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いつもそばにコーヒーがあった。・4

初めての一人暮らしで買ったもの

時は前後して、大学へ入った時の話から。
友人たちは炊飯器だの洗濯機だの、所謂生活必需品を先ず1番に買っていたのだけれど、僕の場合はカリタのコーヒーミル(*写真)とペーパードリップのセットだった。当時周りの皆には何でコーヒーの道具が1番なのかと笑われたものだったけれど、僕にとっては間違い無く何よりも必需品だったのだ。

その時買った「道具」は、その後、何年も何年も大切な相棒となる。
店を持つ準備で電動ミルを買うことになる、つい数年前まで。

ところで、学生生活の後に僕は札幌で社会人となり、(前回書いた)再上京の後、色々あってフリーランスのフォトグラファーとなり、自宅兼仕事場...と云う程のものではなかったのだけれど、都内の狭い狭い本当に狭いアパートのキッチンが、打ち合わせ場所となったり、友人知人を招いてコーヒーを淹れると云うことが度々あるようになった。
当時の僕は、某量販店のモカ・イタリアンをペーパードリップで甘く濃くどっしりとした味わいに淹れることにとても凝っていて、訪ねてきてくれるそれなりにコーヒー好きの友人知人たちも皆口を揃えて美味しいと、そこら辺で飲むよりGOくんとこでコーヒー飲もうよと云う輩もいたりで、まぁそこそこ評判も良かった。
福岡出身で、僕がCDジャケットの写真を担当させてもらったtheSoulと云うバンドのリーダー・河野健太郎くんが「絶対GOさんと気が合うと思うんです」と紹介してくれたのが甲斐隆史さん。
甲斐さんもその狭い狭いキッチンへと僕のコーヒーを何度も飲みに来てくれた人の一人。
当時を振り返ると1番多く僕の淹れたコーヒーを飲んでくれた人だと思う。
当時持っていたミニコンポの音が、狭い空間では意外と良く聴こえていて、お互いおすすめのCDを掛けながら何度となくコーヒーを飲み、音楽のこと、芸術や表現のこと、写真やファッションのこと、とにかく色々話しに話していた。
「GOさん、此処はもうカフェだね、GOカフェだ」なんて笑いながら言ってくれた時は、まさかお互いがお互いにそれぞれ自分の「カフェ」を持つ未来がやってこようとは、全く考えもしなかった。

余談だけれど、僕は勝手に甲斐さんは親友であり戦友だと思っていて。
それはあの珈琲時間があったからこそだと思っている。
交わしたのが盃ではなくてマグカップだと云うのは、何とも僕ららしい。ねぇ、甲斐さん。

カフェとはシーンである

その日は突然やって来た。
キッチンのテーブルにノートPCを置き、淹れたてのコーヒーを飲みながら、写真のセレクトをしていた。
テーブルがガタガタと揺れ始めた。
変な表現だけれど、どこかで地震慣れしていた僕は、まぁ直ぐにおさまるだろうと思った。次の瞬間、地鳴りの様なものを感じた気がして、急いでガスの元栓をしめ、玄関ドアを開ける - 目の前の道が波打ち、通りの対面のマンションのベランダには、洗濯物片手に手摺にしがみついている人が数名。

2011年3月11日14:46。

僕自身は東京にいて、直接的な「被災」こそ無かった。とは云え、当たり前の日常が為す術なく流されていく光景が、繰り返し繰り返し流されたあの時間、あの期間は、自分の人生を - これまでとこれからと - 考えさせられた大きな大きな時間だった。

惑わない年齢の筈が、本当に様々なことが色々とあって、都会の雑音から少しだけ離れたくなり、都心に程近い隣県の小さな市に一時越した。

自身のこれまでとこれからを見つめ直す時間を作ろうと過ごしはじめ、暫くした頃、自分にとって、居場所としての「シーン」とは一体何だろう、そう考えてみた。
その時、当たり前の様にすっと思い浮かんだのは、他でもない、淹れたてのコーヒーの在るシーンだった。

東京のアパートより少しだけ広いキッチンのテーブルで、Jazzのレコードをかけながら、手挽きのミルで豆を挽き、ていねいにドリップしたコーヒーを、温めたマグカップに注ぐ。
自分ではない誰かに淹れるつもりでていねいに淹れたコーヒーをゆっくりと味わいながら、これまで僕が通い、また訪れた様々な街の喫茶店、カフェ、珈琲店、コーヒーの在る様々なシーンを思い浮かべる。
「そこ」への行き帰りの道中の景色やその時に抱いていたであろう感情なども含めて。

自分の好きな、そして居心地の良い場所には、いつもコーヒーがあった。
それは多分、今も、そしてこれからも。

僕は寫眞家(フォトグラファー)として、ずっと「シーン」を探し求めてきた。
けれど、これからはその「シーン」を、つまりは佳き「コーヒー」の在る「場所」として「シーン」を作ってみよう。
一人、そう考えた。
2015年のこと。

時を同じくして、その年の夏、甲斐さんがBlackwell Coffeeを吉祥寺にオープンしたのは、きっと偶然ではないのだと、最近になってしみじみと思う。

さて僕はと云うと、(これまで学生時代のバイト程度で)全くもって未経験の飲食の仕事を始めるべく、先ずはカフェについて勉強をと、飲食の某学校へ一年間通うことと決め、2016年春から通うこととなる。

(続く


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