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オペレッタ狸御殿(2005)

オペレッタ狸御殿(2005、「オペレッタ狸御殿」製作委員会、111分)
●原案:木村恵吾
●監督:鈴木清順
●出演:チャン・ツィイー、オダギリジョー、薬師丸ひろ子、由紀さおり、美空ひばり(デジタル出演)、平幹二朗、高橋元太郎、山本太郎、篠井英介、市川実和子、パパイヤ鈴木、石川伸一郎、尾上紫、下石奈緒美、椎名法子、浦嶋りんこ、永瀬正敏、白井良明、谷中敦、スティーヴ・エトウ、田中要次、シモゼット(IN-HI)、ハブマシーン(IN-HI)、ズケジャン(IN-HI)、南州太郎、山崎樹範、一木有海、南川ある、永嶌花音

鈴木清順監督の遺作にして、初のデジタル撮影・CG背景を多用したミュージカル作品。

大学生の時、当時は鈴木清順なんて名前も知らずにDVDで観て以来改めて観てみた。たしかその時は「なんだかよくわからないけど笑えてきた」程度の感想しか持たなかった気がする。

せっかくなので特典も多いDVDのプレミアムエディションを購入して再鑑賞してみた。

いわゆるブルーバックのCG背景の場面と、ロケ撮影の場面が交互に映されるが現実と異界という単純な分け方ではなさそう。

写実的に描きたい場面ではロケで、浪漫主義的に描きたいところでCGを使っている?あるいは「ロケ撮影:口語体、CG:雅文体」のように近代文学における言文一致と言文不一致のオンオフ切り替えで遊んでいる?

ただ扱っている世界観が非現実的なだけに、ロケ撮影のほうがウソっぽく映る。

と、思いきやセット撮影もあり、まるで『東京流れ者』のラストの真っ白背景のシーンとか『花と怒涛』の人工的な雪のシーンを彷彿させる画も繰り出してくる。

ミュージカル形式である意図については、原作映画の『狸御殿』(未見)がそうだからという以上はないのかもしれないけど、『源氏物語』とか『伊勢物語』みたいな章の最後に「和歌」が挿入されて、っていう形式を映画における「歌」という形に見立てて踏襲(利用?)したのかなと思って唸った。

杜若の背景(↑トップ画)も在原業平のかきつばたの歌を想起させるし、直接的に『伊勢物語』から、

君や来し 我や行きけむ 思ほえず 夢かうつつか 寝てか覚めてか

かきくらす 心の闇にまどひにき 夢うつつとは こよひさだめよ

の二首が引用されている。

清順映画おなじみの橋のカットは狸ヶ森への道中で登場する。

そこで出会った狸姫(チャン・ツィイー)は罠に足を取られて川から流されてくるが、「罠」が「花」に変えられていてこれがいわゆる映像による掛詞ってやつか!?

しばらく雨千代と狸姫の二人場面が続くが、ほとんどアップはなく二人が並んで正面に向かうという構図が頻繁に出てくる。

まるで能とか歌舞伎などの舞台鑑賞のアングルを強制されることになる。

ラスト、狸姫と雨千代の葬儀のシーンでは死んでるはずなのになぜか雛人形のお内裏様とお姫様のように正面向いて二人並んでいる。その二人をまるで此岸から彼岸へと向かうように画面手前から奥への移動撮影でじっくり映すシーンがリフレインされるが、こういう画作りにやはりセンスを感じる。

そして雨千代の亡き母として出てくる美空ひばり(デジタル出演)。死んだ人、それも伝説的な歌姫である美空ひばりを人工的なCG技術によって簡単に生き返らせてしまう、死者への畏敬の心なんかこれっぽちもなさそうな(笑)神をも恐れぬ所業には本当に参りました。

映画の中盤で「朝顔が蛍の光を朝日と思い違えて咲く」シーンがあるが、本物でなくても本物らしければそれでいい、という鈴木清順監督の作家性に通じるような場面があって、とても印象深かった。

画的にはせわしないというか情報量が多いが、ストーリー自体はいたってシンプル。『ピストルオペラ』に比べれば全然観やすい。

DVDの特典ディスクにはメイキングやインタビュー、記者会見など膨大な映像特典がついている。

その中で「なぜ狸姫には尻尾がついてなかったのか」、というチャン・ツィイーから清順監督への質問がなかなか良い着眼点だなと思って笑った。


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