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Re:脚本ユニット 一ノ瀬姉妹 ⒋鉢合わせ 770字 全7話

自由奔放、天衣無縫を絵に描いたような人間だが、伊織は案外、繊細だ。
なにごとにも敏感で神経を張りつめているせいか、なんの前兆もなくスリープ状態に入ってしまうことがある。
その日も、突然倒れた伊織にブランケットをかけ、どうしたもんかと純は寝顔を見つめていた。
サブスク映画祭をしようと誘ってきたくせに、1作目からダウンしたのである。

***

鍵の差しこまれる音がして、背の高い人物が入ってきた。
「…もう女連れこんでんの、こいつ」
ソファでだらりと眠りこけている伊織と、そばに寄り添っている自分。
まるで事後のような空気にみえたのではと、純はヒヤリとして立ち上がった。
「あの、誤解です。私、伊織さんの仕事を手伝ってまして」

別れたてホヤホヤの、伊織の元カノだ。
伊織の恋愛期間中は、恋人と鉢合わせすることがないよう細心の注意を払っていたのに、まさかの事態である。
やり直そうとしているとか、微妙な段階だとしたら、まず過ぎる。

彼女はとくに表情を変えるでもなく、あっと声を上げた。
「あんた、もしかしてジュン?」
「え…」
「伊織がジュンジュンうるさいから。で、もう住んでるわけだ」
めまいがするかと思うくらい、純は首を横に振った。
「でも、通いつめてるっしょ?」
そこは否定できない。

***

伊織は生物学的に男性で、純の妹でも家族でもない。
母方のおばあさんがイギリス出身で、彼女の血を引いてか、伊織は透き通るような白い肌とすっと通った鼻筋の、中性的な顔だちをしている。
そのせいで、過去にいろいろあったのだろう。
個性的すぎる今の性格は、みずからを守るために身につけたものだ。

結局、彼女は自分の荷物を回収して、あっさり帰っていった。
才能に惚れこんだだけでなく、純は最初から清瀬伊織という存在に惹きつけられた。
仕事上のパートナーとしてそばにいると決めてから、思えばけっこうなイバラの道だった。

(つづく)


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