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コーポレート・ガバナンス関連ニュース(2019/10/21)

「社外取、なお経営者寄り」 アスクル暫定・指名委員長

【記事の注目ポイント】大株主のヤフーによって岩田前社長と独立社外取締役3人が事実上、解任されたアスクル。同社が設置した暫定の指名・報酬委員会委員長には國廣正弁護士が就任している。國廣弁護士は「アスクルからも、ヤフーからも中立で、両社が納得する独立社外取締役候補を選ぶ。難問だが年内にやりたい」と語ったとのこと。

【コメント】記事の中で國廣氏は以下のようにコメントしている。

「日本の社外取締役はなお経営者寄り。真に『独立』している人は少ない」

これはその通りなのだが、問題はこうしたことが起きる原因である。そもそも社外取締役の候補者を探す際に、多くの日本企業では、社長(または会長)等の知り合いの中から、適任者を選んでいることが最大の要因だ。一方で、米国のように単なる「社外」ではなく、会社の利害から独立した「独立社外」を選ぼうとすると、形式要件としての独立性だけでなく、選任過程も含めて独立性が担保されているかどうかが重要になる。そのため、(社外を含む)取締役の選任は、通常はGovernance Committeeなどのように、独立社外取締役が過半数で構成される委員会で候補者の要件決めから議論し、エグゼクティブサーチファームのような外部機関も活用しながら、社外取締役主導で選定していく。日本でも形式の上では、上場企業の約半数が指名委員会を設けるようにはなってきており、取締役候補者の選任にも関わるようになってきているが、まだまだ社外ではなく社内の論理が優先されるというのが実情である。


関西電力の不祥事にも反省なし? 企業統治強化に背を向ける関経連

【記事の注目ポイント】政府が推進するコーポレートガバナンスの強化に反対する意見書を、9月末に関西経済連合会が中心になってまとめ公表した。意見書の中には、「独立社外取締役の選定など取締役の構成は、コードを一律に適用するのではなく、各社の裁量に委ねるべきである」など、現在のコーポレートガバナンスの強化に逆行するような内容も見られるとのこと。

【コメント】関経連が現在日本政府が推進するコーポレートガバナンス改革に逆行する(または取組みを減退させる)主張を述べている点はガバナンスの専門家の間では、非常に有名である。なお、記事内で触れている関経連が9月末に提示した意見以外も、金融庁で不定期で開催している「スチュワードシップ・コード及びコーポレート・ガバナンスコードのフォローアップ会議」の2019年1月28日の会合では、関経連の松本会長(住友電工会長)が、関経連としてのコーポレートガバナンスへの取組み課題を述べている。

(参考資料) 

企業経営の現場からみたコーポレートガバナンスの具体的な課題(以下リンクより資料を閲覧可能)

なお、私は、その場にいたのだが、複数の委員から関経連の主張には結構厳しい反応が相次いだと記憶している。


日産・西川前社長が院政を画策か…社員は「反省の色全くなし」と激怒

【記事の注目ポイント】ゴーン氏、西川氏とCEOが役員報酬の不正な受け取りを二代続けてしていた問題で揺れる日産で、新たなコーポレートガバナンスの問題が生じている。事実上解任された西川前CEOが、辞任後も影響力を保ち続ける「院政」を敷こうと画策しており、それには、社外取締役として役員人事を決める指名委員会委員長の豊田正和氏(元経済産業審議官)と、取締役会議長の木村康氏(元JXTGホールディングス会長)が関与しているとのこと。

【コメント】記事で書かれていることが、どこまで真実かはわからないが、実態として日産の取締役会は、様々な思惑が入り乱れており、なかなか合意形成をすることが難しいということだろう。こうした内ゲバ的な権力闘争が長引くと、一度地に落ちた日産ブランドが益々棄損し、業績回復への道のりが遠くなるだけである。


監査役等の職務環境は「見える化」しなければ向上しない

【記事の注目ポイント】10月11日に日本監査役協会が「監査役(会)の視点から見たコーポレートガバナンス改革」を提言書としてリリースした。関西支部の監査実務研究会が作成しており、「企業統治改革が進む中で、取締役会の在り方ばかりが注目されているが、いまこそ監査役(会)の在り方を考える」という内容とのこと。いまこそ監査役(取締役監査等委員も含む)の固有の機能をガバナンスの視点から見直すべき、という点に筆者は同意見であると述べるが、会社法の改正や行動指針を改めるなどしても監査役の現状はなかなか変わらないとする。今後監査役制度が変わるとすれば、それは①機関投資家の力を借りることができた場合、もしくは②「働き方改革」の断行により、日本企業に職務給制度の労務慣行が根付く場合ではないかと筆者は述べる。

【コメント】筆者の山口氏が述べるように、監査役の機能自体をガバナンスの視点から見直すべきという視点は、関電の問題でも監査役制度が機能していなかったという指摘がある中で、非常に今日的なガバナンスの重要論点である。海外企業の場合、Audit Committeeの委員を務める社外取締役は、一般的にその他のCommitteeの委員を務める場合よりもより大きな報酬(Committee Fee)を得ているが、それは当然それだけ責任も役割も重いからである。日本の場合は、特に大企業を中心に、監査役は取締役になれなかった人材を救済する役職として用いられてきた面も少なからずあり、これだけビジネスがグローバル化し、業務監査も会計監査も複雑さを増す中で、監査のレベルアップなしには、不祥事の発生を未然に防ぐことはほとんど不可能だろう。

AT&Tがアクティビストのエリオットと休戦も、協議次第で-関係者

【記事の注目ポイント】米AT&Tはアクティビスト(物言う投資家)として知られ、同社に事業見直しを強く迫っているヘッジファンド、米エリオット・マネジメントと協議を進めており、結果次第では対立が一時的に解消される可能性があるとのこと。協議中の事業見直しには、AT&Tが売却やスピンオフの可能性を視野に資産を見直す方針が含まれ得る、また取締役会を刷新する可能性もあると、関係者が匿名で語ったとのこと。

【コメント】先日別の記事でも取り上げたユニゾHDの大株主でもあるエリオットが今度はAT&Tに対して、事業見直しを迫っているという記事である。余談だが、AT&Tは日本でいえばNTTのような巨大通信企業だ。NTTがファンドから事業の見直しや取締役会の刷新を迫られているということがあれば、恐らくそれなりに日本のメディアを騒がす事態になると思われるが、仮にそうなった場合に、NTTはどのように株主の期待に応えようとするだろうか?実際には、NTTの最大の株主は日本政府と地方公共団体なので、そのような事態にはならないのだが。


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