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ITベンダーの部長職から転職して『ユーザ側のシステム部長』になってしまった物語(3)

『無知の知』を感じただけでもいいかと思ったグローバル会議の一週間、この一週間のある一日で、全社のキックオフが行われた。これまでITベンダーで勤めていた私は、もちろん自社のキックオフに参加してきた。前職のキックオフは、1000人規模で入る地下の講堂のようなところで、それぞれの事業本部によるキックオフが行われていた。SI事業、ネットワーク事業、社会インフラ事業など様々な事業がある中で、SI事業のキックオフに参加していたのだが、さらに官公庁、自治体、医療、流通、製造業、装置業とそれぞれの事業本部に分かれていて、どのキックオフにも参加・退席は自由という方法で行われていた。

私は、製造業のお客様の担当であったので、自部門のキックオフに参加するのは当然のこと、それ以外にERPを行っていたので、関係が深い装置業や流通業にも参加することもあった。私が辞める前年の2012年当時のキックオフのメインは、これから伸ばしていくクラウドやIoT、運用のアウトソーシングにシフトしており、ERPのキーワードはほぼ消えていた。ERPは、ブームという意味では終焉を迎えつつあり、一抹の寂しさを感じながらも普遍的に必要な仕組みであり、継続的発展させるべき事業として取り扱われていた。少し際立つものとしては、ERPを導入したユーザのグローバル展開をビジネス化していくというところがテーマとなっていたが、ビジネスボリュームとしては、大きいものとは言えなかった。

一方、私が転職した自動車部品のキックオフは、やはり、事業が全く違うということで、新鮮さを感じるものであった。売上、営業利益、経常利益、EBITDAなど、項目に違いはあるものの海外拠点すべてを含めた合計と海外拠点毎の前年度の成績及び、今年度、来年度、翌々年度まで報告が最初になされるところまで同じであったが、印象的だったのは、3年後の目標が達成されることは決まっている的なニュアンスで社長が発表したことである。この自信に満ち溢れた発表が行われたことを推察出来たのは瞬く経ってのことであるが、自動車部品会社は、新機種の部品の採用という意味の受注は、新機種の量産に入る3年前に決定する、それから設計、開発、テスト、量産と進み、量産の売上として表に出て来るのは、新機種受注の3年後で、その採用された部品が使われる車の台数も自動車メーカーの販売計画や、過去でたシリーズがどの程度売れたのか、世界経済の伸びはどうなのか、などから受注段階である程度量産後の売り上げの見込みを立てているということのようで、それで新機種受注の3年後の売上の見込みを自信を持って言えるのかと、つまり、2012年の新機種の部品の受注が好調だったと言うことなのだろと自分の中で解釈したのである。

IT業界は、ライセンス保守や運用保守などサブスクで固定的に立つ売上はあるものの、SIビジネスを主体としている場合は、一定期間のプロジェクトがメインの収益源であり、4月の初めに翌年3月末の売上を確信できるだけのプロジェクトの受注はないというのが普通で、一年、一年が勝負のところがほとんどではないかと思う。なので、4月の段階で見込む売上の確度は決して高いものではないと思う。しかし、企業は毎年、IT予算を立案するので、その予算に対して、前年の秋から必死な受注活動を行い、特に3~6月頃お客様のIT投資案件の奪い合いを行うことになるのである。

ベンダー側にいたときには、お客様の予算編成時期など把握しながら、受注活動にかかわっていたが、そのIT予算立案の大小とシステム投資のタイミングがお客様のビジネスと関連しているのか、というのは、転職していなければ、現実感として感じたり、理解したりすることは出来なかったであろう。

転職先のキックオフに話を戻すと、2013年時点では、自動車業界では、まだCASE(Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric)という言葉は使われていなかったが、キックオフの説明には、「電動化」、「通信との融合」というような言葉は出てきていたと記憶している。自動車のエンジン機構が変わるということが、競争環境を変えていくというメッセージが強調されていた。このことは、3年後の売上の上昇とは真逆の大きな危機感が煽られる内容であった。その後、2014年、2015年、2016年と、キックオフでは、自動車業界におけるヨーロッパのEV化、インドの格安自動車との競合、中国のEV化、北米のITプラットフォーマの自動運転車、テスラなど、現在に至るCASEの発展が次から次へと発表されていった。

私は、IT業界とは全く違った内容のキックオフに自動車のエンジニアでないが故に、毎回、無知を感じる時間であった一方、この自動車・自動車部品業界動向に興味津々になり、この業界で自分がどれだけ貢献できるのかを考えさせられる時間ともなった。


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