キノコホテルの「愛はゲバゲバ」の歌詞があまりにも巧みすぎてつい笑ってしまう話といつも思い出す友人の話

タイトルどおりなのだけれど、キノコホテルの「愛はゲバゲバ」、あまりにも構成や言葉選びが巧みで、聞くたびに毎回「それなー!!!」となり、思わず笑ってしまうので、せっかくだから歌詞を引用しつつ感想を書き散らかそうと思う。それから、この曲を聞くといつも思い出してしまう友人の話も。

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(どうでもいいですが、MV(というか動くマリアンヌ様)耐性が限りなくゼロのためどうにも御姿を直視できない私、それでも文章には残したいので勇気を出して再生してみたら、サングラスをかけているマリアンヌ様は大丈夫であることを発見。つまり目が自分の視界に入ると照れてしまってまともに見れない状態になるみたい(そんな状態、リアルな人間関係でも体験したことない)。これはもう慣れていくしかないのかなという気がしてきました。早く順応してくれ私の脳。)


つまりは歌詞に対するただの感想で、いったい何のために書くかと言えば、いちいち文字に起こさないと自分の中の「それなー!!!」コールが増殖するばかりで頭の中が渋滞する一方なので、書き出したい、書き出そう、いや書き出させてください、という状況だから。文字にしないと落ち着かなくて。
楽曲の受け止め方は聞き手ひとりひとりに委ねられていると思っているので、解釈を押し付けるつもりはなく、あーこんな考え方もあるのかー、へー、くらいにふわっと受け止めてもらえたら。

長いので、歌詞は2パートに分けて書く。友人の話も実は関連するのだけど、長くなってしまったので最後に書いておく。



1.”教えて”の深読みと駆け引きの様子が楽しい前半の話

まずは前半。

ねえ 私に多くを求めたがる
顔は隠して口ばかり達者なあなた
理想と違えばすぐに癇癪起こす
それならあなた何してくれるの

教えて
ねえ私もっと 自由が欲しいの
誰より我侭な 暮らしがしたいのよ
あなたに向かって優雅に微笑む 私で居る為に
投資しなさいよ

キノコホテル 愛はゲバゲバ 歌詞 - 歌ネット (uta-net.com)

”顔は隠して口ばかり達者なあなた 理想と違えばすぐに癇癪起こす”というフレーズは、SNSでつながっている人間関係のイメージなのかな、と思って聞いている。
この曲がリリースされた当時の現X(旧Twitter)、「あなたはこんな人じゃありません」とか「私の理想と違います」みたいなことを、誰でも閲覧できるアイドルご本人の公式アカウントに無邪気に書き込む人がどっと増えてきたような記憶がうっすらとあり(記憶違いだったらごめんなさい)、そのあたりのSNS時勢が反映されているのかな、と思ったり。
(もしかしたらマリアンヌ様ご自身もご経験がおありなのかしら、とつい邪推してしまいそうになり、憶測でしかないからそれ以上はやめとこう、となったり。)

いずれにしても、次に続く”それならあなた何してくれるの”という歌詞は、
「相手に多くを求めるのも理想を抱くのもいいけれど、実際の姿が違って怒り出すくらいなら、それを実現するための建設的なアクションをくれよ。というか、そのためにアクションを起こす知恵と覚悟、あなたにあるの?ないでしょ」と最小数の言葉で”あなた”に釘を刺している感じがウィットに富んでいて、聞いていてとても痛快。

また、”してくれるの”という言葉から、”私”が”あなた”に対して優位な立場にあると思っている様子や強気な態度なのが伝わるのも良い。
(仮に、自分と同等以上と認識している立場の相手にそういった趣旨を伝えるのであれば、「してくださるの」になるんじゃないかなと思う。)

その直後、段落もメロディも変わって、”教えて”と続く。

この”教えて”という言葉のチョイスと配置がすごく巧みだなと思っていて、教えてと相手に伝えることは、すなわち自分が「教わる立場になる≒自分が相手と同等以下の立場に立って学ぶことを乞う」言葉でもあるので、この場所にこの一言があることで、これまでの歌詞にあった、”私”と”あなた”のパワーバランスがゆらいでいる(優位な立場だったはずの”私”が、”あなた”側に降り、寄り添って理解しようとしている)感じが伝わってきて、いったいこの先どうなるんだろう、と、つい続きが気になってしまう。

相手への一方的な命令・指示になってしまう「答えて」ではなく、あくまで「教えて」ほしいんだろうなと考えてみると、一見強気に相手を見下しているようにも見えてしまう”私”の、実は相手と対等な立場で相手を知りたいという、他者とのコミュニケーションへの真摯で真面目な態度と隠れた謙虚さが垣間見える気もしてきて、たった4文字の言葉をここに配置することで、ここまでの情景を表現するセンスの良さに、もうなんかくらくらしてくる。
必要最小限の言葉を、最適な場所に配置することで、最大限の効果を発揮させているところがとても好き。

