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〈特別対談〉平山夢明 ×澤村伊智

『独白するユニバーサル横メルカトル』『ダイナー』などの刺激的な作品で、ミステリ界に唯一無二のポジションを占める鬼才・平山夢明ひらやまゆめあき。その作風と人間的魅力で、プロの作家にもファンが多い。最新長編『斬首の森』が本誌に掲載されたホラー小説の騎手・澤村さわむら伊智いちも、平山ファンを公言する作家の一人。混乱の時代に今、ホラー作家が書くべきものとは? 澤村氏たっての希望で実現した特別対談をお届けします。

取材・文=朝宮運河

平山夢明〈左〉「読んだ人が顔をしかめてると、胸の奥がぽかぽかしてくるよね(笑)
澤村伊智〈右〉「何だかんだいって人を怖がらせるのが楽しいんだと思います」

撮影/白倉利恵(二〇二二年九月二十六日 光文社にて収録)

衝撃の平山ワールドとの出会い

――本日は澤村さんのリクエストで、お二人の対談が実現しました。

平山 大丈夫? 出版界には俺なんかよりもっとすごい人がいるじゃない。きょうちゃん(京極夏彦きょうごくなつひこ氏)とか岩井いわいあね(岩井志麻子しまこ氏)とかさ。

澤村 いえいえ、平山さんの作品はずっと拝読してきたので緊張しています。平山さんのお名前を初めて認識したのは、多分『映画秘宝』のコラムだったと思うんですよ。当時はデルモンテ平山というお名前で。

平山 はいはい、あのわけの分からない映画評でしょ。ねもっちゃん(根本敬ねもとたかし氏)が絵を描いてくれていたやつ。後半どんどんおかしくなっていってさ、焼き肉屋の紙にイラストを描いたりしてたんだ。そうですか、あれを読んでくれてたんですか。

澤村 この方は確か怪談も書いていたはずだ、と本屋さんに行ったら平山夢明名義の『怖い本』が置いてあって、読んだらむちゃくちゃ怖かった。僕が実話怪談と呼ばれるジャンルを読み始めたのは平山さんからなんです。

平山 当時は「あんな本を書いたら筆が荒れる」って業界の先輩に怒られたんだよね。怪談なんて読み捨ての、ポルノみたいな本だからって。読者から作家が出てくるなんて、当時は想定もしていなかった。

澤村 その後、色んな怪談を読みましたけど、『怖い本』ほどの衝撃は味わえなかったですね。出会い頭にぶっ殺されるような読み味でしたから(笑)。

――澤村さんは平山怪談のテクニックにも影響を受けた、と以前どこかでお書きになっていましたよね。

澤村 ええ。平山さんは怪談の「わく」をあえて書くじゃないですか。今、まさに取材している居酒屋の風景ですとか。ああいう感じがすごくテクニカルだなと思ったんです。

平山 人にお化けの話を聞いて何が面白いって、怖い話をしている場の空気だったりするわけ。今はネットがあるからすたれたけどさ、俺らの頃は人が集まったら馬鹿話かうわさ話か、怖い話。あの雰囲気をそのまま書いてみたの。

澤村 体験者の職業もリアルに書かれていましたよね。焼却炉の掃除をする人の眼鏡がドロドロになって溶けたとか、怪談以外のディテールだけで十分面白い。こういう細かい技術のうえに怪談は成り立っているんだな、っていうのは新鮮な発見でした。

平山 俺らの商売は「なんだ、つまらない」と言われたらその時点でおしまいなんだよ。研究書やノンフィクションを書いてるわけじゃないし、読んでる間どれだけ心のさが晴れたかじゃない。そのためにはあれこれ策をろうするよね。たまに「全部本当にあったことですか?」って真面目に聞いてくる奴がいるんだけど、ずいぶん(頭が)あったけえ人だなって思うよ(笑)。怪談っていうのは手品と一緒で、いきな遊びなんだから。今が怪談ブームだというのなら、もっと表現をぐべきだよね。たとえば杉浦すぎうら日向子ひなこちゃんの『百物語』なんてすごいじゃん。読んだことある?

