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猫の道なんて

 学校からの帰り道、涼しく暗い秋の夜道を歩いてたら、足元に気配を感じて、見ると、一匹の猫が僕の先を歩いていた。
 へえ。
 僕は、歩くペースを落として、猫を後ろから着いていってみる。
 薄茶色の猫で、丸々としてて、首輪がないので野良猫かも、と思うけど、野良猫でも太れるのは、近所の誰かがエサをあげたりしているからなのか。
 こんな夜道をどこへ行くのかな。
 そう思いながら、ボンヤリ歩いてたら、前の猫がピタッと止まり、こちらを振り向いた。
 わ。
 僕は立ち止まる。
 猫は僕を見つめている。
 風の音だけが聞こえている。
 僕と猫しかいないから、猫は僕を見ているのだと思う。
 僕も猫の顔を見つめて、かわいいな、とか思ってたら、また猫は顔を前に向けて、歩き始めた。
 あ。
 僕も後を着いていく。
 で、それから猫は、歩きながら、たまに、こちらを振り向くようになって、僕は、つけられていることがわかったんだ、と思った。
 そうして歩くうちに、だんだんと、道の先にある大通りを走る、車の音が聞こえてきた。
 このまま猫は大通りに行くのかな、と思ってたら、分かれ道で、そちらではない方向に歩いていった。
 で、そっちに行くんだと思ってたら、猫が、その道の先で、こちらを振り向いた。
 大通りにはつながらない、暗い道の先から、僕を見つめている。
 僕は立ち止まる。
 僕の前には、大通りへの道と、猫への暗い道がある。
 どっちを選ぶ?
 帰り道だから、大通りへの道を選ぶ?
 でも、僕は立ち止まってしまう。
 なぜなら、僕は暗い道の猫について、変な妄想を膨らませてしまっているからで、それは、このまま猫について行ったら、どこかの異世界につながってないかな、というものだった。
 猫について行ったら異世界へ。
 多分アニメとかの影響だろうけど、でも、僕は何となく、ドラマというか、物語を感じていたのだ。
 立ち止まる僕を見つめる、暗い道の猫。
 こっちに来いよ、という意味なのか?
 それとも、ただ見つめてるだけ?
 どうだろう?
 猫は言葉を話せない、というか、僕が話すような日本語は話せないから、立ち止まる僕には、わかりようもなかった。
 なにもわからない。
 ついて行かないと。
 でも、僕は、やっぱり大通りへの道を選ぶことにした。
 猫から目を離し、真っ直ぐに道を歩く。
 猫にはもう、目を向けなかった。
 でも、それから僕は、考える。
 猫の道を進んでいたら、どうなっていた?
 どこかの異世界に行けたかな?
 それとも、なにもない夜道だった?
 どうだろう?
 なにもないとしたら、どうして猫一匹で、ただの夜道が、異世界につかながるだの、変な妄想を生み出すのか?
 猫だから?
 猫はかわいいし、アニメキャラクターとかを連想するし、そんな物語は色々とあるから?
 それとも、猫には特別な力があって、人間に変なイメージを植え付けているのか?
 どうして?
 異世界に案内するため?
 まさか?
 やがて道が大通りへとつながり、車や人混みがあふれる道を歩いてると、僕の暗い夜道の妄想も、雑音にかき消されてしまった。
 つまり、どうでもよくなってしまった。
 猫の道?
 異世界?
 なにそれ、意味がわからない。
 そんなのあり得ないし、暗い夜道に浮かされた、僕の下らない妄想って気がしてくる。
 白けた気分のまま、大通りを歩く。
 大通りには、いろんな人がいる。
 みんな、知らない人だ。
 この僕が猫と異世界について妄想していたなんて、ちっとも思わないだろう。
 そりゃそうだ、と僕は思う。
 そんなのつまらない妄想だから。
 どうでもいいことだから。
 猫の道なんて。

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