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スマートほすぴたる シロクマ文芸部

変わる時の流れを、だれもが感じているのだろうか。
「大変申し訳ございません!」
病院のスタッフが、じーちゃんに頭を下げた。

10分もお待たせするなんて…と彼は青ざめている。
まあ、画像の角度によっては、皮膚はオレンジがかって見えるのだが。
じーちゃんは、めったなことでは怒らない人だ。
大丈夫ですよ、とやはり穏やかに笑っている。
僕は指を伸ばし、宙に浮かぶキーパッドに入力してスタッフを消した。

昔の医者はエラそうで、診察は3分しかしないくせに病人を平気で数時間待たせる―そんな非常識が、まかり通っていたという。
「え…まじで。半日つぶれるってこと?そのあいだ何してたの?」
「なんにも。ぼーっと座ってるだけ」
「は?コーヒーぐらい出たっしょ?マッサージは?」

じーちゃんは、僕の反応に楽しげだ。
「おかしいでしょ。しんどくてもわざわざ出向いてんのに、放置て」
予約してもほかの患者と変わらず待たされる―という理解不能なエピソードに、僕は開いた口がふさがらない。
「それ、予約じゃねーから!」
当時の病院に、おもてなし精神は皆無だったようだ。

***

今ではたいていのことはオンライン診療で済み、薬も無料デリバリー。
医師免許がかんたんに手に入るため、人間ドクターの地位は低い。
健康診断では、カプセルに入りAIで全身を自動判定。
血を抜かれることもない。

だが、すべてがスマート化された一方、人間は反スリム化。
運動不足からくる肥満が社会問題に。
病院までえっちらおっちら徒歩で通うよう、義務づけられている。
昔と今、どちらがよかったのだろうか。
僕は待合室の高級ソファで激マズのダイエットコーヒーを飲みながら、20年前を夢想した。

(おわり)

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