さらに、”あなた”が多くを求める・理想を抱く・理想と違うと怒り出すのは、そこに”私”への期待や好意といったプラスの気持ちがあるからこそなので、「”あなた”の気持ちはわかっているから、変に意地を張らずにストレートに教えてよ」と、あえて譲歩して伝えてくれている感じもする。
この時点で”あなた”の心は筒抜けだし、もう完全に”私”の掌の上なんだけど、それをはっきり告げずに、あくまで”あなた”のことを伝えるかどうかの決定権は”あなた”に委ねているところが、とても大人で粋だなと思う。(”私”からしかけた方が容易だろうに、あえて待ちの姿勢を取っている感じがたまらない。)

そうしてゆさぶりをかけておいて、”自由”と”誰より我儘な暮らし”を手に入れて”あなたに向かって優雅に微笑む私で居る為に 投資しなさいよ”と一気に強気にせまるくだりは、
「私が私のほしいものを手に入れた上で、”あなたに向かって優雅に微笑む私”=あなたの欲しいものが手に入ったらあなたも私も幸せでしょ。そのためにあなたにできることがあるならすぐにやってよ」
ということなのかなと思っていて、私もあなたもさらに幸せになるための手段を示した真っ当なお願いであり、そういう意味ではものすごく直球かつ正論なので、聞くたび心地よくて、つい笑ってしまう。


書いていて気付いたけれど、この歌詞の”私”は、一見するともしかして理不尽な人?と思えるくらい強気な言葉を使うのだけど、その後を見ていくと、実はちゃんと相手のことを考えていて、ともに幸せになるためにはどうしたらいいのかを真面目に考えている、実は真っ当な人なんじゃないかと考えられる余地が残されていて、傍若無人に見えて根は真面目な人が好き、という個人的な好みは横に置いておくとしても、この短いパラグラフの中でそこまで深い情景を表現できるセンスに、何より私は魅了されているんだなと思った。

2.引きから始まる”私”の揺らぎが楽しい後半の話

続いて後半。

ねえ あなたの中に住んでる私
近頃少し元気ない 気がしないかしら
私の幸せ 願って居ると言った
それならあなた何してくれるの

教えて
ねえ私もっと 高いところから
この世界の全て 眺めてみたいのよ
あなたに決して恥をかかせない 私で居る為に
投資しなさいよ

キノコホテル 愛はゲバゲバ 歌詞 - 歌ネット (uta-net.com)


前半の出だしが強気だった分、”あなたの中に住んでいる私 近頃少し元気ない 気がしないかしら”と、ちょっとしおらしい言葉ではじめられてしまうと、なんかどきっと感がすごい。押し引きでいうところの引きの姿勢。駆け引き上手。

”あなたの中に住んでる私”とあるので、”あなた”は今、”私”の前にはいないのかな(でも完全に切れたわけではない関係)と想像できる。前半とのつながりから考えると、SNSで一時期わーわーリプライつけてたけど最近ぱったり見かけなくなった、でもフォロワーのままではある人たちのイメージなのかな、と思ったりも。

そんな、今はいない人たちに向けての”私の幸せ 願って居ると言った あなた何してくれるの””教えて”という歌詞は、前半と同じ言葉だけど、後半ではちょっと違う意味合いに思える。
何してくれるの、という強気な言い方は崩さないし、歌い方も前半よりこぶしが効いている感じがして力強い。だけどそこが逆に、いたはずの人がいなくなり、足元がちょっとおぼつかなくなる不安な気持ちの裏返しで、だからこそ強がってみせたい”私”の気持ちの表れなのかな、とか、”少し元気ない””私”の存在を認識した(最近見かけないけど完全に切れているわけでもない)”あなた”がどんな反応をするのか、試しているのかな、とか、想像する余地がたくさんあって楽しい。


そしてそこから次の、”私もっと 高いところから この世界の全て 眺めてみたいのよ”で、”私”の望むものの方向性は前半と何も変わっておらず、というかむしろ”あなた”が関わっていたころの、前半の歌詞の”私”よりもさらに高みを目指していることがわかる。実生活でここまであけっぴろげに他者の欲望を見聞きする機会、私の場合はあんまりないので、ここまで歌い切ってもらえるとすがすがしくて気持ちいい。どこまでものぼりつめてほしいなーと思ってしまう。

ちなみにそのあとの”あなたに決して恥をかかせない”という言い回しからは、”私”ではなく”あなた”が恥ずかしいと思うかどうかという、自分ではなく相手側の判断を基準に(大事に)している様子もうかがえる。
前半でも触れたけど、この歌詞の”私”、すごい欲望の持ち主だけど、それはそれとしてまずは相手がどう感じるか、どう考えるかを大切にしようとしている感じがあり、やっぱりもともと他人を知ること(つまりコミュニケーション)に関して謙虚で真面目なところがある人なんじゃないかなと考えられる余地が残されているところがやっぱり好き。

そして、そのために”投資しなさいよ”と続く。
「見かけないけど完全に関係が切れてもいないということは、まだ”あなた”が”私”に期待してくれているということだから、私のためにあなたができることを早くやりなさいよ」ということだと思うのだけど、前半と同じ理由から(2人ともさらに幸せになるための直球&正論なお願いだから)、その真っ当さが気持ちよくて、やっぱりつい笑ってしまう。

