渡邉有

読書が好きな40代です。ミステリー、ホラー、戦前の小説が大好きです。お気に入りの本の感…

渡邉有

読書が好きな40代です。ミステリー、ホラー、戦前の小説が大好きです。お気に入りの本の感想や自身で書いた小説などを投稿していきたいと思います。

マガジン

  • 短編小説アナザーワールド

    約1万文字の短編小説です。曖昧な関係性の向う側にある、もう一つの並行世界。

  • 小説 月に背いて

  • 掌編小説

    ワタナベワールド全開の掌編達です。

  • 読書感想文

    思うがまま感想を書き連ねています

  • 小説 弦月

    創作大賞2023恋愛小説部門 中間選考通過作品です。時間軸を超えて過去と現在の熱情が交錯する物語。宿世の業と自由意志について書きました。

最近の記事

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小説 月に背いて 1

 スマートフォンの着信音が鳴る。私は目を閉じて、彼の声の響きを聞いていた。それはまるで深い深い海の底にいるように、無機質で乾いた声だった。 「これから行ってもいいか?」と彼は言う。いいよと私は答える。  彼が私の体の輪郭をなぞるたびに、このまま消えてしまいたくなる。私は見えない鎖で繋がれている。私の心はその鎖につながれたまま、どこまでも彼と歩調を共にしなければならない。触れている冷たい肌の感触は間違いなく彼のものなのに、実体は、魂は、ここにはない。どんなに手を伸ばしても私

    • 泣くならひとり(創作)

       泣きたくなりトイレに駆け込むけれど、尿意はあるのにいっこうに尿は出ない。不思議なことに、涙を流すことと排尿は同時には出来ないのだ。同じ排泄にも関わらず。おそらく、泣くときは交感神経が優位になり、排尿する時は副交感神経が優位になるからだろう。自律神経はバランスが大切だから。いや、そんなことを考えていないで、早く涙を止めて、ここを出なければ。泣いていることがバレてしまう。泣いたところで慰めてももらえないなら、一人で泣いたほうがいい。泣くならひとりだ。 (クリエイターの春田みつ

      • 谷崎潤一郎 人魚の嘆き

        この間ブックオフで110円で購入した谷崎潤一郎を読みました。 私は青空文庫ばかり読んでた時期がありまして、(今も読むんですけど) 「人魚の嘆き」と「魔術師」は青空文庫にはなかったなあ、読んだことないかも、と思いつい買ってしまったのです。 放蕩の限りを尽くして無気力になっている支那の貴公子が、オランダ人の人買いから買った人魚に恋をして逃げられるだけの話です。 こうして書くと、ただの滑稽無垢で意外性に乏しいおとぎ話ですよね。でも、ストーリーは関係ございません。谷崎先生の描写の

        • 最近読んだ本の感想

          「リピート」乾くるみさん  「イニシエーション・ラブ」が有名な乾くるみさん。知人から面白いと聞き、読んでみました。タイムリープミステリというものなのでしょうか。ネタバレ厳禁系です。 しょっぱなから「絶対に何かどんでん返しがある」という予感に満ちているので、続きが気になって一気読みしてしまいました。物語の進行に合わせて少しずつ伏線が回収されていくのですが、中盤からは先の展開がうっすら読めてしまうように思いました。主人公にあんまり共感が出来ないので、途中から物語に没頭出来ず、自

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        小説 月に背いて 1

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        • 短編小説アナザーワールド
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        記事

          雑記(自分の小説を読み返す)

          コニシ木の子さんに記事を紹介していただきました。  本当にありがとうございます。なんのはなしです課通信員として、日々精進して参ります。今後も活動報告をしていきたいと思います!  さて、昨晩から謎の微熱が続いてまして、感冒症状もないのになんでだろう?と首をかしげております。でも私は疲れたりするとすぐ微熱が出るので、あんまり気にしてはいないんですけど。  熱に浮かされると人間普段とは異なる行動をとるものです。コロナに罹患した時は、JK時代に聞いていた歌謡曲をエンドレスに流し

          雑記(自分の小説を読み返す)

          ワタナベの研究

           タイトル通り、私のくだらない話でございます。ご興味ある方のみお読みください。  私は怖い話が大好きで、実話怪談のYouTubeをほぼ毎日聞いています。とても不謹慎なのを承知の上で書きますが、心霊スポットを巡る動画も好きです。  で、そういったYouTubeによく出てくる 田中俊行さんという呪物コレクターの男性がいるのですが、私はその人がわりと好きで、一度お会いしてみたいなあ…なんて思っています。彼の唯一無二の世界観とトークが面白いんです。 検索していただければ分かる通

          ワタナベの研究

          雑記(最近買った本②)

          数日前、「文學界」を買いに近所の本屋へ行ったんですが売り切れでした。文學界新人賞受賞作品が読みたかったのですが。「ちぇっ」とか言いながらブックオフをはしご。色々買ってしまいました。  古い小説ばかりじゃなくて、現役作家さんの作品も読む!とか宣言しながら、結局こういうのを買ってしまうのです。 ていうか、こんなにたくさん読み切れるのだろうか。まあ別に腐るものじゃないし、いっか。 物が増えるのが嫌で、電子書籍と青空文庫ばかりだったのに、最近は頭のネジがゆるんで紙の本ばっかり買

          雑記(最近買った本②)

          読書感想 福井晴敏 終戦のローレライ

          フォローさせていただいている堀間善憲様のこちらの記事を拝読しまして、絶対に面白いに違いないと思い、中古本全4巻を購入しました。  映画化もされた、原稿用紙2800枚に及ぶ超大作です。小説は長編になればなるほど、「この部分、いる…?」という箇所が出てくると思うのですが、この小説に限っては無駄だと思える描写が一つもなく、一文字も取りこぼすことなく真剣に読みました。  ストーリーはwikipedia様にお任せしますけども。 かいつまんで言うと、終戦の夏を舞台に、ローレライという

