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「永遠に視点が交錯しなくても“痛み”があればわかちあえる」佐々木ののか

少女都市 第8回公演『光の祭典』によせて、文筆家の佐々木ののかさんから脚本の書評をいただきました。
また、ののかさんは8月24日18時の公演にアフタートークゲストとしてご登壇いただきます。
ぜひご観劇の参考にご覧ください。
少女都市 主宰 葭本未織

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「永遠に視点が交錯しなくても“痛み”があればわかちあえる」佐々木ののか

(撮影:佐々木ののか)

誰かと一緒に旅をすると、自分の視界がいかに自分勝手なものなのか思い知る。少女都市の主宰・葭本未織と旅行をしたときもそうだった。ひょんなことから彼女と新潟を旅することになったとき、彼女は目に映る景色のひとつひとつを「〇〇の街に似ている!」「これは〇〇の地形にそっくり!」と、土地の特徴について興奮気味に語る。私はと言えば、そんな彼女の説明を聞いても情報が頭に全く入ってこず、土地への興味はさっぱり湧かず、何だかよくわからないけれど目の前でハシャぎまくっている女の子が可愛いなだとか、さすが土地に根差した物語を書く劇作家だなという感想しか湧かなかった。同じ景色を眺めているのに見えている景色がこんなにも違うなんて呆れてしまう。加えて、普段から同じ景色を見て違う捉え方をしているというのに、旅行に来たときくらいしかそのことを実感できないなんて、あまりに残酷だ。

今回の『光の祭典』の脚本を拝読したときも、先の「視点」をテーマにした作品だと感じた。本物語の舞台は、葭本未織の地元近郊でもある神戸だ。物語には、元・天才女子大生監督である片矢まことと、まことの同級生で映画監督志望の江上透をはじめ、映像作品に関わるどこか影を抱えた人物たちが登場する。置かれた立場の違う人間たちがそれぞれの立場でそれぞれの葛藤を語り、視点のひとつひとつが執拗に心を鋭く刺してくる。しかし、視点は永遠に交錯しない。俯瞰した立場で見ていると、どの視点もこんなに痛いのに、どうして分かち合うことができないのだろうと、何度も何度も空しくなった。

加えて『光の祭典』では、もはや少女都市の特徴と言ってもいい「暴力」が度を越している。才能があってもなくても関係ない。“若い女の子”であるが故に抱える「誰かあるいは権威に認められたい」という願望と強迫観念が、彼女たちを暴力の地獄へと引きずり込んでいく。そして、その先に待っているのは、さらなる暴力の連鎖だ。

各々が華奢な身体に抱えきれない痛みを携えながら分かち合うこともできず、激化していく暴力。明白すぎる地獄行きの通達を待つようにして、クライマックスに向けて羅列された文字を憂鬱に漕いだ。

しかし、脚本にして残り10ページを切ったあたりから、物語のベクトルは上方に向き、爆速で駆け抜け始める。四隅を陣取っていたはずの黒い石までもが凄まじい速さで白い石に反転していく。物語に光を差したのは、冒頭から流し続けけられていた各人の“痛み”だった。

右派と左派、老いと若きに男と女。本来異なる個である人間が“2つ”に分かたれ、何と戦っているのかもわからぬままに戦争に巻き込まれては目に見えぬ血を流し続けることを余儀なくされる昨今の潮流。立場の違う人間同士が同じテーブルについて対話することも許されない中で、どうしたらわかりあえるのだろうという問いについては常々考えているが、本脚本を拝読して「痛みの共有」が答えのひとつになるのかもしれないと感じた。立場や向いている方向が違っても「痛み」や「熱量の高さ」だけはわかちあえるかもしれない。この話はフィクションで、あくまで希望的観測でしかない。それでも、そんな希望の景色を『光の祭典』は見せてくれる。

光の祭典の中では、先の「視点」にまつわる印象的なセリフが何度も繰り返される。

――私は私のフィルターでしか、世界を見ることができない。

本レビューも、脚本だけを拝読した私による私の歪んだフィルターを通して見た景色だ。

だからこそ、劇場に足を運び、見届けてほしい。そして語ってほしい。あなたの歪んだ、あなただけが持っている、美しいフィルターを通した景色について。


少女都市 第8回公演
『光の祭典』

作・演出 葭本未織
こまばアゴラ劇場 にて
*住所:〒153-0041 目黒区駒場1-11-13 TEL:03-3467-2743
*京王井の頭線「駒場東大前」駅 東口より徒歩3分

公演スケジュール

8月21日(水) 14:00/19:30
8月22日(木) 19:30☆
8月23日(金) 14:00/19:30
8月24日(土) 13:00/18:00☆ ◆
8月25日(日) 13:00/18:00
8月26日(月) 14:00/19:30
8月27日(火) 14:00

☆葭本未織 出演回(青海アキは出演いたしません)
◆佐々木ののか登壇回

受付開始は開演の45分前、開場は開演の30分前

チケット種類・取り扱い・販売日時
一般チケット 3,500円
U25チケット 3,300円
応援チケット 4,500円

* すべて事前精算価格
* 当日券および当日精算は上記の値段から+300円
*応援チケットは特典として「開場時の優先入場権」が付きます。
*日時指定・全席自由・整理番号付
*未就学児童はご入場頂けません。

チケット取り扱い

事前精算(銀行振込) コリッチhttps://ticket.corich.jp/apply/100663/

事前精算(クレジット) 演劇パス https://engeki.jp/pass/redirects/link/604

当日精算 カルテットオンライン https://www.quartet-online.net/ticket/hikari2019

各公演の開演2時間前まで販売
出演者ほか、詳細とお問い合わせはこちらから。

少女都市制作部 girlsmetropolis@gmail.com

ホームページ http://girlsmetropolis.com

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