澤村 傑作ですよね。杉浦さんが下敷きにされている元の江戸怪談を読んでいると、そこまで面白くなかったりするんですけど、あのパースが妙に強調された絵柄で見せられると、異様に怖い。

平山 そうそう。しかも一話ずつ筆致ひっちが全部違うでしょ。あの境地に近づきたくて江戸怪談を書いてみたけど、やっぱり難しかったね。

澤村 怖い話を書くのは難しいですよね。文法的な正しさは気をつけられますけど、怖い話としての正解は書いてみないと分からない。

平山 何が難しいって、書いてる当人が全然怖くないってことだよ。それを書き切るってことは、もう度胸の問題になってくる。度胸がないとオロオロして前置きが長くなるんだけど、一瞬で読者に見透かされるよ。そういう意味では芸事げいごとに近いんだと思う。噺家はなしかさんがオチを知っている落語を初めてのようにしゃべる、っていうのに近いんだろうね。


――お二人にとって、怖い話を書き続けるモチベーションとは?

澤村 何だかんだいって人を怖がらせるのが楽しいんだと思います。大変なんですけど、険しい山に登ること自体も面白いというか。

平山 おれも人をあっと言わせるのが昔から好きなわけ。怖がらせたり、あきれさせたり。読んだ人が顔をしかめてると、胸の奥がぽかぽかしてくるよね(笑)。

澤村 以前、自分のとよく似た小説をネットに投稿している人を見つけて、やったなと思いました。言葉は悪いですが、パクられるくらい広がってるなって。

平山 おれも昔書いた怪談がどっかでしゃべられてると、ばらまいてやったって気がして嬉しい。怪談なんて大人のおもちゃみたいなもんなんだから、めいめい遊んでくれたらいいんだよ。あ、ここで言うおもちゃはいい意味でのおもちゃですよ(笑)。

ジャンルレスなエンタメ小説を目指して

――印象深い平山小説は?

澤村 勤めていた頃に、知り合いの知り合いが「ホラーとか好きなんだったら、これ読んでみたら」と薦めてくれたのが平山さんの『SINKER 沈むもの』だったんです。あれは平山さんがお好きなものを全部詰め込まれている感じですよね。残酷描写とか、SF要素とか、『羊たちの沈黙』とか。

平山 『異常快楽殺人』って犯罪ノンフィクションを出した後、編集者に小説を書きたいって言ったんだよね。そしたら平山さんは無理、ノンフィクションはテーマがあれば書けるけど、小説はセンスがいるからって言うわけ。なんだよと思ってさ。結局、別の出版社が『SINKER』を書かせてくれたんだけど、自分に小説が書けるって証明することに必死だったね。

澤村 『SINKER』にはその後の平山作品に出てくるモチーフやテーマがすでに表れている。作風が一貫されているなと思います。

平山 好きなものはいつまでもでてるタイプだから。子供が泥団子を撫でて光らせるみたいなもんでね。

澤村 『羊たちの沈黙』は僕も大好きなんです。やっぱり名作ですよね。最も狂ったキャラクターが最も紳士的である、という逆説的な設定にしびれました。

平山 あれはシャーロック・ホームズと連続殺人鬼を合体させたんだよ。レクターを演じたアンソニー・ホプキンスはそれまで『マジック』とか『エレファント・マン』に出てた俳優という印象で、レクターは無理じゃないかと思ったけど、見事に演じきったね。

澤村 原作のレクター博士はもうちょっと線が細い感じなので、若干イメージは違いますけどね。原作と映画の違いでいうと、時間的な制約から仕方ないことなんですけど、重要なシーンを割とはしょっている。

平山 小説って時間芸術じゃないから、一冊読むのに何年かかろうが構わないんだけど、映画は決められた時間の一方通行だから。小説みたいに細かくエピソードを追っちゃうと間延びするんだよ。逆に小説で映画みたいにテンポよく書くと、薄味に感じるんだよね。たとえば『ゴッドファーザー』のラストも、原作だと洗礼式と暗殺とドンの死はそれぞれ別々の場面だからね。それをコッポラの映画は同時進行で見せてる。


――平山さんのホラー短編もお読みになっていますか。

澤村 『異形コレクション』に書かれていた短編は全部読んでいますし、全部好きです。個人的なベストは『教室 異形コレクション』に書かれた「実験と被験と」ですね。あれもシリアルキラーの話で、被害者家族がぼろぼろになっていく。もうひどい話なんですけど、最高だなって(笑)。「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」(『夢魔』所収)も好きですね。