          読書感想 福井晴敏 終戦のローレライ

          雑記(娘に叱られる)

          諸事情ありまして、3月いっぱいでパートを辞めました。すごく働きやすい職場だったので勿体ないけど仕方あるまい。3ヶ月くらいしたらまた看護師として働ければいいなと思っています。 そんな折、中学生の娘に、 「小説書いてるんだったら、もっと拡散しなきゃ駄目だよ!!noteだけじゃなくてXもやらなきゃ!!」 と叱られました。小説投稿サイトじゃなくて?? 娘にXのアカウントを作られそうになりましたが、「ちょっと待て!Xってわちゃわちゃしてて怖いんですけど!」と抵抗し、結局Bluesk

          雑記(娘に叱られる)

          YOASOBI もしも命が描けたら

          この曲のメロディーが妙に耳に残り、最近ずーっと聴いています。 旋律のイメージだけで小説が書けそうな素敵な曲だなあ…なんて思いながら歌詞をしっかり聞いてみると、いかにもワタナベが好きそうなストーリー性をはらんでいるんですね。ああびっくり。 同名の舞台のテーマソングのようです。なるほど納得。  命を他人に分け与える能力を月から授かって、それを愛する人のために使うみたいな歌詞です。自分の命と引き換えに。  たぶん私は、そういう小説を無責任に書いてしまうタイプだと思うんですけ

          YOASOBI もしも命が描けたら

          むかし私が会った犬

           私は看護学校卒業後、勤務先の病院の寮に入っていた。その寮は病院から線路を隔てた北側にあり、直線距離で言えば200メートルにも満たないのだが、踏切があるせいで通勤にはなにかと時間を要した。  特に準夜(勤)が終わり深夜に寮に向かうと、必ずといっていいほど踏切で足止めを食らった。貨物列車が通るのだ。貨物列車はとにかく長い。長過ぎる。全長1kmは優に超えているに違いない。冷静に考えればそんなわけがないことはすぐに気づくのだけど、疲れ果てた脳みそはもうだめだ。ああ、貨物列車。どこ

          むかし私が会った犬

          小説 月に背いて13(最終話)

          「葉月」  井川くんが軽トラックの運転席から大声で私を呼んだ。 「これで荷物は全部だよな。もともと家具のある家だからたいした荷物じゃなかったな。わざわざ軽トラ借りなくても俺の車で十分だったかも」 「手伝ってくれてありがとう。本当に助かった」  三月下旬になった。私は叔母の家からさらに職場へ近いアパートに引っ越すことにした。荷物を軽トラに積み込み、引っ越し先へ向かうところだった。  生温かい風が吹いて、緑が芽吹く匂いが流れた。柔らかな陽射しを受け、庭にいた燕が羽音を立

          小説 月に背いて13(最終話)

          小説 月に背いて 12

           私達が海にたどり着いたのは17時過ぎだった。太陽は西へ落ちる直前で、辺りは夕闇に染まり始めていた。一面茜色の空には折り重なった薄雲がゆっくりと流れていた。  海水浴場の駐車場に車を停めて、私達は手を繋ぎながら砂浜まで歩いた。お互い何も話さなかった。身を切られるような寒さとともに耳を劈く大きな波音が肌を刺す。小さな貝殻を踏む感触を確かめるように歩を進め、波打ち際まで辿り着いた。誰もいない砂浜で恐ろしい波音を聞いていると、この世の果てまできてしまったような感覚がした。  水

          小説 月に背いて 12

          小説 月に背いて 11

           井川くんと神社へ行った翌週、佐田先生が車の衝突事故にあった。一時停止をせずに優先道路に進入してきた車に助手席側から衝突されたようだ。車は廃車となるほど損壊したが、彼自身は軽い打ち身だけで済んだ。私はそれから全く事故を目撃しなくなった。  しばらく会わないようにしようと先生に伝えなければならない。そうしないとさらに悪いことが起こるという予感が頭に纏わりついた。とりあえず今は会うのをやめよう。次に会った時必ず伝えよう。そう自分に言い聞かせながらも私は、彼が今ひとりで何を考えて

          小説 月に背いて 11

          雑記(夫の獲物)

           夫が突然狩りに出かけました。仕留めた獲物がすごかったので思わず写真をとってしまいました。 これ全てUFOキャッチャーで1800円でとったんですって。どうやったらこんなデカいのがとれるんだ??夫、あんたすげえよマジで。  東日本ではカールはもう販売していないので、夫はとても喜んでいました…。こういうのもたまには良いでしょう。  さて、「月に背いて」を読んで下さっている皆様、本当にありがとうございます。自分の文章を直しているうちに、日本語がわからなくなる奇病が再発しました

          雑記(夫の獲物)

          小説 月に背いて 10

           それから私は毎日同じ夢を見るようになった。眠っている佐田先生の首に両手をかけて殺そうとするのだ。あまりにも同じ夢ばかり見るうえに、現実と区別がつかないほど鮮明な映像なので、怖くて眠れなくなった。このままでは本当に殺してしまうのではないかと震えたが、先生には勿論のこと、誰にも相談は出来なかった。もうどうしたらいいのかわからない。  井川くんとの約束の日が迫っていたが、もしかしたら彼は来ないかもしれない。それはそれでもう仕方がない。私もどんな顔をして会えばいいのかわからなかっ

          小説 月に背いて 10