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【書籍紹介】ティール組織

著者:フレデリック・ラルー

 マッキンゼーで10年以上組織変革に携わったのち、エグゼクティブ・アドバイザー/コーチ/ファシリテーターとして独立。2年半にわたって新しい組織モデルについて世界中の組織の調査を行い、本書を執筆。12か国語に翻訳され、20万部を超えるベストセラーになる

ティール組織 英知出版

 私たちは日々組織のストレスに苛まれています。
官僚主義的であったり、権威主義的であったり、内部抗争、過度な競争。
もっと生産的で、生きがいをもって働けるようにならないのだろうか。現在の組織の在り方は限界を迎えているように見えます。

 著者は、組織の在り方を歴史的に見つめなおし、気づきます。人類の進化に伴い、組織の在り方も変化してきているのです。それも、徐々にではなく、社会の変化に伴い急激に型を変えていたのでした。


変化するパラダイム 過去と現在の組織


 著者はインテグラル理論に基づいて、組織の発展段階を色で表現しています。

受動的パラダイム(無色)

 人類にとって最も初期。約10万年前~5万年前。血縁関係の小集団。生存を支えているの狩猟で、分業を必要としないので、組織モデルのようなものは何もありません。

神秘的(マゼンダ)パラダイム

 約1万5千年前、数百人の集団。因果関係への理解は不十分で、世界は神秘で満ちている。日頃の行いが悪いと天気が悪くなって天罰が下ります。そのため部族は儀式を行ったり、古老や巫女に従ったりします。

レッド(衝動型)の組織


 赤の組織は組織モデルのなかでもっとも原始的な形であるといえます。ひとりの圧倒的な力を持つ者が支配者となり、組織のメンバーを力と精神的な恐怖でまとめています。この組織が重視しているのは、目の前の利益です。中長期的な目標に向けて行動し、プロセスを踏んで継続的に組織を運営するというよりは、短絡的で衝動的な行動によって、今すぐに手に入る利益を求める傾向にあります。
 この組織は力、暴力による恐怖で支配されていることが特徴であり、現代ではマフィアやギャングなど法の支配の外でごく一部にみられます。

アンバー(順応型)の組織


 アンバーというのは琥珀、または琥珀色を指すことばです。この琥珀の組織は、階層的構造(ヒエラルキー)を持つ組織です。このような組織には階級や制度が徹底的に組み込まれていることが多く、組織を構成しているメンバーの上下関係によって秩序が保たれています。メンバーは組織における自分の役割にしたがって行動することを優先させ、自発的に意見を出したり、組織が向かうべき方向性や目的達成までのプロセスに対して、よりよいアイデアを提案したりすることはほとんどありません。

 この組織は、トップダウンで指示が出され、ルール通りの行動をおこなうことで安定した組織運営ができるのが特徴です。ただし、秩序が重んじられるあまり、新しい意見やアイデアが生まれにくく、変化の激しい時代や競争他者の多い場合には対応ができないという面もあります。
 
 ローマ・カトリック教会や後の産業革命初期の大企業はこの枠組みに沿って経営されていました。現代でも大半の政府機関、公立学校、宗教団体、軍隊はこのパラダイムにあります。

オレンジ(達成型)の組織


 オレンジの組織は、階層的構造(ヒエラルキー)は基本にあるものの、柔軟に社会変化や環境に適応するために変化することができる組織だといえます。日本社会においては一般的な組織モデルだといえるでしょう。オレンジの組織では、組織としての成果をあげるために、組織のメンバーが才能を活かして活躍をし、成果をあげれば昇進できるという特徴があります。
また、組織の成果をあげることが第一であるため、効率化が図られ、そのための数値管理が徹底されているのも特徴です。ただし、そうした環境のなかで仕事をするうえでは、成果をあげるための生存競争が激化したり、過重労働が常態化したりするといった労働問題が発生する可能性が高いという面もあります。
 多くの多国籍企業はこのパラダイムです。

グリーン(多元型)の組織


 グリーンの組織は、オレンジの組織が目的達成を第一とした合理的な組織であったのに対して、メンバーがより主体性を持って行動することができる組織です。この組織では意思決定のプロセスもボトムアップ式であるのが特徴です。グリーンの組織におけるリーダーは、メンバーがより働きやすくなるように環境を整える役割を担います。ただし、メンバーの個性、多様性が認められているとはいえ、グリーンの組織においても組織内の決定権はマネジメント側にあるといえます。このモデルの極端な平等主義は多様な意見をまとめきれずに袋小路にはまってしまうリスクもはらんでいます。

 サウスウエスト航空など、文化や存在目的を重視する組織がこのパラダイムです。

ティール(進化型)の組織


 こうした問題を打破するべく生まれたのがティール組織です。トップダウン型の意思決定でも、ボトムアップ型の合意形成でもない、変化の激しい時代における生命型組織です。これまでのパラダイムでは他の人々自分たちの価値観の正当性を訴えますが、ティール組織では、意思決定の基準が外的なものから内的なものへと移行し、良い人生を送るために、他人からの評価、成功、富、帰属意識などを求めるのではなく、内的に充実した人生の実現に努めるようになります。

