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「ミライの議員・議会のために~住民福祉の向上と地方議会の政策サイクル」をテーマに、「政策サイクル推進地方議会フォーラム」公開セミナーを開催――(公財)日本生産性本部

(公財)日本生産性本部は2024年2月4日、都内の全国町村会館内で「ミライの議員・議会のために~住民福祉の向上と地方議会の政策サイクル」をテーマに、「政策サイクル推進地方議会フォーラム」公開セミナーを開催した。公開セミナーでは、ミライの地方議員・議会の姿を展望しつつ、議員のなり手とも密接に関わるコミュニティのあり方、議会とコミュニティの関係などを議論。人口減少が本格化する中、地方議会では政策サイクルを回し、住民福祉の向上につなげていく必要性などが強調された。

ミライの議員・議会を展望

公開セミナーの趣旨説明を行う日本生産性本部上席研究員の千葉茂明。

 同フォーラム(座長=江藤俊昭・大正大学教授)は2022年7月に発足。成熟度評価モデルの実装化とともに、地方議会における政策サイクルの構築と作動に向けた取組みを行っている。公開セミナーはその活動の一環として開催され、全国から地方議員を中心に約70人が参加した。
 冒頭、日本生産性本部上席研究員の千葉茂明が趣旨説明。日本生産性本部では、2020年に「地方議会評価モデル」を公表、その実装化の支援を行っている。今後、人口減少が本格化する中、ミライの議員・議会を展望しつつ、「議会とコミュニティの関係」「フォーラムとしての議会」を考える公開セミナーにしたいと説明した。

「ミライの議会・議員」は多様性の充実・強化を

「議会・議員の過去・現在・ミライ――『住民自治の根幹』としての議の作動」をテーマに講演を行う江藤俊昭・大正大学社会共生学部教授。

 セミナーでは、最初に江藤俊昭・大正大学社会共生学部教授が「議会・議員の過去・現在・ミライ――『住民自治の根幹』としての議の作動」をテーマに講演を行った。
 江藤氏は、2023年に死去した大森彌・東京大学名誉教授が2021年に出版した著書で、「約20年を振り返ってみますと、自治体の議会・議員をめぐる議論や研究は盛んになり、もはや地方自治研究上の『欠落の一章』ではなくなったといってよいと思います。慶賀すべき変化です」と記していることを紹介した。
 江藤氏は、「(議会・議員の)実践が伴ってこそ研究が進む」と述べ、ミライは「実践と理論の弁証法で考えるべき」と指摘。その要素として▽二元的代表制、「住民自治の根幹」としての議会、という地方自治の理念と実践▽住民福祉の向上につなげるための政策サイクル▽多様な課題とそれに対応する提案▽運動を推進するネットワークーーなどを挙げた。
 また、「ミライの議会・議員」に向けては「多様性の充実・強化」「政策サイクルの充実・評価(議会評価)」「従来の議会運営からの脱却」「議会・議員の条件整備」などをポイントとして提示。特に「多様性」については議員に女性や若者、障がい者などを増やす必要があるとし、「多様性こそが議会の存在意義であることの再確認を」「多様な人たちが公開の場で討議するのが議会。そうしないところは議会と呼ばない」と力説した。

議員一人ひとりが「コミュニティ・リーダー」

「コミュニティ自治とミライの議会」と題して講演を行う大杉覚・東京都立大学法学部教授。

 続いて、大杉覚・東京都立大学法学部教授が「コミュニティ自治とミライの議会」と題して講演を行った。大杉氏はまず、「コミュニティ・リーダーたるべき議員こそが『担い手』問題を突破する役割が期待される」と指摘。持続可能性を志向したとき、ミライの議会は女性や若者に開かれた存在であることが必須であり、コミュニティ自治と議会は「人財の好循環」形成の観点からみると「パラレルな関係にある」と話した。
 3年間に及ぶコロナ禍によって住民は地域活動に消極傾向にあることを調査データに基づいて指摘。多世代・多分野・多地域間の「人財の好循環」形成には、従来の「巻き込む」よりも「誘い込む」「課題解決」よりも「楽しい」場づくりに構造転換する必要性を説いた。
 コミュニティ自治で求められる課題群に対する議会・議員からのアプローチ手法としては次の4点を挙げた。
①誰もが当事者として関わりを持てるような場を創る
②創造的な活動をきっかけとして若い世代を含めた多世代・多分野間交流・連携を実現させる
③地域を超えたつながり(越境)を巧みに利用する
④誰一人取り残されない、持続可能な地域づくりを目指して、「地域づくり人財」の養成・確保に注力する

