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96)メラトニンは褐色脂肪細胞を活性化して肥満を防ぐ

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術96

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【メラトニンはカロリー制限食による減量効果を促進する】

肥満の人が体重を減らすときの基本は、食事からの摂取カロリーを減らすことです。体を動かすことによって消費されるカロリーよりも食事から摂取するカロリーの方が少なければ、足りない分のカロリーは体脂肪を分解して補われるので、体脂肪を減らすことができます。
 
しかし実際には、食事からの摂取カロリーを減らしても、思ったほど減量できないことを多くの人が経験しています。摂取カロリーを減らすと、体は基礎代謝を低下させて体重減少を阻止するようなメカニズムが働くからです。
 
このような時、メラトニンを摂取すると、体重減少が促進されることが報告されています。以下のような報告があります。

Melatonin Supplementation Lowers Oxidative Stress and Regulates Adipokines in Obese Patients on a Calorie-Restricted Diet.(メラトニン補給は、カロリー制限ダイエット中の肥満患者の酸化ストレスを低下させ、アディポカインを調節する)
Oxid Med Cell Longev. 2017; 2017: 8494107.

この臨床試験では、ボディマス指数(BMI)が30以上の30人の肥満者が参加し、カロリー制限食(女性は 1000 ~ 1200 kcal/日、男性は 1400 ~ 1600 kcal/日)で30日間生活しました。15人はカロリー制限のみで、残りの15人はメラトニンを1日10mg投与されました。

カロリー制限食のみのグループではわずかな体重減少(マイナス4%)は見られましたが、統計的に有意ではありませんでした。メラトニンの投与を受けたグループでは統計的に有意な体重減少(マイナス7%)が認められました。
 
血中の4-ヒドロキシノネナール (HNE)と赤血球マロンジアルデヒド (MDA) 濃度の増加は体内の活性酸素の産生増加の指標になります。カロリー制限食のみのグループではこれらの酸化ストレスの指標が増加しました。一方、メラトニン補給は酸化ストレスの低下が認められました。
 
さらに、メラトニン補給群ではアディポネクチンと抗酸化酵素のグルタチオン・ペルオキシダーゼ活性が増加しました。アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されるタンパク質で、インスリン抵抗性を低下させて肥満を抑制する作用があります。
 
以上の結果は、メラトニン補給がカロリー制限に伴う酸化ストレス増加を抑制し、アディポネクチン分泌と体重減少を促進することを示しています。

この研究では、メラトニンは1日10mgと比較的少なめですが、もっと多い量(20mgから100mg程度)を摂取すると減量効果をさらに増強できる可能性があります。最近の研究では、がんや神経変性疾患(アルツハイマー病など)の治療に1日50mgから100mg、あるいはそれ以上の量で効果が検討されています。



【メラトニン不足は肥満を促進する】

メラトニン欠乏が肥満と関連することは実証されています。メラトニンの補給が肥満の改善に効果があることは多くの臨床試験で示されています。

1984 年に松果体切除後のハムスターの体重増加が報告され、松果体とメラトニンと体重の間に関係があることが示唆されました。その後、外因性メラトニン補給が動物の体重を減少させることが報告されています。高脂肪/高糖質食を与えられた多くの動物モデルで、メラトニンは体重増加と内臓脂肪沈着を抑制しました。メラトニンは抗炎症作用とミトコンドリア保護作用があり、代謝を活性化し、減量効果を促進すると考えられています。

メラトニンは睡眠覚醒サイクルなどの概日リズムの調節に重要な役割を果たしています。メラトニンはミトコンドリアで産生されるのでミトコンドリアが存在する全ての細胞で産生されていますが、概日リズムの調節は松果体(しょうかたい)から分泌されるメラトニンが関与しています。松果体は脳のほぼ真ん中にある松かさに似たトウモロコシ1粒くらいの大きさの器官です。
 
夜暗くなると、松果体からメラトニンが分泌され始め、血中のメラトニンが増えると睡魔が襲ってきます。そして、生体リズムは睡眠や体息に適したものに調整されます。朝、太陽光線が目に入ると、松果体にその刺激が伝わりメラトニンの分泌が抑制されます。 これによって覚醒スイッチがONとなり、諸々の生体機能は昼間の活動に適応した状態になります(下図)。 


図:メラトニンは脳の松果体から分泌される(①)。夕方になって暗くなると松果体からメラトニンの産生が始まる(②)。夜間にメラトニンの血中濃度が上昇し、真夜中(午前2時から5時ころ)にピークに達する(③)。夜間のメラトニンの濃度は日中の5〜10倍に達する。メラトニンは分泌開始から10~12時間で分泌を中止し、急激に血中濃度が低下し、午前7時ころに最低になって覚醒する(④)


夜間に光を多く浴びると、メラトニンの産生が低下します。「寝室の照明やテレビをつけっぱなしにして眠る女性は、太りやすい可能性がある」という研究結果が、米国立環境衛生科学研究所(NIEHS)から報告されています。

Association of Exposure to Artificial Light at Night While Sleeping With Risk of Obesity in Women. (夜間の睡眠中の人工光への暴露と女性の肥満リスクとの関連)JAMA Intern Med. 2019;179(8):1061-1071.

