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最近読了した海外文学3冊、雑感。

読書が好きです。

というのは簡単ですが、遅読のためはかどらない。読むより買う方が多くなる。自粛期間中に余計購買意欲が高まってしまい、未読の本が部屋の隅に積みあがっています。居たたまれない気持ちで過ごしています。

しかしながら、自粛期間中の良かった点としては海外小説に取り組める時間が増えたこと。

普段は通勤時間くらいしか読書をしないので、ライトに読めたり意味を理解しやすい日本の小説を手に取ることが多かった。翻訳されているためやや難解で、読むのに力がいる海外文学は避けがち。しかし自粛期間中、リモートワークだったため家での時間がたっぷりとれ、その分前々から読みたかった海外文学を自然と読み進めることができました。

読んだ本の雑感を書いていきます。

ポール・オースター著『ガラスの街』

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人生初・ポール・オースター!手に取った理由は「薄いから」。

アメリカ文学です。舞台はニューヨーク。「そもそもの始まりは間違い電話からだった」という印象的な滑り出しで始まる物語。そこから、不遇の主人公(私立探偵)が奇妙奇天烈な依頼を受ける。

主人公は物語を始める前に家族を亡くすなどの不幸に見舞われてどん底にいるのですが、その依頼を通して少しずつ回復の兆しを見出す……。と思いきや、「意表を突く鮮やかな物語展開」と文庫裏のあらすじにあるように、思いもよらない顛末を迎える。

読了した瞬間に、いきなり物語が喪失して愕然としました。探偵=ヒーローのような存在で、最後は鮮やかに解き明かしてくれるだろう!と期待していた自分に気づき、申し訳ない気分になりました。

アメリカ文化といえば、成長物語やヒーロー物語といったイメージが強いので、主人公の探偵に過度に期待してしまったのかもしれません。そういった意味では、偏見から目を覚まさせてくれる小説でした。

正確には探偵小説ではないとわたしも思いますが、伏線を確認したくなって「もう一度最初から読みたい」と思いました。海外文学は、日本の日常を忘れて没頭できる。好きだなぁとしみじみ。

このあと、気づいたらポール・オースターの本を3冊、追加購入。

マイケル・オンダーチェ著『戦下の淡き光』

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購入して半年くらい積んでいるところを、やっと引っ張り出してきたマイケル・オンダーチェ!

いきなり余談なのですが、装丁が個人的に好きなんです。帯の印象的なフレーズといい、シンプルで、物語を象徴するような絶妙な表紙のカラーといい。5年くらい前に、『名もなき人々のテーブル』を装丁買いしたことが懐かしい。それがマイケル・オンダーチェの出会いで、読んでその繊細で宝石のようにきらびやかな文章表現に一瞬でファンになりました。これで2冊目。

第二次世界大戦直後のロンドン。冒頭から”蛾”、”ダーダー”と名乗る「犯罪者かもしれない男ふたり」にゆだねて、主人公ナサニエルと姉のもとから母はいなくなってしまう。

戦争という命が脅かされている状況下で、母が子供たちを置いて姿を消したのはなぜなのか?男ふたりの正体は?

主人公のナサニエルは思春期という多感な時期に戦争や母の失踪、怪しい男との同居など、ストレスフルな日常を送る。戦時下の経験はナサニエルにとって大きな傷を与える出来事となり、戦争が終わった後も明かされることがなかった母の秘密を追いかけ続ける。

過酷な現実の中でも母を思い続け、愛そうとするナサニエルが健気。

時間を行き来したり、視点を変えることで解釈の余地を広く残したりするなど、文章運びがとても面白く謎がかきたてられます。戦時下といったドラマチックな展開のなかで、詩的できれいな文章表現を見つけると感激し、読む手が止まらなかった。おかげで夜更かしし、寝落ちする本でした。

読了後、『イギリス人の患者』を購入してしまいました。映画『イングリッシュ・ペイシェント』の原作小説だそうです。楽しみ!


ディーリア・オーエンズ著『ザリガニの鳴くところ』

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いろいろとんでもない本でした!

亀の甲より年の功とはこのこと。著者は本作がデビュー作なのですが、69歳の動物学者という肩書あり。動物学者が描く推理小説って、気になりすぎる。

小説の舞台は1960年代のアメリカ。人種差別や貧困の差が激しい年代です。

6歳で家族に見捨てられて一人で生きねばならなかった「湿地の少女」カイヤが主人公。「湿地」を舞台にしたカイアの孤独の心理描写がすさまじく胸を撃たれます。何度も目が潤みました。
しかし生き抜く姿もたくましい。少年テイトから言葉を教えてもらうことで、知的好奇心を自ら満たしていく純粋さと聡明さは惚れ惚れするほど。

しかしカイヤは、街で裕福な家庭に育った青年チェイスの不審死事件の犯人ではないかと疑われ、裁判に発展する。ピンチ!ハラハラ!

カイヤは湿地で孤独に過ごしておかげで、自然界の動植物を観察し、時には友にして生き抜いてきた。そのおかげで育まれた生死観やメンタリティが印象的で、読みごたえがある。さすが動物学者である著者。圧巻です。

500ページありますが、半分超えた後は手が止められず、半日かけて読み終えました。吸引力もすごかった。ぜひ次作も読みたい作家さんですね。

余談

『ガラスの街』も『戦下の淡き光』も『ザリガニの鳴くところ』も、主人公が必ず家族を消失することろから始まります。『ザリガニの鳴くところ』なんか、主人公以外で6人いた家族全員いなくなるからね。

「主人公を孤独にさせることで、行動せざるを得ない状況を創るため」「主人公の成長に、両親の存在は邪魔」などといろんな理由を聞いたことがあります。トレンドもあるのかな。それでも壮絶なバックグラウンドに引き込まれてしまうので、たくさん読みすぎると自分まで引き込まれそう。

ちょっとライトでポップな話を、次は読もう!





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