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必勝なき新たな道を 地層を重ねて進め:Galapagos Supporters Book⑬(後編)

シリーズAで累計13億円の資金を調達したAIR Designのガラパゴス。
そこには株主や顧問、社外取締役という形でガラパゴスを支える、たくさんの支援者の存在があります。
ガラパゴス・サポーターズブックでは、そのような外部の支援者と、ガラパゴス代表・中平の対談を通して、ガラパゴスとAIR Designの魅力をお伝えしていきます。

本記事は、シリーズ第13弾・新規事業家の守屋さんとの対談記事の後編です。前編については、以下よりご笑覧ください。

経営者は現場にいるべきか、離れるべきか

守屋:思い起こせば、あの時は中平さんを中心に踏ん張ったじゃない?

中平:そうですね。

守屋:資金調達が終わった後だと、社長が誰かに旗振りを譲ることが増えてくるんだよね。「上の目線に立たねば」という正しい理屈であると同時に、ひとつ間違えると必要なことまで部下にやらせることになってしまう。「会社の価値は何か、その価値は本物か」という本丸の話だから、本来下に投げるようなテーマじゃない。そういう意味では、トップの中平さん自身が矢面に立って頑張る方向に進んだことが功を奏したよね。

中平:これ、結構良いテーマだと思うのですが、経営者はアンラーニングしながらも成長する必要があると思っています。いつまでも現場に居座ってはいけないけど、離れるタイミングを間違えると本丸が崩れてしまう。守屋さんが今まで創業、もしくはサポートした会社でも、同じようなフェーズってありますよね。

守屋:あるある。

中平:社長も初めての経験だからセンスが磨かれていないわけです。とは言え、誰かに言われてやるものではなく、本人が決めるしかないものです。

守屋:難しいんだよね。「トップは一段上がるべき」という話は当然その通り。一方、自らが降りてやるべきこともあって、相反するようでどちらも正しい。

中平:本当にそうですね。

守屋:「0か100か」みたいな明確な議論ではなく、常に「49か51か」ぐらいの微妙な分かれ目なんだよね。ほんの少し見る角度を変えると、白にもなり黒にもなる。僕自身も経験をもとに一生懸命アドバイスはするんだけど、「51かも、いや、もしかしたら49かも」とか思いながら伝えてたりするわけよ。

中平:そういう意味ではシリアルアントレプレナーは強いですね。予め感覚が分かるから、失敗したとしてもリカバリーができる。

守屋:それはあると思う。あと、調子が上がってくると世間が「すごい」って言ってくれるんだよね。評判はどんどんリフトされていくんだけど、中は昨日の延長線だから、外とのギャップが段々開いていく。

中平:それは、最近すごく感じます。

守屋:だけど、露出はするべきじゃない?

中平:そうなんですよ。

守屋:ギャップは開いていくんだけど、多少背伸びしてもブランディングはするべきなんだよね。こういう課題は、ステージごとに毎回起こるものだと思った方が良い。

中平:きっとそうなんでしょうね。先ほど話した2020年8月〜9月あたり、伸び悩んでいた頃の意思決定は「僕自身も現場に残る」だったんです。メンバーと一緒になってやることが正しいと思った。実はその後1年ほどたってまた同じような悩みを持っていたのですが、その時は方針を変えたんですよ。僕が降りていくのではなく、GM をモニタリングするというやり方にしてみたんです。正しいかどうか、正直まだ分からないんですけど。

守屋:うん、正しいと思うよ。

中平:そう言われるとありがたいです。信じて進んでいますが、迷う時もあるので。

守屋:今回も現場に降りていったら、次回も同じように降りていくようになり、結局「任せられない病」になる懸念もある。タイミングとしても状況としても適切なんじゃないかな。

中平:多分、守屋さんが見てきた経営者の人々は、ジャッジのタイミングが的確だったと思うんです。ラクスルの松本さんも然り。

守屋:トップで頑張るところもあれば、マネジメントチームで頑張るところもあって。その都度然るべきタイミングでの判断が求められるから、やっぱり難しいね。

原理主義者の功罪と、ブレーキを踏む勇気

中平:経営ボードも、現状まだ男子校状態なので、もっと多様性が必要だと思っています。性別に限らず、年齢なども含めて。

守屋:人種もね。

中平:あとは、インクスらしくないタイプの人にも来てもらいたい。

守屋:そうだね。我々はインクス出身の強みを活かしながら「可視化」を大事にしていて、あとは「打率」「打席数」みたいなものをすごく信仰している。意志を持つことは大事だけど、一方、原理主義者になりすぎてもおかしなことになると思うんだよね。