ティール組織の事例

 ティール組織の事例として対象となったのは以下の組織です。

  • AES エネルギー

  • BSO/オリジン ITコンサルティング

  • ビュートゾルフ ヘルスケア

  • ESBZ 学校

  • FAVI 金属メーカー

  • ハイリゲンフェルト メンタルヘルス病院

  • ホラクラシー 組織運営モデル

  • モーニング・スター 食品加工

  • パタゴニア アパレル

  • RHD 人事

  • サウンズ・トゥルー メディア

  • サン・ハイドローリックス 油圧部品

3つのブレイクスルー

自主経営

 組織内の権限と責任を分散し、従業員が自己組織化されたチームを形成し、自律的に活動することを重視します。このモデルでは、従業員が個々の能力や興味に基づいて仕事を選択し、自己成長を促進することができます。また、意思決定は階層的な上下関係ではなく、個々のチームやメンバーが共同で行うことが重視されます。
 オランダのヘルスケア企業、ビュートゾルフではミドルマネジメントが存在しません。看護師がチーム制でお互いに問いを共有しながら問題解決していきます。
 多くの企業では、予算が大きくなるに従い、高い職位に執行の権限が付与されますが、自主経営により階層が取り払われたティール組織では、現場に権限があります。FAVIや、サン・ハイドローリクスでは、機械や部品の購入権限は現場で、必要かどうかを現場担当者が経営的視点をもって判断します。
 給与や昇進を決めるのも社員に委ねられます。モーニング・スターは選任された報酬評価委員会からのフィードバック付きの自己設定給与システムを開発しました。自分で自分の給与を決める究極のシステムと言えます。

全体性

 歴史的に見れば、組織にいるとき、人は「仮面」を被っていると言えます。企業ではスーツに象徴されていますし、司教の僧服、医師の白衣、工場の制服など枚挙にいとまがありません。
 自主経営を実現した組織では、他人の評価を気にする必要がありません。家に置いてきた自分らしさをとり戻すことができます。自分らしさの一部を切り離すことは、そのたびに自分の情熱や創造性の一部を切り離すことを意味します。全体性(ホールネス)を得られれば、これまでにない生気をもたらし、職場に活気を生み、充実した人生を送ることに繋がります。
 サウンズ・トゥルーでは、職場に自分の犬を連れてくることがめずらしくありません。
 パタゴニアでは従業員向けに「子供発育センター」が運営されており、子供たちの笑い声がオフィスまで届いてくるのが日常となっています。ミーティング中に母親が子供の面倒を見ていることも珍しくありません。人々がお互いを同僚としてだけではなく、幼い子供たちへ深い愛情と思いやりを示す人として見るようになると、職場の人間関係も根底から変わってきます。それだけでミーティングの時に互いに激しく非難することはかなり難しくなります。

存在目的

 オレンジ型組織では、GEのジャック・ウェルチに象徴されように、「勝利」が求められます。利益を拡大し、市場シェアを伸ばし、成長し続けることを目指しています。では、何故「勝利」が必要なのでしょうか、勝利にどんな価値があるのでしょうか。その答えはどこにも書いてありません。ミッション・ステートメントが空虚に聞こえる理由です。

 ティール組織では「目的」が重視されます。組織の目的や価値観に共感する従業員が集まり、自発的に活動することが特徴です。従業員は組織の目的に向かって自ら進んで行動し、その過程で個々の能力やパッションを発揮することができます。

 パタゴニアの創業者、イヴォン・シュナイードは元々登山や、ダイビングに明け暮れていましたが、自分で使うために製造した登山用ピトンを仲間から頼まれるようになり、それで生計を立てていました。ある時、長年制作してきた自分のピトンがヨセミテの大岩壁、エルキャピタンの岩を破損させていることを知り、硬いピトンに変わるアルミ製のチョックを発見します。アルミ製のチョックは製造が追いつかないほど売れ、シュナイードはピトン事業から完全撤退します。

ティール組織をつくる

 本書では、ティール組織の実践例や導入手法も紹介されています。これには、従業員の意見を尊重し、透明性のある情報共有を行うことや、意思決定を分散させることなどが含まれます。ティール組織は、従来の組織モデルに比べて柔軟性やイノベーション性が高く、従業員の満足度や組織の成果を向上させる可能性があります。

 今ある、オレンジ型の組織をティール組織に作り変えるのは容易ではなく、もし実行するとすれば、分社するなど全く違う組織として立ち上げることを進めています。
 また、ティール組織を作る主体は、企業のトップでなければ現実的に難しく、ミドルマネジメントが自らの組織に取り入れようとしても、矛盾を抱え込むリスクが大きくなると指摘しています。

感想

 「学習する組織」以降、現在最も影響を与えている組織論ではないでしょうか。自分も以前、ティール組織のなんらかの要素を組織に取り入れようとしました。
 特に「全体性」の考え方が気に入って、メンバーと距離を縮めにいったものでした。確かに、会社の人というだけでなく、ひとりの父親、母親として見えたときに相手に対する敬意が芽生えました。チームビルディングに良い影響があったと思います。
 著者は取り入れるのが難しいと言いますが、その考え方を取り入れるだけでも、大きな変化をもたらすことができると思います


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