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谷崎潤一郎のアンファン・テリブルを探して日本橋浜町へ

※見出し画像:日本橋浜町から見た新大橋

アンファン・テリブル(enfant terrible)は昔も今も大流行

子どもは素直でかわいい、はず。
その子どもが大人の矛盾を無遠慮に突く質問をしたり、大人の忖度をあざ笑うような態度を見せる。当然、大人はうろたえます。
それが「アンファン・テリブル=恐るべき子どもたち」。フランスの作家、ジャン・コクトーが発しました。

私がこの単語を知ったのは最近ですが、意味は昔から知っていました。
そりゃそうよ。
アンファン・テリブルが活躍する漫画大国、日本に育ったのですから。

クレヨンしんちゃん、コナン君、パタリロ殿下、ホームアローンのケビン君(ケビンは米国)。
演劇漫画『ガラスの仮面』の名セリフ「マヤ恐ろしい子」も、きっとそうでしょう。
アンデルセン童話「裸の王様」でクリーンヒットを放ったのは「王様は裸だよ」と声を上げた子どもです。

チコちゃんではなく、私は大人キャラに叱られたい

NHKで大人を叱っているチコちゃんは、令和のアンファン・テリブルです。
でも私、チコちゃんに感じる違和感だけはどうしても拭えません。

なぜ平凡な大人の知識足らずを叱るキャラが5歳児なのか。大人のキャラクターではだめなのか?
ゆるキャラのような姿のチコちゃん。「見た目は5歳児、中身はキム兄(中年男性)」。そこが人気らしいね。私は気持ち悪いけど。

それならコナン君も同じですね。「見た目は子供、頭脳は大人」。
でもコナン君はいいのです。全部がファンタジーだから。
「SPY×FAMILY」のアーニャも別にいいのです。超能力というファンタジーだから。

公共放送のスタッフが社会に忖度して考え抜いた末、教養番組に出したアンファン・テリブル=チコちゃん。見た目は5歳児、中身はおじさん。
チコちゃんに叱られる(叱られ待ち)プレイがお茶の間で大人気。
私には異形に見えます。

でもその後に思いました。どのキャラクターもみんな大人が作った姿なのだと。
アンファン・テリブルとは、社会に行き詰まった大人が見出した「救済・デトックス」の姿なのではないかしら。

アンファン・テリブルは昔も今も流行しているようです。
そう思いながら近代小説を読んでいると、書いていましたよ、谷崎潤一郎が!

『少年』
背徳の味を知ってしまったアンファン・テリブル4人

『少年』谷崎潤一郎/著、1911年

登場人物
栄一:主人公。日本橋蛎殻町の有馬学校に通う。
信一:日本橋浜町の資産家、塙家の息子。学校でも女中が付き添っている。意気地なし。
光子:信一の姉
仙吉:学校では餓鬼大将で鳴らしている。塙家の馬丁の息子。主人である信一に絶対的な服従をする。

ストーリー
学校では意気地なしのお坊ちゃんで通っている塙信一。
主人公の栄一は、信一から「うちに来て遊ばないか」と誘われる。栄一が日本橋浜町にある信一の家を訪れると、そこは栄一が気後れしてしまうほど立派なお屋敷だった。
贅沢なおもてなしに戸惑う栄一。信一は学校でのひ弱さとはまったく異なり、堂々した態度を見せる。
信一の大胆さ、機転の早さ、狡猾さはサディスティックな趣味を帯び、それに従う屋敷の雇人や信一の姉にも引き込まれて、栄一も彼らの虜になってしまうのだった。

