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百合なる小説の、書評らしきものを書いてみた その2

 前回の続きである。その1を読んでいただいた方たち、本当にありがとうございました。嗜好性もあるので、あまり人気はありませんが(笑)、再びこの記事を覗いていただいた方、重ねてサンキュー、ベリーサンキューであります。

「猫背の王子」

中山可穂 マガジンハウス

 自らもレズビアンであることをカミングアウトしている作家、中山可穂のデビュー作である。
 小劇団に所属する劇団員ミチルの破天荒ともとれる日常を、性描写を織り交ぜながら描いた秀作。
 とにかくミチルのキャラクター性が生きている。余計な説明を省き、破滅的な主人公の生きざまと性を描き、これがデビュー作とは思えないほど文章が達者で、本書は持ち込み原稿だったそうだが、すぐに書籍化されたのも納得できる。作者は主人公と同じように劇団を主宰していたそうで、売れない劇団の実情や裏側にも詳しい。
 中盤、ミチルに自殺した自分の息子の面影を重ね、性行為を強要する老婆を相手に、身体を重ねるエピソードは出色だった。

「アンドロメダの猫」

朱川湊人 双葉社

 コールセンターの派遣社員の瑠璃は、恋人と別れた直後、コンビニの万引き事件をきっかけに、ジュラという少女と出会う。ジュラには知的障害があり、父親のした借金の肩代わりに、悪い男たちから性的搾取をさせられている。ジュラと交流するうち、瑠璃はジュラに特別な感情を抱くようになり、ある日逃避行に及んでしまうのだったー。
 作者はボクがホラーの話題作「近畿地方のある場所について」の書評の別記事で紹介した、第10回ホラー小説大賞の時、選考委員から絶賛されながらも、強烈な作品「姉飼」に大賞を奪われた、「白い部屋で月の歌を」の人である。
 ホラーものから、こうした百合ものまで毛色の違う作品を発表する才媛に脱帽する。この作品が他の百合ものジャンルと一線を画するのは、知的障害のある少女とOLという関係もしかり、犯罪組織が背景にちらつく、シリアスな内容であることで、それ故、最後は哀しく悲劇的である。
 その二人がそうした関係を持つことに賛否両論があるだろうし、ボクとしても、それはどうなんだろう、という感想もあるが、不倫が判明して気丈な態度で男と別れる場面から始まる書き出しから、瑠璃という主人公の女性の強さ、ジュラを守りたいという母性を主張している結果ともとれる。
 映像化しても、十分にオモシロイのではないかと思った。

「オールドフレンズ上・下」

浅倉卓弥 宝島社

 「四日間の軌跡」で第一回「このミステリーがすごい」大賞を受賞した作家の、ガールズラブストーリーである。
 湖畔のある町で少女期に出会う、恵まれた家庭で育つはるかと、不遇な環境のまこと。ある日母親が警察に収監されたのをきっかけに、まことは、はるかの家にひきとられる。同じ家で育ち思春期を迎える二人だったが、まことはいつの間にか、自分がはるかに対する特別な感情を持っていることに気づく。そしてある晩、感情を抑えきれず…。
 上下巻に分けての長編で、幼少期からの出会いから、成人になってからの二人の葛藤と、切ない愛情が繊細に綴られる。そういう意味では他に類を見ない丁寧に描かれた物語でもあるが、個人的には少々説明的なイメージが強いように思えるし、作者の説得感を感じることがひっかかるが、時を経ても二人の思いの糸が繋がる、結末は感動的だ。

「生のみ生のままで上・下」(きのみきのままで)

綿矢りさ 集英社

 おそらく最近ではいちばん話題になった、百合小説と言っても過言ではないだろう。ファンも多い芥川賞作家が挑んだ長編作品である。
 夏休みに恋人と一緒に地方へ旅行に訪れていた逢衣は、宿泊先のホテルで女優の彩夏と出会う。まったく接点のなかった二人は、雷雨に遭遇したアクシデントを機に気持ちを通わせるようになる。ある日彩夏の部屋を訪れた逢衣は、彩夏の思わぬ行動に動揺し…。
 前半はお互いの恋人と訣別してまでも惹かれ合ってゆく物語、後半はスキャンダルが発覚し、女優から転落してしまう彩夏を、全霊で救おうとする逢衣の愛と葛藤が中心に描かれる。
 ファンの多い作家だけあって、レビューも賛否両論だ。もともとライトな作風な作家だと思っているが、本作は百合コミック調な感じが否めない。彩夏が、
「秋田のホテルで逢衣を一目見たときから気になって仕方なかった。何かの間違いだ、逢衣は女だし私にそういう趣味な無いしと思って忘れようとしたけど、東京に帰ってきても日に日に想いが強まって忘れられそうにない」
と、自分の気持ちを打ち明ける場面のセリフがあるが、ノンケな女性が果たして突然そういった感情を抱くのかは、ボクとしてはどうしても疑問が残るし、説得力に欠けると感じた。こうした設定の作品の場合、その動機付けが肝心なだけに、これはどうなんだろうと思ってしまう。もしかしたら作者は百合コミックで人気の「citrus(シトラス)」にインスパイアされたのかな、とも感じた。「citrus」も物語の冒頭から主人公がクールな同級生に特別な感情を抱くところから始まるが、コミックだからとしても、あれだけカワイイ女の子に今まで彼氏がいないから、というのはあり得ない。え?虚実の世界の話だからいいんじゃないかって?いや、それは違う。映画にしてもフィクションであるけれど、いかに上手に嘘をつけるか、が作品の評価に繋がる。コメディならともかくも、真面目な作品ほどこれは難しい作業だが、ここに説得力がないと、陳腐なイメージになってしまうと思う。
 少々辛口な感想を言わせていただいたが、それでも本作「生のみ生のままで」は、それでもさすがの達者な文章力で最後まで読ませる魅力があるし、初めて二人の感情が結実する場面の展開はドラマティックで面白い。主人公の二人がいかに魅力的な外観であるのかを、説明的にせず想像させたのもこの作家の成せる技である。

 

 読んでいただきました方、ありがとうございました。
 今度は百合なる映画で、あーだこーだ、と書いてみようかな。
 
 

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