。
 できるだけ音を立てないように苦労して気を付けながら、コップを借りて水道からの水を飲む。そしてコップを洗って元に戻す。
 さあ、帰ろう。この彼女の部屋の住所は分からないけど、僕の部屋まではそう遠くはないだろう。タクシーを使ってでも早く帰りたい。

 靴を履き玄関のドアノブをゆっくり回したとき、さっきの既視感を思い出した。
 ドアを静かに押し開けると、通路をはさんでそこには僕の部屋のドアが見えた。
 「お向かいさん、忘れ物」
 彼女は僕の後ろから声をかけて、ファミレスでの食べ残しが入った容器を差し出した。


 

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