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ITベンダーの部長職から転職して『ユーザ側のシステム部長』になってしまった物語(1)

私は、12年前にベンダーのPMからユーザのシステム部長になった。年齢は、50才、大手ITベンダーにいたものの、55才の役職定年、60才の定年を見据えたときに、ここにいてもこれ以上の大きな成長は望めない。ある程度やりたいことは、この会社でやってきた、との思いが強かった。
若い頃からやってみたいと思っていた、海外プロジェクト、海外出張もオフショア開発、基幹システムのグローバル展開に携わり、中国、香港、シンガポール、フィリピンと経験させていただいた。取りたかった国家資格も国際資格の認定試験も得ていた。これから伸びるであろう、IoTやAIについては、畑違いである上に、その分野は、すでにビジネスとしては立ち上がりつつあり、例えそちらを希望しても私が入り込む余地はないと見ていた。

そのような状況の中、1年先輩の方が、50才で外資系で転職し、「転職するなら50才だ」と囁いた、無謀にもそのチャレンジに触発され、私も転職を決意した。その方が利用した外資系転職のエージェントに登録すると、すぐに案内が来た。1998年アメリカのカリフォルニアで設立されたクラウドベースのERPシステムを提供する会社の日本法人(2006年設立)で、設立後6年が経っていたものの、知名度はまだまだという会社であったが、面白そうだと思って受けてみることにした。
面接官は、もちろん海外の方で、インタビューは私の稚拙な英語で何とか乗り越え、エージェントからも感触は悪くないとの言葉を頂いたが、残念ながら採用とはならなかった。エージェントから英語が流暢な方が来られてその方になったらしいという報告があった。
次に案内を受けたのが、外資系ではないが、大手ゲーム会社のシステム部門の課長職で、こちらは、こちらで面白そうだと思い受けてはみたものの、やはり不採用となった。理由は、私がベンダー出身者であるがゆえにこれまで経験してきた開発・導入プロジェクトについて面接でアピールしすぎたせいか、先方からは、多くの開発プロジェクトの経験はわかったが、ユーザは、保守が大事なので、その経験が必要との理由で不採用ですと聞かされた。何れも不採用の理由については、納得し、この年齢での転職は、経験を買われるわけなので、過去に自分が良いと思った経験でも、採用する側にマッチしていないと興味を持っていただけないということを実感した。
IT業界は、私が社会人になった80年代から90年代、2000年代とIT技術、ITの使われ方、ITに携わる人の役割が無限に広がり、かつ深くなっており、長くいたからいいと言うものではない、と改めて感じさせられた、と同時に逆に考えると、今の自分に不足しているものを補えば、専門領域の中では無双になるのではないかとも考えた。

私に訪れた次のチャンスは、当社がセールス活動を行っていたユーザからのお誘いであった。当社が提案しているシステムを導入するのにリーダ的な人が不足しているので来てもらえませんかという誘いであった。私が担当しているシステムの導入であり、専門知識に問題はない、また、企業としては、多くの海外拠点を所有しており、海外の方たちとも仕事が出来る(海外にも行けるチャンスはあるし、英語も強化できる)、給料は、現状維持で調整してくれるというではないか。良ければ業務経歴書を持ってきてくださいと言われ、迷いはなかった。翌日には業務経歴書を渡した。その翌日には社長が会いたいと言われ、面談し、その日のうちに採用が決まった。声を掛けていただいて3日目にして採用が決まったのである。即刻、会社の退職プログラムに登録し、3週間で退職し、転職することとした。

社長面談では、これまで自分がやってきたことを聞かれ、グローバルに展開している会社なので、英語は出来ますかと聞かれ、ハッタリで「何とか」と答え、自信はありますかと聞かれ、「あります」と答え、50才の3月に初めての転職を決めたのである。そして、4/1を迎えるその直前、私を誘ってくださったシステム部長が、私の採用が決まったので、私は辞めると言い出したのである。私は、システム導入のリーダーとして、そのプロジェクトに専念するつもりだったので、まさに、梯子が外された、誘ってくださった人がいなくて、どうなると思った。そして入社の前日に執行役員との面談があり、「システム部の部長ということで入ってもらうことになったので、よろしく」と言われ、差し出された右手に反応し、手を握ってしまった。

全くの想定外のシステム部門の責任者であった。頭の片隅にあったのは、保守の経験がない、さあ、どうなる、私。こうして私の初めてのユーザ企業、初めてのシステム部長の仕事が始まることになったのである。


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