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ゾンビにも春は来る

「最近、心も身体もとても良くなっていますね。これから春が来ますから、きっともっとよく眠れるようになりますよ」

カウンセラーの先生が眩しげに微笑んでくれた。私の心の快復を、私以外に喜んでくれる人がいるなんて幸せなことだ。


うつで仕事を辞めて以来、カウンセリングに通って2年ほどになる。私のうつは学生時代から続いていて、生きているのか死んでいるのかわからないゾンビみたいな日々がなんと6年以上あった。今思えば、結局ギリ死ななかった自分の生命力にアッパレだ。

心の痛みが麻痺していて、気付いたらゾンビになっていた。

一人で夜中に奇声を上げて、眠れないまま毎朝泣きながら歯を磨いて、よろけながら服を着て家を出た。何処へ行って誰と会っても、帰り道ではやっぱり泣いていた。
そんな私の状態をずっと見ていたはずの両親も、何年も続く娘の異常さに、感覚が麻痺していたんだろう。なんで一度も助けてくれなかったんだろう、心配してくれなかったんだろう、と思う日もある。でも私は私で「助けて」の一言が言えなかったんだから仕方ない。
思えば、物心ついてから、私は一度も誰かに「助けて」と言ったことがなかった。


ゾンビから人間に戻り始めたきっかけは、新卒で入った会社を退職したことだ。うつ病の人間が毎日泣きながら就活をして、新卒で入社できたの、マジで狂ってると我ながら思う。しかもギリ隠し通せていた。仕事も死に物狂いで頑張っていたので、私の心身の異常事態は本当に誰にも気付かれていなかった。でも毎日、会社を一歩出た瞬間に崩れ落ちて、ビルとビルの間でひっそり泣いていた。家まで歩く道のりで、何度もうずくまった。
無理することに慣れすぎていて、人生ってだいたい皆こんくらい辛いもんなんだと思っていた節がある。
ついにぶっ倒れて休職して、半年くらい休職して、復職しようと準備し始めたらやっぱりまたぶっ倒れたのでさすがに辞めざるを得なかった。会社からしたらめちゃくちゃ迷惑な話だ。でも辞めてよかった。ぶっ倒れたのもある意味、ギリ死なないための無意識下の自己防衛だったと確信している。
その後しばらくは、心や脳に溜まったストレスの毒素に死ぬほど苦しめられたけど、2年ほど経った今、その毒素は7〜8割デトックスされたように思う。


カウンセリングから家までの道は、春の陽射しに包まれて心地よかった。思わず寄り道したくなって、映画を見て帰った。

世界がこんなに穏やかで暖かいなんて、知らなかった。ほどほどに健康な皆は、こんなに静かで眩しくて美しい世界で生きていたなんて羨ましい。


最近、BUMP OF CHICKENの『ギルド』の「その場しのぎで笑って鏡の前で泣いて 当たり前だろう 隠してるから気付かれないんだよ」という歌詞が脳内でリフレインしている。BUMPはここ数年聴いていないのに何故か鮮明に再生される。中学生の頃なんかにたくさん聴いていた曲は、時を越えて心身に刻まれているみたいだ。
その歌詞が心身に染み込むまでには、10年かかっちゃったけど。


ちょっとした日記を書くつもりが、気づけば1000字を超えてしまった。
取り留めもない文章だけど、いつも寝る前にノートに書いている日記を、これからしばらくここに書いてみようかなと思う。
時には周りの人に頼る勇気が必要だってこと。助けてほしい時は「助けて」って声を上げないといけないこと。人は誰もが孤独だってこと。ここ1〜2年で気付いたことは、たくさんある。

きっと、ゾンビにならないと気付けないことだった。

もしもこんな文章を読んでくれる人が居たなら、そしてその人が今ゾンビだったなら、「まずはぜ〜んぶ投げ捨てて、いっぱい寝な」って教えてあげたい。
それだけで、世界はだんだん暖かくなる。

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