 議員一人ひとりが「コミュニティ・リーダー」との自覚の再認識が必要であり、人口減少時代にあっても、躍動する地域づくりの先導役、伴走役・媒介役として地域における「トランスフォーメーション(変化、変換)」を高める役割が期待されるとし、特に「次代の人財育成・確保に注力を」と要請した。
 さらに、コミュニティの最前線に議会があることを意識し、▽コミュニティ自治との連携・協働の実質化▽議員がコミュニティ・リーダーとして活動しやすい環境づくり▽日常活動が「コミュニティを耕す」視点--を提示。「これらをトータルに考えないと循環はうまく回らないだろう」としつつ、政策サイクルに合致させていく必要性も述べた。

「議会改革=経営品質」

「議会は住民自治のプラットフォーム」と題して実践報告を行う林晴信・兵庫県西脇市議会議員(前議長)。

 3番目に林晴信・兵庫県西脇市議会議員(前議長)が登壇。「議会は住民自治のプラットフォーム」と題して実践報告を行った。
 西脇市は兵庫県のほぼ中央部に位置し、人口3万8185人(2024年1月1日現在)のまち。市議会の議員定数は16人で、議員報酬は月額37万円。西脇市議会はどこにでもある地方議会の典型の一つだったが、2008年に議員定数削減の陳情書が議会に提出されたことが転換期になったと振り返った。
「定数削減の声は議会不信のしるしだ」と受け止めた議会では議会改革特別委員会を設けて2013年に議会基本条例を制定、改革を加速させていった。日経グローカルの議会活力度ランキングでは2018年度に全国1位、早稲田大学マニフェスト研究所の議会改革度ランキングでも2019年度に全国1位を獲得するまでになった。
 林氏は「議会改革=経営品質」と指摘。「良きプロダクトは良い経営品質(プロセス)から生まれる」ように「善き政策は善い議会制度(プロセス)から生まれる」と話し、執行状況の確認(常任委員会)→議選監査委員の意見(監査報告会)→対象者の意見や住民の意見(議会報告会・意見交換会)→対象事業の評価・改善提言(委員会による事務事業評価)→政策提言→対象者の意見や住民の意見(議会報告会・意見交換会)→予算反映確認という決算から予算につながるプロセスごとの取組みを紹介した。
 予算決算審査では委員会協議会で委員間討議。予定質問を持ち寄り、質問の背景や問題点を説明する。そのことで▽質問の背景を共有化▽論点の明確化▽(他の議員からのアドバイスなどで)質の向上--などの効果があるという。

