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【詩】回し車

 底冷えする部屋にうずくまる
 覚えられないタバコの番号が僕を狙い撃つ
 百を軽く超える銘柄に翻弄されて 今日もハチの巣になった
 全身穴だらけの僕を店長が嗤って 特大の大砲で打ち抜く

 もうバイトを辞めたい でもしたいことが見つからない
 友達の作り方を忘れてしまった 小学生に戻りたい
 心を温めてくれる彼女はできたことがない
 薄暗い部屋で薄目になった 幻にも嫌われたようだ

 小学校の先生がホームルームでよく生徒達に言っていた
 無限の可能性はどこにあるのだろう 今から探して見つかるのか
 思い出したくない年齢を頭で数える 三十六という数字に驚いた
 前髪で隠した額に指を滑らせる 波打つような皺が深く心に刻まれた

 部屋の片隅に目がいく 小さな冷蔵庫には冷えたビールが入っている
 飲み始めると止められない 体に悪いとわかっていても 飲み続ける
 気持ちいいままに眠らせて 目を覚まさないように仕向ける
 翌朝は決まって二日酔い 揺れる地面に翻弄されてバイトへ向かう

 この生活の果てに希望はあるのだろうか
 いつまで同じ輪の中を歩き続ければいいのだろう
 生活費とビールで溶けるバイト代 気晴らしの旅行が夢に思える
 今日も僕は一人の部屋で ほんのりと温かい闇に沈んでゆく

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