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73) 老化細胞除去薬を使った抗老化医療(その2): 野菜と漢方薬

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術73

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【加齢とともに体は小さくなっていく】

 歳をとると体は小さくなり、体力も活力も低下します。加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下した「虚弱」な状態を「フレイル」と言います。フレイルは、日本老年医学会が2014年に提唱した概念で、「Frailty(虚弱)」の日本語訳です。
 
加齢によって筋肉量が減少し、筋力低下や身体機能が低下することをサルコペニアと言います。サルコペニア(Sarcopenia)はギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ(sarco)」と喪失を意味する「ペニア(penia)」を合わせた造語です。加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態です。人の筋肉量は40歳を境にして徐々に減少していく傾向があり、60歳を超えるとその減少率は加速します。

社会も高齢化と共に人口は減少します。日本の人口は2004年(12,784万人)をピークにして減少しています。

日本の2021年の人口動態統計によると出生数は約81万人で、死亡数は約144万人です。つまり日本の人口は1年間に約63万人の減少です。年間に0.51%程度の減少ですが、この減少率は今後さらに加速されることが予測されています。



【カンヌ国際映画祭で特別表彰を受けた「プラン75」】

 高齢化社会の活力を高める方法として、「高齢者を元気にする」方法が議論されます。前述のフレイルやサルコペニアの概念も、寝たきりや要介護状態を減らすために、運動や食事や社会参加によって高齢者を元気にする方法を議論するためです。
 
一方、高齢者を社会から排除して、若返りをはかるという考えもあります。危険な思想であり、議論することがタブーとなっていますが、安楽死問題と同様に、一部の研究者や思想家は議論しています。
 

今年のカンヌ国際映画祭で倍賞千恵子さんが主演の「プラン75」(早川千絵監督)が「ある視点」部門で特別表彰を受けました。舞台は少子高齢化が進んだ近い将来の日本です。増えすぎた高齢者が財政を圧迫し、しわ寄せが自分たちにかかることを恨む若者たちによって、高齢者が襲撃される事件が相次いでいます。そうした中、75歳以上の高齢者に死を選ぶ権利を認めて支援する制度、通称「PLAN75」が国会で可決されます。財政を圧迫する高齢者を間引くために、早期死亡を勧める制度です。

フィクションですが、リアリティがあります。日本では、2025年には国民の5人に1人が75歳以上になると言われています。世界的には安楽死・尊厳死を合法化する国が増えています。スイス、アメリカのいくつかの州、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、カナダ、オーストラリア、スペイン、ニュージーランド、コロンビアなどで積極的安楽死が合法化されています。耐えがたい苦しみに襲われている患者や、助かる見込みのない末期患者が対象ですが、尊厳死が拡大解釈されれば、高齢者が自分で死を選ぶ権利が議論される可能性は否定できません。



【老化細胞を活性化するか、積極的に排除するか】

 細胞老化は細胞レベルのがん抑制機構と考えられています。細胞老化に伴う細胞周期の停止はがん抑制遺伝子が関与しています。つまり、遺伝子にダメージ(変異)を受けた細胞のがん化を防ぐメカニズムの一つが細胞老化です。

細胞の老化はがん細胞の発生を防ぐという有益な面だけでなく、有害な側面があります。それは、組織中に蓄積した老化細胞が様々な物質の分泌を介して周囲組織に悪影響を及ぼすからです。老化細胞はサイトカイン、ケモカイン、プロテアーゼ、成長因子など様々な物質を分泌します。これを老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype:SASP) と言います。

老化細胞はSASPを介して周囲組織に悪影響を及ぼします。老化細胞が組織に蓄積することが老化に伴う組織機能の低下と関連しています。老化細胞の除去が組織機能を回復させることになります。

図:加齢とともに、正常組織の中に老化細胞が出現する。老化細胞は老化関連分泌表現型(senescence-associated secretory phenotype :SASP)と呼ばれる様々な因子(サイトカイン、成長因子、ケモカイン、プロテアーゼなど)を産生して、周りの正常細胞や組織の機能を障害する。
 
 
 
