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英語のノートは初恋を砕いた

Dear.中1の俺

俺は英語のノートを恨んでる。

当時中1の俺はソフトバンクのワンセグ付きのガラケー。
赤外線通信で友達と画像を交換して、ズーキーパーっていうパズルゲームをしてた。
部活はバスケ部。なぜかわからないけど、ずっとバスケ部に入るって決めてたし、スラムダンクもあひるの空も読まずにバスケ部に入部。

おい、中1の俺、スラムダンクだけは読め。そしたらお前はもっとバスケが上手くなる。

そんなバスケ部で俺は生涯で1番長く付き合ういっぺーという男に出会う。
こいつ、人気者の称号を得たスクールカーストのトップオブザトップ。
そんな奴と仲良くなって、休み時間に2人で話していると、俺たちの話を後ろで聞いてケラケラ笑うメガネのぱっつんの女の子がいた。

「なんだこいつ」
「俺の話聞いて笑ってる」
1分後…
「かわいい」

中1脳シャバ男子の俺、それだけの理由で初恋。
マジで中1の好きになる理由ってそれくらいよな。
それくらいで丁度ええ。

おい、中1の俺、これからお前は英語のノートによってこの初恋が無惨な結果に終わる。
いつかタイムマシンができたら、俺はその日に帰ってお前の英語のノートを買ってくる。
いいか、何度でも言う。俺はどこにいても2008年の奈良県北葛城郡王寺町の山善ハイツに英語のノートを届けにいく。だからじっとしてろ。

ぱっつんが好きになった俺は、いっぺーに聞いてみた。
「あの子、どんな子?」
「ええやつやで、あとバスケ部のキャプテンの妹」

おい、中1の俺、だから言っただろ、スラムダンク読め。お前は桜木花道になれたんだぞ。

それから俺といっぺーはぱっつんを交えながら休み時間にケラケラ。

いっぺーは俺にぱっつんのメールアドレスを教えてくれた。
なんでできる男なんだって、28になった今でも思ってる。

昔使ってたSLが置いてある公園に夏休みの昼間にいっぺーと集まって、ぱっつんに送るメールを考えてた。
「笑」か「w」どっちを使うか、(^O^)/か^_^どっちを使うかで恋が左右されることもないのに俺といっぺーはダラダラ汗を流しながら真剣に悩んでた。
これが人生で初めての悩みかもしれない。
結局「w」を選んでメールを送る。
ぱっつん専用の着信音がなったら俺は何よりも素早くガラケーをシャッと開く。

おい、中1の俺、メールが来たらすぐ開く習慣は大人になった今、仕事に活きてくるぞ。それはそのまま続けとけ。

なんや感やでぱっつんとのメールが続きながら、俺の初恋の歯車がいい油をさしながら順調に回ってた。
レッドカーペット見た?とかRIP SLYMEすきなん!?俺も好き!って平成に刺さるワード連発の楽しいメール。
送る直前に、やっぱもう一回考えよって焦って送信取り消しを押すアレ。
なつかしすぎる。

隣のクラスっていう絶妙な距離感もかなりいい。
だんだん休み時間にいっぺーのところにいく理由が、いっぺーと話すことからぱっつんに笑ってもらうことに変わっていく自分の心情が可愛過ぎる。
淡い、淡すぎる。"純真無垢"としか形容できない空気を完全に纏ってる。
心底そんな気持ちが大人になった今羨ましい。

理由は、よく笑う子。
そんなことで俺は、気がついたら頭からぱっつんが離れなかった。

おい、中1の俺。今楽しいやろ。存分に味わえよ。今のうちに。初恋を…Xデーは…突然…やって…くる…か…ら……………バタッ

ある日、真面目に勉強もしてた俺の英語のノートの1冊目が終了した。
次の日英語の授業があることに夕方に気づいて、オカンに
「英語のノート買ってきて」ってメールした。
でもオカンは英語のノートを買ってきてくれなかったから次の日に俺はプリントの裏に板書した。
メール送ったのに〜ってブツブツ言いながら文句を垂れてた。

んで、休み時間にまたいっぺーのクラスに行って、話してると、後ろの席にぱっつんはいなかった。
遠くの方で女子で集まって俺の方をチラチラ見ながら喋ってる。いっぺーはなぜかニヤニヤしてる。

いっぺーは開口一番
「英語のノートなくなったん?」
俺はハテナハテナハテナ。
「なんで知ってるん」
「なんでも」(ニヤニヤ)

不思議で仕方ない。クラスの違ういっぺーがなんで俺のノート事情を把握してるのか。俺の顔見て分かったか?それなら親友確定やぞ。

「ぱっつんに教えてもらった」(ニヤニヤニヤニヤ)

ハテナハテナハテナ。
なんで?そもそもぱっつんがなんで俺のノート事情を把握してるのか。俺の顔見て分かったか?
それなら運命確定やぞ。

数秒後我に帰って
「どーゆーこと?」
「お前、ぱっつんに英語のノート買ってきてって頼んだんやろ?」

頼んでない。英語のノートを買ってきてと頼んだのはオカン。ぱっつんじゃない。

「頼んでないよ!?どういうこと?」
「昨日お前から英語のノート買ってきてってメール来たって言ってた」

青ざめた。

ぱっつんの方を見てみた。
チラチラ見てた目は、ドン引きの眼差し。

初恋の歯車がギシギシギコギコえげつない音を立てて、歯車と歯車の間には英語のノートが挟まって、軟弱な歯車が完全に大破した。

「まじ!?間違えた!オカンに送ったつもりやったのに!え、きもいって言ってた?引いてた!?なんて言ってた?!やばい!」
「いや、笑ってたよ」

いっぺーの優しさでしかない。だってほら、ぱっつん、いつも笑ってる目が笑ってない。周りの女子にもなぜか睨まれてる。周りの女子は睨むなよ。俺はその時から"周りの女子"という存在がとにかく苦手で仕方ない。

周りの女子達からの完全な鉄壁によって弁解もできずに、俺の初恋は終わった。家に帰るとまっさらな英語のノートが置いてあった。
クラスと名前を書いた。

小声で
「I My Me Mine You Your You Yours…」
とブツブツ言いながら書いていく。

これが死んだ初恋に唱える念仏か。
自分で自分の初恋にどデカいピリオドを打った。

fin.


p.s
おい、中1の俺、お前の初恋は1通のメールで儚く散る。
でもな、これだけは言っておくぞ。
お前に試合終了のブザーは聞こえたか?
俺には聞こえなかったぞ。
後半第3クォーターは確かに終わったし、点差で言えばダブルスコアの危機的状況。第4クォーターで巻き返すのも正直厳しいよな。

でもお前に残された第4クォーターの時間は2年。
お前はこれから一瞬で過ぎるこの2年間で、大逆転大勝利を収める事になる。
この状況から一気に巻き返すんだぞ。信じられるか?
だからぱっつんのこと、絶対諦めるなよ。

俺は言ったぞ。スラムダンク読めって。

諦めたらそこで試合終了ですよ…?

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