平山 あれもひどいよね。当時はあんな小説ばっか書いてたせいで、まっちゃん(町山智浩まちやまともひろ氏)の奥さんに「うちに電話してこないで!」って怒られたんだよ(笑)。『異形コレクション』って井上いのうえ雅彦まさひこ)さんは目利きだし、書いてる作家も超一流の人たちじゃない。そこにぽっと出のライターが交ざるんだから、いいものは書けないにせよ、せめて目立つものを書こうと思ったんだよね。順位はビリでもパンツが破れて尻が見えてるみたいな。

澤村 確かにグロテスクな表現が多いんですけど、妙に恰好いいんですよね。自分にはあの翻訳小説のような雰囲気は出せないので、羨ましいなと思っています。

平山 俺は読むのはそっち(海外小説)が多いからさ。あと日本人の普通の名前を付けるのが苦手なんだよ。何野何夫なにのなにお、みたいな主人公はどうも書く気が起きない。

澤村 それに現代が舞台の作品にも、さらっとSF的なアイデアを取り込んでいますよね。あの全部のせ感というか、ジャンルの壁を軽々と飛び越えていく自由さはすごいなと。

平山 あんまりSFに詳しくないから書けたってのもある。まわりに詳しい人がいると、つい萎縮いしゅくしちゃうじゃない。俺の友達なんて本読んでる奴が一人もいなくてさ、「書物しょもつなんて書いてるの? すごいですねえ」って世界だから。

澤村 ジャンル意識でがちがちに固まるのも先がないので、踏み越えていきたいと思うんですけど、無節操むせっそうに混ぜればいいというものでもないですし……、難しいです。

――澤村さんの作品もホラーとミステリのジャンルミックス色が強いですよね。

澤村 デビュー作の『ぼぎわんが、来る』がミステリっぽいホラーだったこともあって、そういう傾向の作品を書いています。先人として三津田みつだ信三しんぞうさんがホラーミステリを書かれていましたし、平山さんもジャンルレスな作風だったので、抵抗なくそれができました。

平山 俺もホラー作家と呼ばれることが多いけど、ホラーだけを書いてるわけじゃないからね。『ヤギより上、猿より下』とか『あむんぜん』とか、あんなホラーはないじゃん(笑)。それでも文句があるなら言えって思ってるから。小説って読者との喧嘩けんかみたいなところがあるじゃない。相手をぐっと押さえ込んだらこっちの勝ちだし、途中で本を投げ出されたら向こうの勝ち。

澤村 確かに読者と仲良くなろうと思って書いてないですね。一発喰らわせてやろう、という意識が強いです。SNSをやっているとつい読者と親しく交流しがちなので、気をつけたいと思っています。

平山 それは澤村さんの読者がちゃんとした方々ばかりだからだよ。俺の読者なんてSNSで「どうやったら人を解体できますか」とか、そんな質問しかしてこないよ(笑)。

ひらやま・ゆめあき 1961 年、神奈川県生まれ。2006 年「独白す るユニバーサル横メルカトル」で日本推理作家 協会賞(短編部門)を受賞。2010 年刊行の 『ダイナー』で日本冒険小説協会大賞と大藪春 彦賞を受賞。


現代社会がホラーに与える影響

澤村 今日対談させていただくにあたって、平山さんの『恐怖の構造』というエッセイを読み返してきたんです。平山さんはホラージャンルからの影響を、それほど受けておられないようですね。

平山 ショッカーとかスプラッター映画って観た瞬間は驚くけど、そんなに残らないよね。それよりは『ゴッドファーザー』とかの方が残る。あの映画の怖さって、自分が進みたい方向にどうしても行くことができないっていう絶望感じゃない。それは誰にとっても身につまされる話なんだよね。

澤村 ポランスキーの『テナント』という映画もお好きだと書かれていましたね。パリのアパートに住んだ主人公が疑心暗鬼に駆られていくという話で。あれは僕も好きなんです。

平山 あの映画はヴィシー政権下のフランスの同調圧力の怖さを扱っているけど、ああいう空気って今の日本でもあるじゃん。だから表面的なジャンルより、作り手側がホラーと思っているかどうかが大事だと思う。

澤村 と言いますと?