彼らが遊んだ日本橋へ!
日本橋人形町、日本橋蛎殻町、日本橋浜町

人形町駅→谷崎潤一郎生誕地→蛎殻町交差点→水天宮(地図中央)の裏道→日本橋浜町→新大橋へ。そこから人形町駅へ戻るルートです

谷崎潤一郎は「日本橋蛎殻町(かきがらちょう)」生まれです。
現在の住所は日本橋人形町1丁目。

谷崎潤一郎の生誕地。ランチタイムはビジネスマンで溢れていました
2024年2月は暑すぎる。森乃園のほうじ茶ソフト、美味
水天宮。ドラマ「新参者」を思い出す

新大橋通りの水天宮を右折します。

水天宮の裏は「有馬」という地名らしい。有馬幼稚園もありました

『少年』で子どもたちが通っていた学校は「有馬学校」です。水天宮の裏を歩くと、「有馬」という文字が見つかります。この辺りに学校があったのですね。

日本橋浜町。マンションやオフィスビルが多い。昔はお屋敷の広い区画だったのでしょうか。先には隅田川。上に首都高が見えます

有馬を通り抜けて隅田川へ向かいます。
ここから南東(右)側の地名は「日本橋中洲」、この辺りは「日本橋浜町」です。

地名が「中洲」。昔は隅田川の中洲だったらしい
こちらは「浜町」

浜町の突き当たりが隅田川です。

アパホテル発見

有馬学校の前から真っ直ぐに中之橋を越え、浜町の岡田の塀へついて中洲に近い河岸通りへ出た所は、何となくさびれたような閑静な一廓をなして居る。今は無くなった新大橋のたもとから少し手前の右側に名代の団子屋と煎餅屋が会って、そのすじ向うの角の、長い長い塀をめぐらした厳(いか)めしい鉄格子の門が塙の家であった。

『少年』谷崎潤一郎/著 より

ここ浜町に塙信一の住むお屋敷があり、栄一が誘い込まれ、あんなことやこんなことになったのか…と想像しながら歩きました。

名所・新大橋
今は立派な新大橋

新大橋といえば浮世絵作家・歌川広重の『名所江戸百景』を見たくなりますね。

広重『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』,魚栄,安政4. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1312294 (参照 2024-02-21)

歌川広重の江戸時代から、何度も架け替えらた隅田川の新大橋を堪能。

新大橋通りを人形町駅へ戻り、途中で「重盛」の人形焼を買いました

おまけ:
『熱い空気』に登場する恐ろしい子ども

『熱い空気』松本清張/著、1963年

市原悦子主演のドラマ「家政婦は見た」。
原作は、松本清張の『熱い空気』であることをご存知でしょうか。

ドラマでは、結末でだいたい主人公がしっぺ返しを喰らって怪我を負い「もう懲り懲り」となるのがお約束です。
私はドラマを見るたびに「あれはなぜ?」と思っていました。

それは原作の主人公が、まるで天誅のような罰を受けるからなのです。彼女に罰を下したのは子どもです。

『熱い空気』登場人物
河野信子:主人公。家政婦協会の登録人材として働く
稲村春子:信子が派遣される家庭の夫人
稲村達也:春子の夫
稲村健三郎:春子・達也夫婦の三男

ストーリー
家政婦の信子は、大学教授の稲村達也の家庭に派遣される。信子に厳しい指示を与える夫人の春子と、荒れた3人の息子達。信子はこの家の仕事に手を焼くが、まもなく稲村夫妻が各々に不倫をしていることを秘密裏に知り、仕事にやる気を見出す。
信子は富裕で幸せそうな家庭がはらむ危うさを見逃さず、むしろそのほころびを広げ、破綻させようと企むのだった。

結論:ドラマもいいけど、原作が最高。

稲村家のやっかいな子ども達。その中の末っ子が特にひどい。彼が「アンファン・テリブル」であるとは一概に言えませんが、この作品はとにかく子どもがキーなのです。

他にも、老婆、伝染病、ミキサー、天丼など、読んだ人にはすべてがヒヤリハットとなるキーワードがいろいろあります。小説を読んだ直後の「天丼」という単語に、私はしばらくトラウマを感じてしまうほどでした。
「清張さん、あなたの小説最高!」と叫びたい。

人気ドラマの原作『熱い空気』、読んでみてください!

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