短い睡眠時間と肥満との関連性は知られています。睡眠時間が短いと肥満が増えることは多くの研究で明らかになっています。しかし、夜間の人工光への曝露と肥満との関連は不明です。そこで、この研究では、睡眠中の人工光への曝露が肥満のリスクに関連しているかどうかを明らかにする目的で行われました。
 
2003年7月から2009年3月までの間に米国全50州およびプエルトリコで登録された35〜74歳の女性を対象とし、 がんまたは心血管疾患の病歴が無く、交代制勤務者でなく、昼寝をしない、妊娠していない43,722人の女性(平均年齢55.4歳)を対象に解析されました。
 
人工光への暴露の程度は、試験の登録時に夜間の睡眠時の人工光の状況を、「光なし」、「小さな光」、「部屋の外の光」、「テレビをつけているか明かりをつけたまま」に分類して記録し、平均で5.7年間追跡しました。
 
分析の結果、何らかの照明をつけたまま眠っていた女性では、そうでない女性に比べて肥満リスクが19%高いことが示されました。特に、就寝中に寝室の照明やテレビをつけっぱなしにしていた女性では、照明やテレビをつけないで寝た女性に比べて、5年間で体重が5kg以上増える確率が17%高く、過体重リスクは22%、肥満リスクは33%高かったという結果でした。

また、女性の体重増加には、照明の強さも影響しました。例えば、照明やテレビとは異なり、光が弱い常夜灯の使用と体重増加との間に関連はみられませんでした。さらに、食生活や身体活動などを考慮しても、これらの関連に変わりはなかったことから、就寝中の照明を消すことが女性の体重増加や肥満の予防に重要である可能性が示されました。
 
光をつけて寝ている人は、睡眠時間が短く、夜食を食べたり、独り住まいが多いなどの生活上の問題が存在する可能性があります。しかし、これらの要因を全て差し引いても、明かりをつけて寝ている人たちには肥満傾向が見られるという結果でした。

夜間に人工照明に曝露するとメラトニンの分泌が抑制され、自然な睡眠・覚醒サイクルが乱れる可能性があり、それが体の代謝やホルモン分泌や自律神経などにも影響して、肥満になりやすい状況になると考えられています。

肥満はがんや糖尿病のリスクにもなるので、近代におけるがんや糖尿病の増加の原因の一つとして「夜間の人工照明の曝露」は重要という指摘もあります。夜間の人工照明が肥満やがんを増やすという研究は他にも報告されています。(下図)。


図:夜間の暗くなった情報は、視床下部の視交叉上核(①)からいくつかのニューロン連鎖ののち交感神経の上頸神経節(②)に達し,その節後繊維は松果体(③)に分布する。松果体の交感神経から放出されるノルアドレナリンはメラトニン合成に関与する酵素の一つのN‐アセチルトランスフェラーゼの生成を促進し、多量のメラトニンを産生放出する(④)。メラトニンは時差ボケ・不眠の改善、抗老化・寿命延長、肥満抑制、がん予防などの作用がある(⑤)。この経路によるメラトン産生は網膜に光刺激が入ると阻害される(⑥)。夜間に網膜に光刺激が入らなくなるとメラトニンの合成が刺激されるが、夜間のパソコンやスマホやテレビによるブルーライトや明るい照明はメラトニン分泌を阻害する(⑦)。その結果、夜間の照明やブルーライトは肥満やがんや老化を促進し、寿命を短縮する。



【メラトニンは褐色脂肪細胞を活性化して体脂肪の燃焼を促進する】

脂肪細胞には、白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の2種類が存在します。白色脂肪細胞は皮下脂肪や内臓脂肪など一般的によく知られた脂肪細胞で、エネルギーを脂肪として蓄積する働きを持ちます。
 
一方、褐色脂肪細胞は脂肪を分解して熱を作り出す細胞です。熱を作るミトコンドリアが多く存在するために、細胞が褐色に見えます。(下図)。


図:白色脂肪細胞は脂肪を貯蔵する脂肪細胞で、大きな脂肪滴を含み、核などの細胞小器官は辺縁に存在する。ミトコンドリアは少ない。褐色脂肪細胞は脂肪を燃焼する脂肪細胞で、ミトコンドリアが多いので褐色に見える。脂肪滴も小さく分散している。
 