平山 『ジョニーは戦場へ行った』なんて完全にホラー映画だと思うけど、反戦映画として観られてるわけだよ。それだけ恐怖っていう感情は深く張り巡らされているし、大きなドラマを作っていれば、必ずホラーの要素が入ってくるものだと思う。

澤村 確かに、いわゆるホラーじゃなくても怖い映画っていっぱいありますね。僕はフェリーニの『青春群像』っていう映画がめちゃめちゃ怖いんです。イタリアの田舎町の青年グループが、「俺たちは跳ね返って生きるぜ」と言ってるんだけど、いつまでもやんちゃしていられないって地元になじんでいく。それがまた幸せそうなんです。その中に一人だけ「このままじゃ駄目なんじゃないか」ってふと気づく青年がいて……。自分も地方出身なので、なんて怖い話なんだ、と心臓がぎゅっとなりました。

平山 いい話だねえ(笑)。今おっしゃった自己実現や生存権が侵される恐怖。そういうのも立派にホラーの核になる。っていうか、ただの「面白いホラー」なんてこの時代、誰も読まないんだよ。面白いものなんて他にいくらでもあるんだから。小説って残念な娯楽で、何かをやりながら読むことはできないんだよな。ラジオだったらラーメン作りながらでも聴けるけど、本は集中して読むしかない(笑)。それでも読むべきものが入っていれば、人は無視できないんだと思うよ。逆にそれがない小説は厳しい。書くべきテーマは日々のニュースに転がっているからね。政治のことでも、犯罪のことでもさ。


――澤村さんの作品も、家族のあり方など現代的なテーマを扱っていますよね。

澤村 そこはよく指摘されるんですが、間口を広げるという以上の意図はないですね。個人的に思うところは当然ありますが、社会批判を作品に込めたつもりはなくて、その方が面白くなるので入れています。

平山 面白くなるっていうのが、社会と繋がるダイヤルになってるんだろうね。澤村さんはそのダイヤルがちゃんとしてるんじゃない。

澤村 たとえば今ゾンビものを書くなら、相当考えてやらないと駄目だろうなという思いはありますね。でないとホラー好きの内輪ノリになっちゃって、逆にゾンビに失礼だろうなという気がする。

平山 今やゾンビはマヨネーズと一緒だから。何に付けても合う(笑)。でも元祖のジョージ・A・ロメロはそんな発想していなかったはずなんだよ。あれはアメリカの人種問題や格差社会というテーマが、底にはちゃんとあるんだから。

澤村 自分の場合、どう書いても最後は現代社会と露骨に繋がった話になってしまいます。想像力がそこまで飛躍できないのかもしれない。社会から完全に切り離された話を書ける人は、ちょっと羨ましい気がします。

平山 それは人それぞれでさ、澤村さんの怖いと感じるものが現実方向なんだと思う。

さわむら・いち 1979 年、大阪府生まれ。2017 年『ずうのめ 人形』が山本周五郎賞候補に選出。2019 年 「学校は死の匂い」で日本推理作家協会賞(短 編部門)を受賞。2020 年『ファミリーラン ド』で第19 回センス・オブ・ジェンダー賞特 別賞を受賞。

子殺しの恐怖と『ばくうどの悪夢』

澤村 今日は、ぜひお聞きしたいことがあったんです。怪談作家の吉田悠軌よしだゆうきさんに『現代怪談考』という本があって、そこには現代の日本人がもっとも恐れるものは〝子殺し〟ではないか、と考察されているんですが、その例として平山さんの作品が挙げられているんですよ。僕から見ても平山さんは幼い子供が虐げられ、殺される話をくり返し書いてこられた気がします。その根底には、やっぱり恐怖があるんでしょうか。

平山 それはあると思う。子供って本来一番大事にしないといけない存在じゃない。それをターゲットにした犯罪には誰しも忌避感きひかんがあるから、作品の〝温度〟が上がりやすい。短編って少ない枚数で一気に温度を上げないといけないから、そういう理由で子供はよく使う。

澤村 僕は小説を書くうえでひとつ決めていることがあって、それは映画の『オーメン』や『ザ・チャイルド』みたいに、子供を邪悪な存在とする作品は、たとえフィクションでもやめようと。

