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フマジメ早朝会議 ⒑焚き火と告白 連載恋愛小説

ふだんは、健康的な時間帯に顔を合わせている人たちと、今宵、暗闇で密会する。
広大のもうひとつの主催グループ「焚き火会」に、BK5も合流することになった。
仕事で都合がつかないと、数仁かずひさは不参加。

「ねーねー。スモア食べれる?」
「恭可さんは、食うことしか頭にないんすか?」
焚き火といえば、焼きマシュマロをチョコとクラッカーではさむアレを食すものだと、相場が決まっているではないか。

ギターを伴奏にフォークソングでも歌うのかと思いきや、TBKのメンバーは人生ゲームをやりだした。
コマに止まるごとにそれぞれが人生を語る、なんとも重めなヤツである。

それでも、静かなキャンプ場でパチパチとはぜる炎を見つめるのは、心が凪ぐ。
初対面のぎこちなさもなんのその、なごやかに会は進んでいった。

***

「私、最近むなしくて」
と切り出したのは、朝香。
SNSでは評価が目にみえて楽しいが、実生活は真逆だと彼女は告白する。

晩婚だったので、子どもはできてもできなくてもかまわない。
夫婦間で決めてはいたが、親たちは納得がいっていなかったらしい。
ことあるごとに、圧をかけてくる。
「あっちの親は、私を使えないヨメって思ってるみたい」

デリケートな話題ゆえ、さすがにどう声をかけていいかわからない。
恭可が朝香をただ見つめていると、彼女は突然笑いだした。
ストレスで気でも狂ったか、と参加者に緊張が走る。

「なんで、きょうかがハナたらしてんのー?」
「あ…あさかさんは、ぱーふぇくとです」
鼻をすすりながら、なんとか伝える。
「そのままですてきだって、言いたいみたいですね」と苑乃子が通訳。

***

ホットワインとスモアが沁みる(未成年・苑乃子はココア)。
「炎って、なにか本能に訴えかけるものがありますね」
いつも以上に哲学者めいている苑乃子。
青年の主張をしたくなりました、と立ち上がった。

揺れる光は彼女のまつ毛や鼻筋の陰影を濃くし、揺るぎない表情を浮かびあがらせる。
「私は、椿野広大さんが好きです」と、まっすぐに会長に告げた。
一拍の沈黙のあと、うえ~い、とノリのいいTBKさんたち。
広大をもみくちゃにしてからかいながら後片づけをし、解散と相成った。

***

「なにがあっても、息子さんと別れるつもりはありません」と、朝香は義理の母親に宣言したという。
「いやー、そのちゃんがかっこよすぎてさ。私もいっちょかましてやるかと」
首がもげそうなほど、恭可も同意する。
「浮気したら即、斬る」方針に、変わりはないとのこと。

フラれましたけどね、とクールに明かす苑乃子。
よくよく聞いてみれば、断ったというより保留めいている。
「広大のくせして、そのちゃんをキープだあ~?」と朝香は怒り心頭。
今は学業や起業のことでで頭がいっぱいで、恋愛は考えられないと。

「でも、いいんです。人の感情って、そんな単純なもんじゃないから。これからは意識してもらえる。告ったもん勝ちです」
ほ~う、と聞きほれてしまう20代&30代女子。
会長が陥落させられるのもそう遠くないなと、恭可は確信したのだった。

(つづく)
▷次回、第11話「執事と出展」の巻。


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