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中国の地方政府債務問題について。

今日は中国の地方政府債務の問題について。長年悪化していると言われている中国の地方財政だが、最近ではこんな報道が出ている。

EV急拡大の路線バスが破綻 中国、財政難で補助金削減
(抜粋)中国各地で路線バス事業が破綻している。中国では初乗り運賃が1元(約20円)~2元程度で、高齢者は無料のケースも多く、公共サービスの色彩が強い。多くの事業者は当局の補助金を頼りに運営を続けるが、多額の債務を抱える地方政府は市民に最も身近な公共交通を支えきれなくなっている。

産経新聞、2023年4月19日

足元のインフラがぐらついている事例はこれだけに止まらないが、他にも地方政府の公務員給与が削減され、役人のフラストレーションが高まっているとの声も聞かれる。

中国の地方政府債務の総額9兆ドル=約1200兆円(2023年4月)に上るとされ、国内総生産(GDP)の約50%を占めると言われている(ロイター)。ちょっと桁が凄すぎて何とも言えないが、ご参考までに日本の地方自治体の債務は令和3年(2021年)度末で193兆円で、対GDP比は35%だ(財務省統計)。

下のグラフは、MMT学派のヤン・リアン教授(ウィラメット大学、米国オレゴン州)が中国人民大学での講演(2022年6月)で紹介している政府債務残高(対GDP比)の推移だが、緑が中央政府、グレーが地方政府の割合を示している(含む2025年までの予測)。過去10年間で見ても中央と地方の政府債務比率は五分五分といったところだ。

出典:BNP Paribus (2022)

リアン教授も指摘しているが、MMT目線で見ても、中国の通貨主権の度合いは決して低いわけではなく、むしろ非常に高い。外国資本の流入もコントロールされており、為替も米ドルとのペッグが緩和され、対外債務と外貨準備の比率も特に問題がない。

とはいえ、政府サイドが自国の通貨主権の度合い、財政・金融政策の自由度を理解しているかは別の問題である。実態と認識のズレから生じる政策の歪みは、日本やアメリカ、その他の国でも共通の課題だ。

中国人民大学の賈根良(か・こんりょう)教授らは、ランダル・レイらMMTの学者の協力を得て、中国の地方政府債務に関する論文を書いており、中国の財政制度では、中央政府が財政赤字の削減を優先することが多く、財政負担が中央政府から地方政府へシフトする傾向があると指摘している(Zengping He and Genliang Jia, June 2019)。本来は通貨発行政府である中央政府が地方財政を支援すべきだが、実際には中央政府の赤字削減目標のしわ寄せが地方政府の債務問題として顕在化してしまっている。また「顕在化」と言っても、中国政府が把握しきれない地方の「隠れ債務」といった存在もあり、地方財政とこれに伴う金融リスクはもっと深刻であると考えられる。

地方財政の問題に対するリアン教授や賈教授らMMT派の解決策は、シンプルに中央政府が財政赤字の拡大を容認し、地方政府への財政移転を通じて地方経済を支えることだ。もちろん金融リスクの観点からは、俗に言う「影の銀行」や地方融資平台(LGFV)(地方政府傘下の投資会社)からの借入抑止のためにも規制強化は必要だが、そもそもそのような手段に頼らざるを得ないほど地方財政が資金繰りに困っているのが問題だ。

今地方政府が政策面で大きな成果を求められているのが雇用の成長である。李強首相は「雇用第一」を訴え、雇用創出目標を昨年の1100万人から1200万人に引き上げた。これは今年に過去最高となる1158万人の大卒者が新たに労働市場に参入することを受けての方針だ。最近の統計では若年層(16〜24歳)の失業率が18.1%という恐ろしい数字(過去最悪)も出ている(ロイター)。

地方政府は家計や企業と同様あくまで「通貨の利用者」であって、その支出は税収、借入、資産売却、中央からの移転支出等によって賄うことしかできない。雇用という大きな問題に対処できるだけの財政能力は期待できない。

当方のブログでも紹介したが、先の賈教授がMMTの提唱するジョブ・ギャランティー(就業保証)に注目し、国務院にパイロット実施の提言を行っているのも、上記の雇用状況の悪化を踏まえれば理解できるだろう。また中央政府が「出資主体」、地方政府が「実施主体」で行う雇用プログラムは、中央と地方の財政関係にとって望ましい形の一つであると言える。無論、地方財政の問題はわが国にとっても対岸の火事ではなく、国による地方への財政支援、雇用への出資が必要であることには変わりない。(以上)

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