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かつて日本のどの村にも
「百姓衣服之儀木綿を着すべし七十歳以下の者足袋は履くべからず雨具は蓑笠を用うべし」
という藩令の高札が立っていたという

高札が闇にまぎれる 青白い雪の夜
蓑笠を着た 農婦の儀式が始まる 
その夜 誰に抱かれても お咎めなし 
真っ黒い闇のなかで農婦はごつごつした手に 乳房を預け
顔さえわからぬものと 一夜限りの逢瀬を尽くす
青みがかった暗い空のした
会話さえ成り立たつ余地のない 静寂が支配する空間
ホウホウとこすれあい もつれあい 荒い息で


翌朝 
なにごともなかったかのごとく
誰も何も知らないかのごとく
支配されるものは それらしく
頭をたれて
労働が始まり
その翌朝もその次も
同じ繰り返しが
つづく
ずっとずっとつづく
いつ果てることなく
待ちきれぬかのごとく


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