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読書感想 横光利一 碑文

 横光利一の短編小説です。青空文庫で読みました。短いのですぐ読めます。
一度読んで心臓を撃ち抜かれてしまい、もうすでに10回くらい読んでます。時々自分は頭がおかしいのではないかと思うことがあります…。

 未曾有の大降雨により都市が滅亡していくさまが淡々と、一人称や三人称ではなく神視点(ってやつ?)で書かれています。とても硬い文章なのに臨場感があって、架空の都市のフィクションとして受け流せない、明日にでも我が身に起こるのではないかと思わせる独特な描写です。
 ですが、同時に少々難解な文章でして、ところどころ(私には)読めない漢字もあり、きちんと読みこなせている自信がありません。それでも良ければ読み進めていただければと思います。

 ヘルモン山の上にあるガルタンという都市は、いつから降り始めたのかもう誰もわからないくらい雨が降り続いています。市民は空を見上げることに飽き、酒に溺れていきます。それでも深夜になると皆頭が冴え渡り、楽器を演奏したり見ず知らずの者と集団を作って舞踏を踊ったりします。

 それでも雨は降り続きます。日に日に市民の死者が急増していきます。そしてある賢者の自殺をきっかけに市民のあいだに自殺が流行します。自殺の流行が衰え始めると、今度は殺人が流行します。
そして、殺人の流行のあとには、市民の肉体に激しい性の衝動が高まっていきます。

しかし、彼らはその生の終末に臨んで、各々廻廊の壁に市民の罪業の数々を刻みつけた。彼らの懺悔の心は、彼らの過去の悪業を刻み、彼らの怨恨は、生き残る市民の秘めた悪徳を彼らに刻ませた。このため、日ならずして城市の壁は、穢れたガルタンの罪跡を曝露した石碑となつて雨に打たれた。

  引用 

 終末の場に居合わせた人間達は、この作品と同じような経過をたどるのではないかと強く感じました。例えば核ミサイルが落ちたとき、生き残った人間達が残り少ない資源を分け合い、知恵を振り絞って互いに助け合うとは到底思えないですよね。一縷の希望もなくなった時、人は恐怖から逃れるために酒や薬に溺れ、自死を選択し、果ては殺戮に及ぶのだろうなと思います。古代の架空都市の出来事ですが、そういうところに妙な臨場感を感じます。

 また、こういう陰惨を極めた重苦しい物語は、書く人の描写によってはもう二度と読みたくないと感じさせるものになると思うんですね。(そういう描写も必要だと思いますが)
 でもそれを、「文学という芸術」として完成させる表現力にとにかく感動してしまいました。だって10回も読んじゃったもんね。

 好き嫌い分かれる作品だと思いますが、青空文庫で無料で読めますので、よければぜひ一度お読みになってみてください。
読んでいただきありがとうございました。皆様の幸運をお祈り申し上げます。


Note創作大賞に応募しています。
ご一読いただけると幸いです。




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