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アステロイドシティ

ネットのレビューはわりとひどいみたいで、確かにあまり万人向けの映画ではないかもしれないし、トムハンクス目当てで観に行ったら「なんだこれ?」になりそうではあるけれど、ウェス・アンダーソン好きなら確実に楽しめるはず。あと、マヤホークがすごくかわいかったのでファンの方にもおすすめ。

隅々までかわいくて独特でおしゃれなビジュアル、繊細でクセのある登場人物、チラチラ織り込まれる風刺、ハラハラドキドキ要素が

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ムッシュ・カステラの恋

 自分のほしいものやいっしょにいたい人、心地よい場所。幼いころに発見する人もいれば、一生分からない人もきっといる。財も地位も築いた、いい大人になってから気がつくことだって珍しくはない。ちょうどこの映画のムッシュ・カステラのように。
 タイトルの通り、ムッシュ・カステラは恋をする。妻帯者で父親。企業の経営者で、いつでもボディーガードと運転手を伴うような身分の彼。それでもすとんと舞い降りてきた恋に素直

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もしも阿佐ヶ谷姉妹がメルセデスベンツに乗ったら

もう乗ってるかもしれないし、もちろん乗ったとしてもどうってことはないのだけれど。

「阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし」を読んだ。テレビで観るイメージ通りの、お二人の慎ましく朗らかな毎日が綴られているエッセイだ。ほっこりする。あまり自分の生活と変わらないなと思う。
でもでも、彼女たちはもはや相当な売れっ子だ。エッセイが書かれた頃とは違う。その後、生活、変わってないのかな
変えたくなってないのかな

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ゴーストワールド

「ダメに生きる」というキャッチコピーに惹かれて観てしまった。
確かに面白いけれど、それほど客観的ではいられなかったせいか、いまいち楽しい気分にはさせてくれない。でも、あとを引く、いい映画だと思う。
大好きな服とメイクで完全武装し、周囲の人を手当たり次第傷つける。主体的な行動、自由の満喫。なのに気分は晴れないどころか、どんどん自己嫌悪に陥り、苛立つ。そんなやり場のない痛みに自己完結的に苦しむ主人公イ

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The Water method man

平穏な生活を送っていると、それを破壊するかもしれない少しの歪みに敏感になり、微かな兆しにも怯えてしまう。仕事で失敗すれば、クビになることを恐れ、恋人と喧嘩をすればそのままフラれるのではないかと心配する。世界は不安に満ちていて、ありったけの知恵で予防線をはらずにはいられない。
でも、仮に不安が現実として迫ってきても、なんとかやり過ごせるものかもしれないし、それほど不幸ではないのかもしれない。この本は

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二番目の悪者

二番目の悪者(林木林著 庄野ナホコ絵/小さな書房)という絵本を読んだ。

去年の秋ごろ、
「小さな出版社のつくり方」(永江朗著/猿江商會)という本にハマり、
以来、本に登場する小さな出版社さんが世に送り出す本をコツコツ読んでいる。
出版社がひとり(あるいはごく少人数)でも成立することにまず驚いた。
ひとつひとつの会社が個性的で、はじめた動機も会社の規模も今後の展開プランも本の作り方もジャンルもそれ

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オテルモル

この小説を読んで数年前のできごとがふと頭に浮かんだ。
「普段よく眠れていますか?」
アロママッサージの事前カウンセリングで担当のセラピストさんに尋ねられたときのことだ。
「いや、実は眠るのが少し苦手で…」
正直に悩みを吐露する感じで答えたら、その方、少しきょとんとしたあとで弾かれたように笑い出したのである。どうやらツボに入ってしまったようで、違うんですとか何かを否定しながらも笑いが止まらない。笑っ

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サイダーハウスルール

例えば、「助けて」と本気で叫ぶとき、誰の顔を思い出すだろうか。例えば、自分の歩いている道に自信が持てなくなったとき、誰の言葉を検索するだろうか。この本を読んで、そんなことを少し考えた。
 主人公ホーマーは孤児だ。引き取られることを拒否したり、拒否されたりを繰り返しているうちに、孤児院で最年長になり、「役に立つ人間」になるべく、親代わりの3人の手伝いをするようになる。孤児院の「主人」であるドクター・

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ヒューゴプール

 見ていてわくわくするような楽しい映画ではないし、ラストシーンには物申したいところも確かにあるけれども、各所にちりばめられた「不思議さ」が心地よくて愛しくなってしまう映画。
登場人物やエピソードの一つ一つが不恰好な形をしているのだが、それらを全部集めてうまく並べ替えると、一枚の絵になり、ひとつのストーリーになる。ちょうどジグソーパズルを組み立てていくみたいに。
肉体が健康な者は精神を病んでいて、精

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