3.”投資しなさいよ”でいつも思い出す友人の話

ここから先は思い出話。だけど「愛はゲバゲバ」の歌詞の”投資しなさいよ”という言葉がものすごく的確で真っ当だと思う理由の根幹でもあるので、どうしてもまとめておきたいから書く。
自分の好きな人に、自分にとっていつまでも魅力的な存在であってほしいなら、自分も責任を負う覚悟が必要だと思わせてくれた、昔の友人の話。

その友人のお母さんは365日必ずメイクをする(休日や外出予定がなくても必ずおめかしする人だったらしい)人で、友人は「結婚後も、妻が綺麗でいられる器量を持つ男性と結婚しなさい」と常々言われていると、私に教えてくれたことがあった。

その話を聞いた当時、まるでそういうことに興味がなかった私は、綺麗かどうかよりおいしい食事の方がいいなと思っていたのだけど(ただの食いしん坊なこども)、実際に大人になってみて、結婚後に生活面だけでなく、配偶者の美にまで気を遣うというのは物理的にも精神的にもなかなか難しく、実現できる人は限られるのかも、と実体験をふまえて思うことが増えた。
(言うのも野暮だけど、配偶者が身支度を整えるためのスペースの確保、綺麗でいるためのさまざまな準備・出費・時間確保への理解、身支度中の家事や育児のフォローetc、共同生活を営むための雑務がどんどん増えていく中、自分のプライベート時間や欲しいものを削ってでもサポートをやってくれる覚悟のある人が配偶者でないと、常に綺麗な自分を保つことは物理的に難しいと思っている。)

もちろん綺麗でいるための具体的な努力(メイクや洋服選びのセンス磨き、技術の向上その他もろもろ)自体はお母さんがなされていたのだと思うけれど、おそらく、配偶者にいつでもきれいでいてほしいと思っていた夫(友人の父)も、その時間を作るために、夫側でできる努力をする人だったんだろうなと、大人になった今は想像できる。

例えば休日の朝、少しでも長く眠りたい気持ちをおさえて、配偶者の身支度の時間を作るために、平日と同じかそれ以上に早起きして育児したり家事したりできる人だったんだろうな、というイメージ。友人は兄弟が複数人いたので、それでもそういう時間が確保できずうまくいかなかったこともあったんだろうなとも思うけど、めげずにやり続けてくれたのかな、などと想像している。

どうしても自分の可処分時間が少なくなってしまう中でも、自分の時間を妻への支援の時間に振り分けられる人で、それだけ妻を大事に思っていたということでもあり、つまり友人のお母さんは、友人に、自分を大事にしてくれる人と結婚しなさいよ、ということを伝えようとしていたのかなと思っている。真意は定かでないけれど。

だから、好きな人にいつまでも自分にとって魅力的でいてほしいと思うなら、好きな人の好意というか高みを目指す意思に甘えてばかりではなく、自分ができるサポートをすべきだし、場合によっては、自分が今やりたいことをある程度後回しにしたり、あきらめたりする覚悟が必要だなと思っている。(ある程度、というのがポイント。すべてを投げ捨ててのサポートは結果的に好きな人の足を引っ張ってしまうから、加減が大事だなと思う。)

ただ、そこまでしても、好きな人と自分は他人なので、自分のサポートが常に好きな人のためになるとも限らず、もしかしたら全部無駄になるかもしれない可能性も常にある。
それでも、というか好きだからこそ、相手への期待は相手だけに背負わせるのではなく、報われないかもしれないことを承知で自分も背負う覚悟を持つべきで、何よりその方が、相手まかせにした時よりも自分の幸せ度も増すんじゃないかなと思う。もちろん、自分がすべきこと、できることの範囲は弁えたうえで。


歌詞の話に戻る。
”私”はあなたにむかって優雅に微笑む、高みを目指すとは言っているけど、実際に本当にそうなれるかは誰にもわからないし、実際にその望みが実現したかどうかまでは曲中ではわからない。
それでも、「”あなた”が将来にわたって輝く”私”であることを期待していて、そういう私を見て”あなた”も幸せになろうとしているのなら、実際どうなるかはわからないけど、”私”に向けた期待の分は、”あなた”自身も責任を持ちなさいよ」という意味で”投資しなさいよ”という表現になっているんじゃないかなと感じる。

だからこのフレーズの”投資”という言葉のチョイスはとても的確だし、”あなた”の好意や期待を”私”が信じているからこその言葉であり、”あなた”も”私”もより幸せになるための建設的な提案でもあるように思えて、自分や相手のどちらかが幸せになるわがままな手段に逃げていないところが潔くて心地よい。責任を背負って立つ大人の歌だなと思う。


ところでこの曲を聞いて、そういえばゲバゲバってどういう意味なんだろうと思い、言葉の意味を調べたりもした。この曲に出会わなかったら、もともとのゲバという言葉が、ドイツ語のゲバルト由来というのも知らずに生きていたかもしれない。好きなものができると一気に世界が広がるな。


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