お互いを思いやる兄と弟(2)
長男の弟への愛を感じたエピソード
いつ頃だったかははっきり覚えていないが、長男が4歳前後、次男はまだ立てるようになっていなかった頃のことだと思う。もしかしたらもう少し後だったかもしれない。
その頃、長男はよく絵を描いたり、作品を作ったりしていて、作っては親に見せに来て、「素敵だね」と言ってもらうのを喜んでいた。
そんなある日、私がちょっと目を離した後でリビングに戻ってきたら、次男がご機嫌な様子でお座りしたまま、両手を万歳して何やら振っていた。
次男は無邪気に笑っている。しかしなぜか嫌な予感がした。次男よ、何を持っている?
げげっと思って慌てた。次男の手の先には真っ二つになった長男の作品があった。しかも長男が特に気に入っていたものの一つだった。
これはまずい、非常事態である。
焦って長男はどこにいるのかと探したら、それまで気配がなく視界に入っていなかったが、すぐ足下の布団に顔をうずめて静かに泣いていた。私が側まで来ていることは気付いていただろうに、うずくまったまま顔も上げない。
長男のところに駆け寄って、ごめんね、大切だったのにね・・と言い抱き上げた。同時に、いやこれは凄すぎるだろう、と心底驚いた。カッとなって手を出すでもなく、癇癪を起こすでもなく、一人静かに堪えようとしたのだ。
小さな弟がまだ何もわからずにやってしまったことについて、仕返しをしてはいけないと思ったようなのだ。だから自分がひたすら耐えるしかないと思って、布団に顔を埋めて耐えていた。
長男だってまだ十分幼い。こんなに幼くても、こんな判断出来るんだ、と心底感心した。
長男を抱きしめて、悲しかったのにね、偉いよ、ありがとう、と褒めた。立派だと思った。
長男はもう覚えていないかもしれないが、これは今でも私の中で忘れられないエピソードになっている。
今、長男は自分を「俺、『屁理 屈男』だから」と称したりするが、弟や妹への眼差しは優しい。下の子を抱っこして写っている写真の表情を見ると、本当に心が優しい子なのだなと思わずにはいられない。
そんな兄のことが大好きで、次男は兄を学校で見つけると子犬のようにはしゃぐのだそうだ。まだ小学生になりたての頃は、体育をしている兄を見ると歓声を上げて名前を連呼するため、先生にこれこれ静かにと言われたりして長男も照れることがあったそうだ。
長男、次男、そして長女の3人が、将来もずっと仲良くいてくれたら良いなと思っている。