褐色細胞のミトコンドリアにはUCP1というタンパク質が多く存在します。UCP1は脂肪を燃焼させて熱を産生するはたらきを持っています。
 
寒い環境下では、交感神経の働きで褐色脂肪細胞が活性化し、体温が下がらないよう熱を産生します。これまで褐色脂肪細胞は乳児期にのみ存在し、成長するにつれ消退すると考えられていましたが、成人であっても肩甲骨周囲や脊椎周囲に限局して存在していることが明らかになっています。そしてこの褐色脂肪細胞の機能低下や数の減少が、肥満やメタボリックシンドロームの原因になることが分かってきました。
 
メラトニンが褐色脂肪細胞における脂肪燃焼を促進する作用があることが明らかになっています。以下のような報告があります。

Melatonin Enhances the Mitochondrial Functionality of Brown Adipose Tissue in Obese—Diabetic Rats.(メラトニンは、肥満の糖尿病ラットの褐色脂肪組織のミトコンドリア機能を強化する)Antioxidants (Basel). 2021 Sep; 10(9): 1482.

メラトニンは、主に褐色脂肪組織の量を増加させ、ミトコンドリアの量、UCP1 タンパク質の量、および熱発生能力を増加させる熱発生効果を介して、げっ歯類の肥満を制御し、グルコースの恒常性を改善することが明らかになっています。重要なことに、ミトコンドリアはメラトニンの治療標的として広く知られています。
 
この研究では、肥満関連 2 型糖尿病のモデルと考えられている Zücker 糖尿病性肥満ラットの 褐色脂肪組織におけるミトコンドリア機能に対するメラトニンの影響を検討しています。
 
5週齢のZücker 糖尿病性肥満ラットに、経口メラトニンで6週間治療しました。その結果、メラトニンの慢性経口投与が褐色脂肪細胞のミトコンドリア呼吸を改善する一方で、脂肪細胞の酸化ストレスを低下させることが示されました。これは糖尿病の治療におけるメラトニンの有益な効果を示唆しています。以下のような報告もあります。

Dose-Dependent Effect of Melatonin on BAT Thermogenesis in Zücker Diabetic Fatty Rat: Future Clinical Implications for Obesity.(Zücker糖尿病肥満ラットにおける褐色脂肪組織の熱発生に対するメラトニンの用量依存効果:肥満に対する将来の臨床的意義)Antioxidants (Basel). 2022 Aug 25;11(9):1646.

肥満の動物実験で、高用量のメラトニンが、主に褐色脂肪組織の熱発生を促進することにより、肥満を軽減することが明らかになっています。この報告では、Zücker 糖尿病性肥満ラットの肩甲骨間の褐色脂肪組織の熱発生能力に対するさまざまな用量のメラトニンの影響を評価しています。

ラットに体重1kg当たり1 から10 mgのメラトニンの用量で体重は有意に減少しましたが、0.1 mg/kg では減少しませんでした。褐色脂肪組織における熱産生はメラトニンの用量依存的に増加しました。つまり、体重1kg当たり10mgまでの範囲での検討で、メラトニンの投与量が多いほど褐色脂肪細胞における脂肪分解が増加するという結果でした。

ラットでの体重1kg当たり10mgというのは人間では体重1kg当たり3mgに相当します。体重当たりのエネルギー消費量はサイズの大きい動物ほど少なく、標準代謝量は体重の0.751乗に比例するという法則があります。一般にラットの体重は500g程度で、人間の約100分の1です。

0.751はほぼ3/4なので、簡単には3/4乗で計算できます。例えば、100の3/4乗は、100 x 100 x 100=106の平方根の平方根なので卓上計算機で×と√で計算でき、答えは31.62です。つまり、体重が100倍ならエネルギー消費は31.62倍、体重1kgで比較すると体重が少ないラットの方が約3.2倍(100÷31.62)エネルギー消費(体重1kg当たり)が多いので、ラットの体重1kg当たりのエネルギー消費量や薬物の代謝速度は人間の約3倍となります。したがって、ラットの体重1kg当たり10mgは人間では体重1kg当たり3mgに相当します。体重60kgで180mgのメラトニンになります。
 
がんや神経変性疾患の治療などではメラトニンの大量療法が行われており、1日の250mgや500mgを服用することがありますが、副作用は全くありません。メラトニン自体の致死量は計算できないくらい安全な体内成分です。
 
減量するときは1日に100mg程度のメラトニンを摂取することは、減量効果を促進する上で有効だと言えます。あるいは、日頃から1日20mgから100mg程度のメラトニンの摂取は抗老化と寿命延長に効果が期待できます。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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