「視て、診て、見える政策サイクル」を確立

会場には地方議員を中心に約70人が参加。登壇者の話を熱心に耳を傾け、メモを取る姿が見られた。

 林氏は、「議案の審査と議決は最重要だが、議会の仕事はそれで終わるわけではない」として、「年間を通じて、重要事業の執行を視ていくこと(監視)」→「そしてその事業が市の課題に対して有効だったか診ていくこと(評価)」→「そうすれば、次の改善策も見えてくる(改善)」という「視て、診て、見える政策サイクル」を確立する必要性を強調した。
 また、全国的に議会報告会を中止する議会あるが、西脇市議会では、参加を待つだけからターゲット層がいる場所に積極的に出かけることに方針転換。若年層では「PTAや消防団、青年会議所」、女性では「子育てママグループ、商工会議所女性会、消費者協会」などと意見交換を行っている。
 形式も、対立を生みがちな対面型からワークショップ型に転換すると「仲間意識が生じる」という。さらに「(議会報告会では)住民からは要望やクレームばかり」という感想がよく議員から出るが、林氏は「当たり前。要望やクレーム、雑談からでも課題を抽出するのが議員の仕事。要望やクレームの背景を考えることが大事」と喝破した。
 改選直後の2021年11月には、議長・副議長と新人議員が子育てママたちとの意見交換会を開催した。課題として挙がったインクルーシブ制服の導入は翌12月定例会で議員が一般質問で取り上げ、通学路の安全問題やICT教育の課題などは常任委員会で新人議員たちが質疑するとともに常任委員会で所管事務化。こうした議会側の動きに呼応するように意見交換会に参加した子育てママたちが発起人となり、「西脇市のこどもの未来を想う会」というグループを結成、2022年4月には文教民生常任委員会との課題懇談会を開催した。このグループは「議会と語ることで発足した」と林氏。この状況を「議会は住民自治のプラットフォーム」と呼んだ。
 市議会では、「市民の声を聞きにいこう」という意識が常態化。事務事業評価でも所管事務調査でも「対象者(市民)の意見を聞く」し、請願・陳情の審査でも「請願人や陳情人の意見を聞く」。この市民の意見を聞く姿勢が「西脇市議会の最大の強み」と林氏は話した。
 最後に「議会は住民自治のプラットフォーム」の意味について林氏は、「パソコンがOSで動くように住民自治にとって議会はなくてはならないもの。住民自治は議会が根幹となって進展していく。乗る人も降りる人も行き交う土台」と説明し、「みなさんの議会はそうなっていますか?」と呼びかけた。また、「議会は多様性の塊。『議会は市民(住民)の中にある』ことを、全議員で意識共有することが大事なのではないか」と指摘した。

議会の政策サイクルの中に「コミュニティを入れる」

「ミライの議会・議員のためにイマの議会・議員に求められるもの」をテーマにしたパネルディスカッションの様子。左からパネリストの林晴信議員、大杉覚教授、江藤俊昭教授。右端はコーディネーターの千葉茂明)。

 セミナーの後半は「ミライの議会・議員のためにイマの議会・議員に求められるもの」をテーマにパネルディスカッション。講演・実践報告を行った3氏(江藤教授、大杉教授、林議員)がパネリストを務めた(コーディネーター:日本生産性本部上席研究員・千葉茂明)。
 パネルディスカッションでは、講演等で指摘があった①多様性の充実・強化②コミュニティと議会の関係③議会の政策サイクルとコミュニティーーを中心に深掘りする議論を展開した。議会の多様性について林氏は「女性や障がいをもった方々が議会に参加できる体制を整備することが大事」と指摘。大杉氏は、自治体の附属機関の男女・年齢構成のバランスを「議会がチェックしていくことが大事」、江藤氏は、北海道栗山町議会が行った「議員の学校」を取り上げ、「これまで議員のなり手でなかった層に広く網をかぶせていく」必要性を述べた。
「コミュニティと議会の関係」では、大杉氏が「議会の附属機関を各地域(コミュニティ)につくれないか」とアイデアを披露。江藤氏は議員提案で集落振興支援基本条例を制定した長野県飯綱町議会や地域協議会と連携している長野県飯田市議会を例に挙げ、コミュニティと議会による取組みを充実させる必要性を強調した。江藤氏はさらに、議会の政策サイクルに「住民を誘い込むことが必要」と指摘。「議会の政策サイクルの中にコミュニティを入れることも考えてほしい」と話した。
 最後に江藤氏は、会場からの「議員間討議の秘訣は?」という質問に答える形で「執行部は計画行政。議会はアンテナを高くして、これからどのような議案が出てくるか事前につかんで所管事務調査項目に入れ」、その段階から議員間で議論することを提案した。
(文・写真/上席研究員・千葉茂明)

〇日本生産性本部・地方議会改革プロジェクト
https://www.jpc-net.jp/consulting/mc/pi/local-government/parliament.html

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