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フマジメ早朝会議 ⒚過ちの後始末 連載恋愛小説

これぞ、やらかし案件。
衝動というか事故というべきか、まさに過ちである。
こんなことにならないよう、恋愛対象かどうか最初に確認したはずなのに。

***

「女性の好み聞いていいですか」
あれは、たしか屋敷数仁かずひさがBK5に参加して1カ月経ったころ。
合コンみたいな質問だと、広大がチャチャを入れる。
「あ、大丈夫です。そういう色っぽい意味ではなくてですね。いわば市場調査といいますか…」
嫌そうな表情を隠せていない数仁は、タイプなど考えたことがないと言う。

「そこをあえて、でお願いします」
恭可のマジメくさったようすに何かを感じたのか、彼はしばらく思案する。
その口が発したのは「自立した女」というワードだった。

***

恭可の肩から力が抜けた。
自慢じゃないが、栗林恭可は経済的にも精神的にも自立からはほど遠い状態にある。
つまり、圏外。まごうことなき対象外である。
自意識過剰というわけではない。
シュミ友・オタク仲間として気負わず交流できそうだとわかり、ほっとしたのだ。

仮にも色恋が絡めば、やっとできた居場所が泡と消える。
それだけは耐えられない。
その日を境に、恭可は新入りの前で猫をかぶるのをやめ、自分を作らないことにしたのだった。

***

「いやいや、アナタのっけからエンジン全開だったよ?」
と朝香ねえさん。
「遠慮って言葉は、恭可さんの辞書にはないものとばかり…」
涼しい顔してキツイ苑乃子(10コ下)
いつもなら、このふたりにお悩み相談するのだが、さすがにベラベラしゃべる内容ではない。
みずからみかを荒らすようなものだ。
こつ然と消えた万年筆の喪失感も相まって、落ち着かなくてふわふわする。

***

「顔色悪いなあ。ほれ」
ほわほわと湯気の立っているスープを出してくれた。
「うー…マスターの養女になる…」
今から養う気はねえ、と一刀両断。

ジャガイモ・玉ねぎ・キャベツなどのお野菜をとろとろに煮たものを、さらにブレンダーで攪拌かくはんし、クリーミーな口あたりに。
生クリームやチーズも入り、濃厚な味わい。
マスターの特製ポタージュは、体も心もあっためてくれるごちそうだ。

土曜に集まって、女子会ランチ。
厚焼きたまごサンドは、その名のとおり分厚く、プルプルのほわほわ食感。
卵液に米粉を加えているからだとか。
「しあわせ~」とため息がもれるのは、全人類共通の条件反射であろう。
「ポタージュ&たまごサンド、このチーム強いっす」と、恭可は親指を立てた。

***

部屋が物であふれ、ちらかっていそうだと予想をたてられる。
ハイ、そのとおりでございます。異論ございません。
自称アーティストのアトリエですので。
「料理の手際だけは、異様にいいんだよ。こっちが焦るくらい」とマスター。貧乏人&鍵っ子は自分で作るしかなかった、というだけの話。

癒やしタイムをおすそわけ、と朝香がくれたのは、ネイルのお試しチケット。
「そのへんのカウンセラーより話聞いてくれるよ」とのお墨つきだ。

(つづく)
▷次回、第20話「幸運の女神」の巻。



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