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掌編小説 死神

 下を向いて歩くと死神に目をつけられるらしい。もうそろそろこいつはイケるかなと思われるのだろうか。だから僕は絶対に上を向いて歩く。上を向いて歩けば涙はこぼれ落ちないし、気持ちが明るくなるような気もする。でも時々、空を眺めているとどうしようもない気持ちに襲われる。この気持ちの正体は一体何なのだろう?そう言えば何かの漫画で敵キャラが言っていた。「人は嘆く時天を仰ぐんだぜ、涙が溢れないようにな」と。そうか、僕は嘆いているのだ。どうすることも出来ないこの現実を。僕は下を向いて歩きたい。涙と鼻水をダラダラこぼしながら下を向いて歩きたい。でもそうすると死神に目をつけられてしまう。でもでも、別に死神に目を付けられたっていいじゃないか。間違いましたすみませんと言って素直に謝ろう。そうすればきっとわかってくれる。一人で歩く夕暮れの帰り道、後ろを振り返ると黒猫がいた。黒猫と目があった。僕はとっさに「間違いました」とつぶやいた。黒猫はうなづいて去っていった。あれはきっと僕を狙っていた死神に違いない。


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