ポテトはいかが?
可愛い後輩の話。
私たちの会社では、その昔、地方の工場で働くことになった新入社員でも、東京本社の入社式に参加するしきたりがあった。
初めての東京という者もいたりして、入社式で初めて着慣れないスーツに袖を通したということもあったと思う。
東京はまさに大都会で華やかで、見るもの全てが洗練され、センスのいいカフェや洋服店などがひしめき合っているイメージだった。
その当時は、まだインターネットもそれほど普及しておらず、SNSなど無い時代・・・今思えば、情報源が限られていたが、その分、想像力はふくらみ、ある意味、ロマンがあったと思う。
東京の様子はテレビや雑誌でしか知ることの出来ないため、地方から東京に向かう新入社員たちは、まばゆい程の憧れさえ抱き、まさに東京は花の都だった。
そんな晴れの入社式にのぞむ後輩は、真新しいスーツを身にまとい、オシャレに決め込んだ。
イメージは肩パットの入った吉川晃司。
けっして、田舎もんと思われたくはない。
それだけは彼の意地とプライドだった。
彼は、朝食はマクドナルドと決めていた。
だって、東京と言えば、マクドナルドで朝マック
でしょ
もしかしたら、彼はそんなカッコいい自分に酔いしれていたのかもしれない。
きっとモニカ気分だったろう。
さりげなく、スっとマクドナルドに入った。
あくまでもさりげなく、サラッとね。
いらっしゃいませ。
チーズハンバーガーとコーラをお願いします。
ご一緒にポテトはいかがでしょう?
よかです
すると・・・
頼んだつもりでもないポテトが一緒に出てきた。
こりゃ、頼んどらんっ!
と言いかけたものの、心が急ブレーキをかけた!
田舎もんがバレるかもしれんっ!
なんでか分からんけど、もう食うしかない
そんなことを思いながら・・・
なぜポテトが来たのかもよく理解できず、都会の怖さを少し感じながらの朝食だったらしい。
きっと耳元にはRAINーDANCEが聞こえていたことだろう。
よかですっていう言葉は・・・一言で言えば方言。
ただ、その後輩は方言とすら思っておらず、おそらく何気なく使ったのだろう。
ただ、このよかですって言葉には、気持ちはありがたいけれど、ご遠慮しますっていう思いやりもある深い意味が含まれている。
この場合は、イエス、ノーで言えば、ノーなんだけれども、気持ちは有難いけど、悪いけど、ノーと言わせて下さいみたいな感じ。
いらないって否定してしまうと、何だか心苦しいから、やっぱり・・・よかです が正解なのだろう。
今でも飲み会では東京で恥じをかいたこのエピソードが定番になっている。
そんな優しさや思いやりが感じられる後輩のこのエピソードで飲む酒はうまい。
ポテトを頬張りながらね(笑)。
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