「個体の老化」は「社会の高齢化」と類似しています。個体が老化すると、組織や臓器に老化した機能低下細胞が増えてきます。このような老化細胞は、機能低下しているだけでなく、老化関連分泌表現型(SASP)と呼ばれる様々な因子を分泌して周囲の細胞に悪影響を及ぼしています。高齢化社会においても、高齢者は社会から引退するだけでなく、いろんな意味で若い人の負担になっているのと類似しています。
 
そこで、個体の若返りの治療では、老化細胞にアポトーシスを誘導して、積極的に除去(排除)しようと言うアイデアが出てきます。このアイデアは、高齢化社会において若い人の負担になっている高齢者を排除しようという思想と同じです。前述の「プラン 75」や「うば捨て山」の発想です。
 
この考え方は、抗老化医療の領域では主流になりつつあります。
今までの抗老化治療は、高齢者にサプリメントや漢方薬を与えたり、栄養状態を良くし、リハビリして筋力や体力を鍛えて、元気にする発想です。老化に伴って低下する栄養成分や体内成分を補うという方法論です。ビタミンやミネラルやニコチンアミド・モノヌクレオチド、スペルミジン、ホルモン類、成長因子などを補充して、機能低下を補う抗老化治療が行われています。
 
一方、老化細胞が死なないで居座るから問題なので、老化細胞にアポトーシスを誘導することによって、蓄積した老化細胞を組織から排除して組織の若返りをはかる治療がもう一つの方法論です。老化細胞を死滅させ、若い細胞を補填して、組織を若返らせる方法です。老化細胞にアポトーシスを誘導して排除するのが老化細胞除去薬(senolytics)です。



【抗がん剤と老化細胞除去薬の接点】

 老化細胞を選択的に殺す薬を発見するための探索研究が行われています。このような探索で、老化細胞除去薬の候補として発見され研究されている薬として、承認された抗がん剤(ダサチニブ、ベネトクラクス)、失敗した抗がん剤(Hsp-90阻害剤のゲルダナマイシン)、抗がん作用のある天然成分(フィセチンおよびケルセチン)などがあります。
 
天然物としてフィセチンとケルセチンなどのフラボノイド類が注目されています。
フィセチン(fisetin)は、イチゴ、キュウリ、リンゴ、ブドウ、玉ねぎなどの果物や野菜に含まれるフラボノールです。フィセチンが細胞の老化を抑制することやマウスの寿命を延ばすことが報告されています。フィセチンは、PI3K / mTOR経路を含む複数のシグナル伝達キナーゼを阻害し、抗がん剤としても注目されています。
 
ケルセチン(quercetin)はフラボノイドの一種で、配当体(ルチン、クエルシトリンなど)または遊離した形で柑橘類、タマネギ、そばをはじめ多くの植物に含まれるフラボノイドの一種です。ケルセチンは複数のキナーゼを阻害します。
 フィセチンとケルセチンは似た構造をしたフラボノールです。

フィセチンやケルセチン以外にも、オリーブオイルに含まれるポリフェノール類、赤ぶどうやブルーベリーに多く含まれるレスベラトロール、ウコンのクルクミンなどの天然成分も老化細胞除去薬としての作用が報告されています。

しかし、ある一種類の成分の効果を利用するより、野菜や果物や薬草など植物全体を利用した老化細胞除去薬の開発が現実的という意見もあります。
 
様々な植物由来成分が抗老化の目的で利用されています。それらは、今までは抗酸化作用や抗炎症作用などが作用メカニズムとして主張されてきました。そのような成分の中に、老化細胞除去作用の関与もあると言えます。
 

昔、がん予防成分を見つけるために多くの天然成分が探索されましたが、結論は単一成分を追い求めるのではなく、「野菜やナッツや果物など植物由来食品」を多く摂取することががんや老化の予防に有効という結論に落ち着いています。漢方薬に含まれる生薬成分も抗老化とがん予防に有効な成分を多く含みます。

つまり、「野菜やナッツや果物など植物由来食品」や漢方薬は老化細胞除去作用による体の若返りが期待できます。この方が、単一の成分をサプリメントとして摂取するより有効性が高いと思います。

図:フィセチンやケルセチンやレスベラトロールは老化細胞除去作用が報告されている。これらの成分をサプリメントとして摂取するより、これらの成分を豊富に含む野菜の多い食事や漢方薬の方が老化細胞除去には効果が高いと言える。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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