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居眠り猫と主治医 ⒙合鍵のゆくえ 連載恋愛小説

まさかのブツがテーブルに現れ、文乃は目を疑う。
「なんですか、これ」
「見てのとおり、カギ」
「どこの」
「ここの」
合鍵といつまでもにらめっこしている文乃の手を開かせ、祐はしっかりと握らせた。

「体調悪かったり、気が乗らなかったら、拒んでいいから」
会うたび関係していたら、品性を疑われると彼は主張する。
その手が文乃の髪をほどいている自覚はないらしい。
おかげで、まとめ髪はラフにしておくのが習慣になりつつあった。

「片方が欲求を通してるだけだと、長続きしない」
「長続き…」
「何がしたい?」
くっついて眠りたいという文乃の希望は、結局後回しにされた。

「きれいさっぱりなくなっても、知らないよ?」
「なにが」
「金目の物?」
ふっと笑ったあと、きつく抱きしめてくるので文乃の心までぎゅっとなった。

***

毎日ひとりで眠っているベッドに他人がいれば、寝づらくてしょうがないと
思うのだが、彼は気に留めるようすはない。
「ずっと同じ姿勢だと肩が凝るから、私のこところがしてでも寝返り打っていいから」
反応がないので、蹴とばしてもいいと付け加えてみる。

「…え、うそ。もしかして、私が蹴とばしたり暴れたりしてる?」
なんでそうなる、と鼻をかじられた。
「抱き枕に申し分ない、寝相の良さですよ」

安心してその胸に顔をうずめ、おさまりのいいポジションを探す。
「落ちついた?」
「…うん」
「は、マジで猫みてー」
そのあたりで強烈な睡魔に襲われ、おやすみを言えたどうか定かではない。
使うつもりのなかった鍵は即刻返却され、家主の不興を買ったのだった。

(つづく)

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