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夏祭り

(第3回たはら言の葉コンクール 大賞受賞作)

この町に越してきて、なかなか馴染めなかったのが年に一度の町をあげての夏祭りだ。土日には交規制されるし、早朝から号砲が轟いてゆっくり寝てもいられない。夜勤明けの時などは不愉快にさえ思っていた。

 何年か前のお祭り当日、子供がくじ引きをするというので午前中に神社に出かけると、すでに法被を着て集まっている人達の中で顔なじみの岩本さんが忙しく駆け回っていた。

「祭りの間は血が騒いで仕事にゃならんよ」

と言うほどのお祭り男ぶりだ。たくさんの人達に囲まれていきいきしている岩本さんが、私には近づき難いほど眩しく見えた。

私が子供時分には「発達障害」という言葉の知名度は低く、今のように特別支援級などもなかった。コミュニケーションが苦手で急に空気の
読めない発言をしたり、逆に黙ってしまいそれを無視と捉えられイジメられたり、常に周囲から浮いていて異質なものを見る目にさらされてきた。何かをやればそうだったので少しずつ人との会話を避けるようになっていった。

夕方、沿道で神輿を見ていると岩本さんが来て「一緒にやろう!」と強引に私も神輿に引き込まれてしまった。
緊張で体が強張った。構わず神輿は進む。

わっしょい! わっしょい! わっしょい!

しばらく同じ歩調、同じ掛け声、同じ重みを感じながら神輿を担いでいると、心がじんわり溶けていき、言いようのない安心感に包まれているような気がした。顔を上げてみるとみんなが笑いかけてくれていた。
きっと私も同じ顔をしていた。
嫌いだと思っていたお祭りは、その場にあるだけの個性を全部受け入れるように夕方の街を笑顔で彩った。
今ではこの町のお祭りを知らせる号砲の轟きを、私はどこか心待ちにしている。

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