平山 でも『オーメン』はキリスト教の問題があるし、『ザ・チャイルド』は大人世代への若者の異議申し立てみたいな側面もあるじゃない。

澤村 ええ、この二作が傑作であることに異論はないんですが、今書くものでもないのかなと。もっと福利厚生がしっかりしていて、みんな子供が大好きな世の中だったら、「子供はこんなに怖い」っていうホラーを書いたかもしれないですけど。

平山 なるほどね、筆が乗らないってことだ。

澤村 こんなに子供嫌いの世の中で書いても、あまり意味がないなと思うんですよ。

平山 それは澤村さんがまだ若くて、子供の世界と地続きだからだよ。楳図うめずかずお先生の漫画じゃないけど、もっと年を取ってその接続が切れると、子供がもっと異質なものに見えてくるんじゃない。

澤村 そうですね。子供がいるんですけど、まだ小さいんで。余計に悪いものに思えないのかもしれないですね。

平山 そりゃあ書けないよ。

澤村 それでも今度出る『ばくうどの悪夢』(KADOKAWA)という長編では、妊婦と子供が大勢殺されるんです。自分にとっての一番の悪夢を書いたら、そんな話になってしまいました。悪い子供は書きたくないけど、子供が殺される話は逆に今書いておくべきかなという気がしまして。平山さんも怖いものをそのまま書くことはありますか。

平山 あるある。それに怖いものって年齢とともに変化するでしょ。澤村さんくらいの時は死ぬのが一番怖かった。でもこの年になると仲のいい奴がどんどん向こうに行っちゃうしさ、死ぬのも悪くないかなっていう心境になってる。恐怖は変化していくから、その時々で怖いものを書いたらいいよ。

澤村 『ばくうどの悪夢』は平山さんの映画評へのアンサーでもあるんです。平山さんはよく『エルム街の悪夢』をホラーとは認めないと発言されていますが、僕はあの映画が大好きなので、反撃しておきたいぞと。

平山 別に嫌いじゃないよ(笑)。一作目なんてよかったじゃない、売れる前のジョニー・デップが出ててさ。

澤村 平山さんがお認めにならないのは全然構わないんですけど、平山ファンが真似をして『エルム街』を観もせずにディスり始めたら頭にくるなって思って(笑)。そんなこんなで自分史上最長の長編になってしまったんですけど。

平山 働き者だねえ。『斬首の森』も書いて、その書き下ろしもやって。そんなにたくさん書けないよ。俺なんて光文社の小説、十五年も出してないんだよ。

澤村 噂は聞いています(笑)。『ボリビアの猿』ですよね。

平山 京ちゃんがそれは「ブリガドーンだ」っていうの。何だって聞いたら、千年に一度だけ起こる怪現象だって(笑)。さすがに千年も経ったら死んじゃうよ。

澤村 それでも作品が待たれているんですから。平山さんはワン&オンリーの存在ですよ。

平山 澤村さんだってそうだよ。ホラー界を背負って立つ存在なんだから。今、おいくつですか。

澤村 四十三です。もう立派な中年ですね。どんどん同世代が死んでいっています。

平山 どういう環境だよ(笑)。四十代ならあと百冊くらいは書けますよ。若いうちに好きなことをどんどん書いたらいいんだよ。俺はしばらくホラーを書いていたら、そのうち馬鹿みたいなものが書きたくなって、今度光文社から『俺が公園でペリカンにした話』っていうひどい話を出すんだけど、さすがに真面目な小説に戻りたくなってきた。そんな感じで変わっていくからね。

澤村 そうですね。お話ししていて、あらためて平山作品にあちこちで影響を受けているなと再確認しました。

平山 世の中の人たちって毎日勉強や仕事で忙しくしていてさ、世の中にある不安や恐怖をはっきり言葉にすることができないじゃない。それを作品として明示するのが俺たちみたいな人間の仕事。ただ面白いだけじゃなく、ホラーを「読むべきもの」にしていかないとね。

澤村 面白いホラーが結果的に時代を映すこともありますしね。がんばって書き続けたいと思います。今日はありがとうございました。

《ジャーロ No.85 2022 NOVEMBER 掲載》


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