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自信のなかったアスリートが引退を決意した話

今回はどこかのアスリートの、心のどこかに引っかかり、その心の一部分が良い意味で震える事を願い書こうと思います。

私は来年の10月に競技を引退します。
12年間続けてきた競技も、残り1年足らず。
この事を決断できるまで、時間がかかったのかどうかは分かりませんが、私にとっては大きな決断でした。

もうすぐで24歳、私は幼い頃から自信がない人間でした。
そう感じてきたのは、おそらく姉と兄が何でもできる人だったから。

両親や親戚から比較されることはなかったけど、自分の中で「なぜ自分は姉や兄のように生きれないのだろう」と感じていました。
今はそんな風に感じることは無くなりました。
でも、自分に自信がないということは今でも変わらない。

試合では活躍したいけど、多くの人に注目されるのは未だに苦手だし、授業でのプレゼンでは人前で堂々と話せない。

自信のない私がこの世界で唯一通用したことが陸上競技でした。
高校の頃から少しずつ結果を残し始めて。
気づけばU20の日本代表に。
表彰台に立つのは当たり前。
全日本の合宿・強化選手認定・海外遠征・スポンサーなど、ほとんどのアスリートが知らないで辞めていく世界を私は全てではないけど見てきた。

少し大袈裟だけど、結果を出すことで自分が存在している価値を実感し、元々が少ない自信の足しにしてきました。
もちろん、これが自分の全てではないけど。

「自分には他の人より優れている事がある」
「自分にはほとんどのアスリートが知らない世界を知っている」
ついこの間まで、この事が自分を支えている大きな大黒柱でした。

でも、いつかはアスリートでなくなる時は来る。
いつかは自分も...
頭では分かっている。
でも、想像なんて怖くてできない。
生きていく中での自信のほとんどを競技から得てきたから。
多くの人が競技を辞める大学卒業時でも、自分が陸上競技選手じゃなくなるのなんて1ミリも想像がつかない。

大学最後の年は大けがで実業団への就職は厳しく、研究は得意じゃないけど競技を続けられる大学院へ進学しました。
まだまだ自分は選手としての伸びしろも感じていました。
(それは今もです!!)

怖くて、選手としての終わりを想像する事さえしない私は、あるきっかけで大学院を1年間休学することになりました。
もちろん休学中も競技は続けます。
競技のない世界は怖いから。

休学中は思うように物事が進まず、常に息が詰まるような苦しい日々だったけど、学生でもない社会人でもない私は知らなかった世界をたくさん見るために、行動しました。

大学在学中は「競技ばっかりではダメだ!!」と思い、競技以外の色んな事に目を向けているつもりでした。
それは本当につもりで、見ているフリをしているだけでした。
自分は12年間、競技だけを見て、競技しか見ずに、ここまで走ってきてしまったのだと気づきました。
高校時代まではそれで良かったと思っています。

思っていたより、競技以外の世界は面白くて、新鮮でした。

それに、意外にも自分は競技以外でも、他の人より優れていると感じることも見つかりました。

例えば、陸上競技は個人競技で数字で結果が表されます。
自分が結果を出すためには、目標記録を設定し、それに対して今の自分の現状から、どのようにアプローチ(トレーニング)していくべきかを頭の中のデータベースを基に考えます。
そして、そこで出した答えを行動に移します。
体は機械ではないので、エラーが起きます。
ただ、使いすぎると機械のように故障します。
全てが思い通りにはいきません。
エラーが出るたびに、別のアプローチを考えて、再びトライします。
トライ&エラーの連続で、目標記録までできる限り最短距離で進みます。

この事は誰かに教えてもらったわけではないけど、自然にこのやり方が身についていました。
私がそれなりに結果を出せてきたのは、早い段階でトライ&エラーが大切だと気づき、自分の中でのデータをコツコツと貯めてきたからだと思います。

そして、このゴールに対するアプローチを考えることが私はとても好きで、得意だという事に気づきました。
少なからず、この事が社会でも役に立つという事が想像できました。

こんな感じで、自分の意外な才能を知らない世界で発見した事によって、少しずつ競技を辞める怖さも無くなりつつありました。

今の自分の気持ち、置かれている立場、すべてを総合的に考え、私は来シーズンで引退する事を決意しました。
世界中の誰よりも、自分自身がこの決断に納得がいっています。
そして、こんな決断をした自分に驚き、納得のいく決断を下せた自分に少し自信が湧いてきました。


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私がそうだったようにアスリートでない自分が想像できない選手も、想像する事を避けている選手もいると思います。
私のように結果を残してきた選手はその傾向が少し強いのではないかと感じています。
(もちろん、全員がそうではありません.)

難しいかもしれないけど、競技以外の世界を覗いて、アスリートというベールを脱いだ自分を感じ、理解してほしい。
引退した時に自分が「空っぽだ」なんて感じてほしくないから。
空っぽなはずがないから。

私のように競技以外の事は何も見ずに、見ているフリをして走り続けるのはやっぱり良くない。

「一つの事に集中しなさい!!」と言う人もいるかもしれないけど、私は少しでも自分の興味・関心がある世界を見て、あなたの世界を広げておくべきだと思います。
もちろん、競技者として競技にどっしりと軸を置いている状態での話です。

「私はアスリートであっても、なくても、大丈夫!!」
「いつアスリートでなくなるか分からないから、アスリートである今を全力で!!」
そんなスタンスが心のどこかにあるアスリートが増えますように...

そして私自身が残りの競技生活を、次のステージでの自信につながるものにできるように...
願いを込めて...

長くなりましたが、
最後まで読んでくださった方、
ありがとうございました。