一首感想『病室は豆腐のような静けさで割れない窓が一つだけある』

病室は豆腐のような静けさで割れない窓が一つだけある

鳥居(2016)キリンの子 鳥居歌集 (株)KADOKAWA 

キリンの子の1番初めの短歌。本を開いて1つ目がこれでびっくりした。まっすぐ意味をなぞると1つだけ窓のある静かな病室のことを詠んでいるのだろうか?

豆腐のような静けさってなんだろう。絹豆腐ってパックから出すと白くてつやんと型取られているから、なんだか人工的な感じがするということ?言われてみると豆腐って病室みたいな色している。それとも無機物ということ?数ある無機物の中から豆腐を取り合わせるところが面白いなと思う。
てか豆腐ってなんか吸音材みたいな見た目してるよね。木綿豆腐とか特に。
そもそも豆腐って豆が腐ると書く食べ物なのはだいぶ攻めてる。腐るの字から生気が抜けている感じする。せっかく畑の肉なのに。

もしかすると病室にいる主体は病人であり、毎日病院食でお味噌汁が出ているのかもしれない。お味噌汁の中にポトンと浮かんだお豆腐を見て、病室みたいだと思っているとか。形を変えるわかめとも色を作り出す味噌とも違って、豆腐は色形を変えずに切られたままでお味噌汁に鎮座している。

割れない窓という表現も不思議に感じる。窓は普通割れないだろ。割れるようならサッシ屋さんの責任問題だよ。割れるのは豆腐だけだよ。でもこの割れやすい不安定な豆腐には患者の不安定な精神状態がかかっているのかもしれない。割れない窓には外の生き生きとした植物が映っていて、患者と外の世界の対比が豆腐と窓の対比に現れている。そもそも窓の採光があるだけで生き生きするよね。

周りが漢字なのに直喩の「のような」の部分がひらがなで書かれているところに静けさを感じる。一歩引いた感じのまま31字が全て窓に向かって収斂していく感じがする。

こうやってみると初めは静かな短歌のように感じていたけれど、実は内に秘める強さがあって、好きです。

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