私がハリー・ポッターを好きな理由

見たことはない読んだことはない、興味がないという人はいてもハリー・ポッターを聞いたこともないという人はいないだろう。

と言っても過言ではないほど有名な作品なので、私より好きな人もいるだろうし、マイナーな趣味でもないと思うが好きなことについて好きなだけ書けるのがネットのいいところ。

まず、私が出会ったのは「ハリー・ポッターって知ってる?」と会話に出るような時期。つまり世に出たばかりの頃だった。

学校に行けば多くのクラスメイトが「ハリー・ポッター」について話していた。
どうやら本のようだがいったい何だろう。まずそこからだった。


元々本が好きだった私はぜひ読んでみたいと心躍らせたが、どうやら怖い本のようだ。口を揃えて怖いよねとクラスメイトが話している。(どうやら当時の例のあの人が日本人小学生にも恐怖の対象だった)

親にねだろう、おもちゃじゃないしきっと本なら買ってもらえるに違いない。そう思った私は家に帰り思い切ってハリー・ポッターを買って欲しいと口にすると、意外にも母はああ、あれねと知っている反応をとった。
しかし、高いよあれと一言。聞けば2000円以上するという。

なんて大金だ。
毎月ピーターラビットが書かれた図書カード500円が支給され、青い鳥文庫の中から何を買おうかとワクワクしていた私にとっては高額すぎる。自分でも買えないし親にもねだれる金額ではない。
ゲーム機でも、欲しかった自転車でもなく、本とはピーターラビットで買える価格帯のものだと思っていた私は大変驚き落ち込んだ。2000円以上もする本がこの世に存在するとは思ってもみなかったのだ。


そんなある日、あれからどのくらい経ってたかわからないが、学校から帰宅しランドセルを自室に置きに行くと、勉強机の上になんとハリー・ポッターが置いてあったのだ。
大人にならないと手に入らないと思っていた高い、硬くて分厚いあの本。
大声をあげて抱きかかえ母のところに走ったのを覚えている。

すぐに夢中になった。夕飯も、睡眠も、不要だと思った。
あっという間に読み終わり、何度も読み返し、重たくてたまらないこの本を学校にも持っていき休み時間にも繰り返し読んだ。


私の両親は、非常に厳しい人たちだった。
門限の設定、お金を持って出かけるのは禁止、テレビ視聴の制限、消灯時間厳守、ゲーム禁止などなど。
みんながマックや駄菓子屋に行く中、トボトボと1人帰り、同じゲームを持っていなければ流行りのテレビ番組も芸能人も知らず、鬼ごっこやドッジボールの輪にしか入れなかった。いうまでもないが、ちょっと浮いていた。

そんな中、両親は本はいいものだと考えたようで毎月前述したように本を手に入れるチャンスがあった。幸い性に合ったようで物心ついた時から自分の逃げ道は本の中になった。

みんなと同じことはできないし、話には入れないし、夜は豆電球だけが灯された部屋で時間通りベッドにいないといけない。
自分にできる娯楽は、見回りの親の足音に耳をそば立てながら豆電球の下でこっそりと本を読むことだけだった。

読書に没頭するだけでなく、日頃から変わり者だと思われたり、輪に入れずひとりぼっちだった時、よく読んだ本をベースに空想の世界に浸りやり過ごした。空想の世界では人気者になれるし、学年で一目置かれるピアノ演奏をしたり体育の時間にソフトボールで大活躍だってできる。夜中にドラゴンに乗って冒険に出かけたり名探偵としての謎解きショーだって。

そうやって過ごしてきた私に、ハリー・ポッターは夜をやり過ごせるグッズなだけでなく自分を遠い魔法の世界へ連れて行ってくれる、文字通り魔法の本だった。

次の誕生日は私もホグワーツへ招待されるに違いない、フクロウは怖そうだけどどうやって手紙を受け取ろう?親がバーノンおじさんのように邪魔しなければ、郵便屋さんがポストに入れてくれるかな?スリザリンに選ばれたらどうしよう。

そんなことばかり考えて過ごした。

残念ながら入学の案内は来ず、どうやら私はマグルの世界の人間のようだったが。


ついにハリー・ポッターが劇場公開となった。
弟も母もハリー・ポッターに興味がなく、当然私1人で映画館に行かせてもらえるわけがなく、映画館で見ることは叶わなかったがようやく見る機会がやってきた。

言葉にならないほど感動した。

テレビも、映画も身近ではなかった中、自分が理解できる範囲で初めての原作を知っている実写化だった。

「これは、間違いなくハリー・ポッターだ」

長年読書をはじめとした空想の世界に浸り、その中で最も読み返した本であり最も自分が「もしも私がこの本の世界の人間なら」と想像した私にとって、自分の脳内の答え合わせが行われたのだ。

間違いないと思うと同時に、想像を超える魔法の世界がそこにあった。
ホグワーツは自分が思ったよりも壮大で厳かな城だったし、ハグリットは自分が思うより大きかったしダイアゴン横丁は広かった。
それに、当時はCGなんてイマイチ理解していなかったから魔法の世界は存在したんだと本気でそう思った。

もうホグワーツに入学できる年齢は過ぎていたし、自分がマグルである諦めはついていた筈だったがまた私の中で火がついたのを覚えている。
本をまた読み返し、呪文を暗記した。

口に出すのはちょっと恥ずかしい年齢だったので、心の中で唱えたけど。



作品が素晴らしいだけでなく、自分のもう一つの学校であり逃げ込む魔法の世界であり、数少ない「クラスのみんなが知ってる、持ってるやつ」で同級生と私を繋いだハリー・ポッター。

辛い時自分もいつかハリーたちと魔法を学び、夏休みにカエルチョコを握りしめて帰ってきて親を驚かせてやるんだとワクワクすることを想像するだけで乗り越えられてきた。
ディメンターもやっつけたし、禁じられた森に忍び込んで魔法生物だってこの目で見た。住んでいるのは日本だけど9 3/4に行くために通り抜けられそうなホームの柱を探した。指先でちょっと押してみて通り抜けられるか確認したりもした。
オリバンダーは私にどんな杖を選んでくれるだろう。ユニコーンの毛がいいか、やっぱりドラゴンの何かが入ってるとかっこいいかな。

どんな時も頭の中はハリーの世界でいっぱいだった。

前言撤回。
私やっぱりホグワーツの生徒の1人だったし、マグルじゃなかったと思う。


自分の思い出、世代、出会った背景全部合わせて、だから私はハリー・ポッターが好きなんだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?