中平:そこもまた難しいところなんです、本当に。

守屋:原理主義者と言えるぐらい究極に磨いた方がいい側面と、磨きすぎると世の中に通じなくなる側面もある。相反するけど、基本的に両方なんだよね。「売上と利益どっちだ、両方だ」みたいなね。経営において度々出てくる悩みだと思う。

中平:それがあるから飽きないんですけどね。

守屋:うん、だからこそ人間がやる価値がある。そこはマニュアル化ができないから。

中平:パターンを知り尽くしている新規事業の専門家として、例えば今話していたような、起こり得ることと取るべき対策は予想できるものでしょうか。

守屋:正直、100%確実な成功パターンは分かりません。頑張って、頑張って、頑張って、頑張り続けていると、そのうち何回かラッキーなことが連続して最終的に成功する、ということなんだと思う。ただ失敗に関しては一定程度見てきたので、「これはまずい」という感覚は身に着いているかな。

中平:「落とし穴は匂う」と。

守屋:そうそう。パッと開いた瞬間に、本来あってはいけないものがあるとか、あるべきものがないとか、そういう違和感はなんとなく分かる。

中平:社外取締役として今のガラパゴスを見ていて、ヤバそうな場所はありますか。

守屋:一番「ヤバい」のは、成長を止めることが出来ず、結果として成長が止まる状況。

中平:具体的にはどんな状況ですか?

守屋:ガラパゴスに限らずだけど、成長の波に乗っているときは、一気に成長してしまう、ってのは大事だと思うんだよね。だけど、それも程度問題で、成長痛が過ぎると、組織の崩壊を生んでしまう。たとえば、多額の資金調達をしたが故に立ち止まることができず、とにかくひた走ってしまう。不具合も感じていながら、成長の角度を変える決断が出来ず、いくら正論を伝えても、「今さらブレーキは踏めない」という話になってしまう。この手の深みにハマると、かなり苦しむ。

中平:なるほど、あり得ますね。今後、起こり得る課題について予見はしておきたいんです。絶対大きな課題が生まれると思っています。

守屋:間違いなくあるね。それこそ先ほどの話で出ていた、任せるって言ったのに中平さんが我慢できなくて途中でズケズケ入っていっちゃうとか。

中平:それはもうすでに半分くらい起きてるかもしれないです(笑)

守屋:ズケズケといっても、入り方によると思うよ。マネージャーが頑張れない状況を作ってしまったり、結局中平さんのことを見て動くようになったりすると、「任せるって言っておきながら結局中平さんが壊してるじゃん」みたいな話になってしまう。

中平:それが一番あり得るシナリオですね、きっと。

守屋:だけど一方、最短距離で行くために方針を変えるべきだという考えもあるから、そこも含めて経営判断が必要なんだよね。

中平:これからガラパゴス、AIR Designの未来はどうなっていくと思いますか?

守屋:どうしてもガラパゴスと相性の良いラクスルとなぞって考えてしまうところがあるんだけど、AIR Designがラクスルでいう印刷、つまり目玉のサービスだよね。

中平:はい。

守屋:ラクスルのように、今の状態と次に生み出すビジネスがうまく重なって拡大させられるのか、組織づくりの先に来るであろう大きめの課題だね。

中平:第2、第3の矢ということですね。

守屋:「我々はやる」と宣言しているし認識もされているけど、矢を放ったらまた滑った転んだ、という話は出るだろうから。

中平:タイミングも難しいんですよね。次の種をいつ仕込むか。

守屋:AIR Designでグッとアクセルを踏んだ瞬間に「おっ」と人心をざわつかせているから、うまくやらないといけないよね。

中平:4個目、5個目くらいになると、評判も安定しているからさほど大きな影響は出ないようにも思うのですが、2個目、3個目くらいだと、「外れた」と評価される可能性もありますからね。

守屋:「見ている側」は物事をバランスよく見ているつもりでも、「見られている側」は想定のバランスで見られていない、ということもあるし。

中平:それはありますね。

守屋:そういう差分の発生には注意が必要だよね。

経営のうねりの中でバトンを渡す難しさ

中平:それにしても本当に、AIR Design立ち上げから、守屋さんにはすごく助けられたという想いが強くて。特に初期の営業戦略、CS 強化など、大事な局面でハッとするアドバイスを常にいただいていたので、感謝してもしきれないです。

守屋:お役に立てているのであれば嬉しいです。例えば今のラクスルに在籍しているメンバーは、俺が当時何をしたか誰も知らないと思う。当時の勝ち筋であったチラシのポスティングについても、今のメンバーからするとあまりにも古い話で。集客支援なんて「ノバセル」という全く違う事業になっているし。だから、段々昔話になってしまうんだけど、会社が何者かになる前に貢献できるということは、楽しいし、相当嬉しいことなんだよね。

中平:「昔話になる」という点で、寂しいと感じることはないですか?

