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フランス革命の省察

どうも、犬井です。

今回紹介する本は、エドマンド・バーク(=英、1729~1797)の「フランス革命の省察」です。この本は1790年に出版された「Reflections on the Revolution in France」を翻訳した書です。エドマンド・バークといえば「保守思想の父」として知られ、「フランス革命の省察」は保守主義のバイブルとも称される書です。その名著が佐藤健志氏の名訳により、大変わかりやすくまとめられています。

さて、本書の題材となっているフランス革命といえば「自由・平等・博愛」を掲げ、特権階級を打倒し、民衆が自由を勝ち取ったというのが一般的なイメージだと思います。しかし、バークはそうした革命を痛烈に批判しています。世論とは逆の視点から捉えるバークには何が見えていたのか。以下で、簡単に内容を書き綴っていきたいと思います。

フランス革命は手本にならない

フランスの新たな自由を祝福するには、次の事柄が検証されてからのことである。
「この自由は、政府による統治といかなる形で結びついているか?」「公の権威は保たれているか?」「軍律は正しく、統率は乱れていないか?」「国の歳入、および歳出は健全か?」「モラルや宗教は安定しているか?」「所有権は保障されているか?」「平和と秩序は実現されているか?」「人々の振る舞いには落ち着きが見られるか?」
これらが揃ってプラスの価値を持つ。そういった点が満たされていない時、自由は望ましいことでないし、そもそも長続きしないだろう。

個人の場合なら、自由になったところで分別が働くため、なんでも好き放題やることはない。だが、人々が集団で自由に振る舞うことは、彼らが傍若無人に権力を手にしたことに等しい

だとすれば、かかる権力がどのように使われるかをみてから、イギリスもフランスを手本とするかを検討すればいいのであって、不必要に改革に習う必要はない。

「相続」の概念

「革新」に憧れる精神とは、たいがい身勝手で近視眼的なものである。己の祖先を振り返ろうとしないものが、子孫のことまで考えに入れるはずがない。

自由や権利は「前の世代から受け継いだ自由や権利を大事にしなければならない」という保守の発想と、「我々の自由や権利を、のちの世代にちゃんと受け継がせなければならない」という継承の発想をわきまえたものでなければならない。

また、こうした「相続」の概念は、我が国の憲法や様々な法の基盤であらねばならない。 法は国家、家庭、伝統、宗教、それらが緊密に関わり合いながら、ぬくもりに満ちたものになるからである。

自由も権利も慣習の枠内にある

文明社会は人間に利益をもたらすために作られる。社会が成立していることによって得られる利益は、すなわち人間の権利となる。善の達成こそ社会の意義であり、法はそのためのルールに他ならない

法のもとで公正な扱いを受けたければ、自分の利害に関して、何が公正かを勝手に決める権利を捨てなければならない。社会の正当性を信じ、おのれの自由をいったん返上することにより、人間は慣習の枠内における自由を確保する

文明社会は慣習を踏まえて成り立つとすれば、慣習こそが最も基本的な法となる。立法、司法、行政のあらゆる権力はここから生まれる。いかなる権力も、慣習を離れては存在しえない。また社会的慣習にしたがって生きている者が、当の慣習のもとでは想定されてもいない権利や、慣習自体を乱すような権利を主張することはできない。

固定観念という価値

イギリス人は理屈抜きの感情に基づいた世界観を、古臭い固定観念として捨て去るどころか、たいそう大事なものとみなす。固定観念であるにも関わらず大事にするのではない、固定観念だからこそ大事にするのだ。

誰もが理性に従って行動するのは、社会のあり方として望ましいものではない。個々の人間の理性など、おそらく非常に小さいものに過ぎないからである。国民規模で定着したものの見方や、時代を超えて受け継がれた考え方に基づいて行動した方が、はるかに賢明と言えるだろう。そして伝統とは、時代を超えた固定観念によって育まれるものなのだ。

非常事態において、これは特に大きな意味を持つ。とっさに判断を下さねばならない時、とるべき行動を明確に提示してくれるのは固定観念に他ならない。こうして我々は、肝心な瞬間に「どうする、どうする」と思い悩んで立ち往生せずに済むのだ。

賢い政治のあり方

フランス国民会議が改革と称して、既存の制度の廃止やら全面的破壊やらにうつつを抜かしているのも、困難に直面できないせいで現実逃避を図っているに過ぎない。

前例のないことを試すのは、実に気楽なのだ。うまくいっているかどうかを計る基準がないのだから、問題点を指摘されたところで「これはこういうものなんだ」と開き直れば済むではないか。熱い想いだの、眉唾ものの希望を並べ立てて、「とにかく一度やらせてみよう」という雰囲気さえ作ることができたら、あとは事実上、誰にも邪魔させることなく、やりたい放題やれることになる。

対照的なのが、システムを維持しつつ、同時に改革を進めていくやり方である。この場合、既存の制度にある有益な要素は温存され、それらとの整合性を考慮した上で、新たな要素が付け加えられる。

ここでは大いに知恵を働かせなければならない。システムの各側面について忍耐強く気を配り、比較力や総合力、さらには応用力を駆使して、従来の要素と新しい要素をどう組み合わせたらいいか決めることが求められるのだ。

「それでは遅すぎる」という反論が寄せられるかもしれないが、時間をかけて物事を変えてゆくのは、様々な長所を伴う。ゆっくりと、しかし着実に進んでゆけば、一つ一つの段階において物事がうまくいっているかどうかを確認できる。それにより、変化のプロセス全体が安全になるのだ。システムの内部に矛盾や破綻が生じることはない。またどんな計画にも、何かしらの弊害が潜んでいるものながら、これらとて表面化した段階できっちり対処できる。

社会の良し悪しは、何世代にわたって人々に影響を及ぼす。だとすれば、望ましい社会システムを構築する作業も、世代を超えて行われるのが筋ではないか

あとがき

訳者の佐藤健志氏は、バークの省察を、フランス革命についての論評というより「同革命をモチーフとした、急進主義的改革をめぐる風刺文学」と見なした方が、その価値を味わうことができるとおっしゃっています。氏の言うように、「フランス革命の省察」は時代を超えて現代においても通づるところが多分に含まれています。だとすると、バークの省察を現代の日本に置きかえるとどうでしょうか。

日本は1990年代以降、イギリスやアメリカに習って、新自由主義的な改革に邁進し続けています。結果は現在を見ればわかるように、改革による弊害は、改革の利点をはるかに上回っています。長くとも10年もすれば効果が出ないことはわかっていたにも関わらず、反省して方向転換するどころか、成果が出ないのは改革が足りないからだと強弁してなお一層の改革を追求しています。

なんと、バークの200年後を生きる私たちのほうが、現実を直視できていないではありませんか。この事実を受け入れ、過去を反省し、歴史を学ぶことなくして、これからの日本が良くなっていくことはないように思われます。

では。

#読書 #推薦図書 #エドマンド・バーク #佐藤健志 #保守 #フランス革命

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