守屋:関係が切れてしまったら寂しいけど、基本的には切れないから。ラクスルも未だに全社会議に参加しているし、寂しいと感じることはないかな。むしろ、当時の自分には全然想像できないくらい大きなことを実現しているから、もう尊敬のまなざしで見ているよ。社長も役員も、皆の発言や振る舞いが勉強になるし、「なるほど」と思う事が多い。

中平:CEOである松本さんのお考えも、当時とは全然違うわけですよね、おそらく。

守屋:そうだね、新しいビジネスを次々に生み出しているしね。

中平:やっぱりゼロイチは社長、もしくは社長に近い人がやらないとダメなんですよね。生み出す過程の中で社長自身どんどん成長していくと思いますし。僕も役員陣も、きっちりと成長していかないといけないと感じています。守屋さんがサポートされた会社でも、メンバーが増えて層が厚くなるフェーズがあると思います。特に難しいポイントはどこだと思いますか?

守屋:トップが誰かにバトンを渡す際の相手とタイミングかな。ぴったりはまる人がいいタイミングで入ってくると良いけれど、なかなかそうはいかないよね。

中平:そうですね。最近、一番大きなイシューとして取り組んでいることはある意味で「トップヘビーな組織を作る」ということなんです。上を濃くしておけば一定確率でバトンを渡せる人が育つと期待して、上位レイヤーの人たちを採用することを心がけています。

守屋:「事業計画」「組織計画」「財務計画」の三本の線をまとめたものが「経営計画」だとして、その全部が揃って右肩上がりだといいけど、現実はそうはいかないんだよね。すべての線が違う形で波打っていて、重なってくれないんだよ。ちぐはぐに上がったり下がったりするから、差分がしょっちゅう広がって悪さをするんだよね。

中平:売上は上がっているのに人が足りないとか、人が一気に増えたけど仕事がない、みたいな状況ですね。

守屋:そうそう。そこに輪をかけるようにお金の問題が出て、必死に調達したりして。金が入ったからといって戦略が乏しいままにジャブジャブ採用しちゃったりとか。何にしても3本の線がうまいこと重ならないから、思っているほど滑らかにバトンは渡せない。

中平:そうですよね。今は資金調達が済んで心に少しゆとりがある中で、「人を増やすぞ」という感覚はあるんですけど、そういう時代は長く続かないとも思っているんです。とはいえ、今がボーナスタイムみたいな感覚もあり、判断が難しいところですが腹を括ってやるしかないですね。

守屋:ある程度組織、チームができた後は、第2の事業、つまりAIR Design の次を作らないといけない。そこをクリアすれば、また違った景色が開けると思うよ。

中平:第2の事業が軌道に乗るくらいのタイミングで、また課題が待ち構えているんでしょうね。

守屋:でも、我が社の成長パターンは地層を重ねていくスタイルなんだよ。この先何があっても、独自の勝ちパターンを展開できるということが、世の中に説明できる。これは新たに採用することを考えても、お金を呼び寄せることを考えても、過去の積み重ねに関する説明がつくかつかないかの違いは大きいよね。

中平:確かにそうですね。

守屋:地層を重ねていく中で、今はポストもたくさんあるし、売上も上がっているわけだから。さらにマネジメントチームがより強くなり、第2の事業を生み出すところまで行けば、うちの会社はまた一段高みに行くと思う。

中平:ちょうど1年後くらいでしょうかね。

守屋:そうだね、がんばりましょう(笑)

中平:ありがとうございます。最後に、ガラパゴスに興味を持ってくださっている方にメッセージをお願いします。

守屋:ガラパゴスは、今まさに成長フェーズにがっつり爪をかけている状態です。AIR Designという勝ち筋、勝ちぶりがなんとなく見えていて、これを一気に強靭にするために組織を大きくしていきます。そのために仲間が必要です。強靭な勝ちぶりを示した後に、さらにそれを1層、2層、3層ってどんどん大きくしようと思っているので、活躍の場をたくさん用意できるはず。絵空事ではない、築き上げたものが結果として先に見える世界に、ぜひ参画してもらえたら嬉しいです。

新規事業に特化して様々な業種業界のサービスを立ち上げてきた守屋さん。
プロダクトの戦略から組織の育て方まで、広く貴重な経験値を還元していただいています。

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(文責:武石綾子・髙橋勲)