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「鳴かぬなら、自分で鳴こう、ホトトギス」地域における“プロデューサー”の役割とは

世界レベルで持続可能な社会の実現に向けて、地域で環境問題に挑むグローカルリーダーを育てる、実践型ビジネススクール&オーディション『Green Business Producers(GBP)』。40人の参加者とともに過ごした第1期を終え、10月から第2期が始まります(応募は8月末まで)。

グリーンビジネスを考え行動する「気付き、きっかけ」をもたらすような、これからの暮らしと社会の未来を探る連載。〜耕す未来、ダイヤルダイアログ〜は、GBPの、そして私たちの「今」そして「これから」について考え、綴っていく対談です。

第3回目は、GBPの理事でプログラムのアドバイザーである古田 秘馬さんにお話を伺いました。20年以上地域に関わってきた秘馬さんからみて、GBPという場はどう見えているのでしょうか?

古田 秘馬
株式会社umari 代表 プロジェクトデザイナー
東京都生まれ。慶應義塾大学中退。東京・丸の内「丸の内朝大学」などの数多くの地域プロデュース・企業ブランディングなどを手がける。農業実験レストラン「六本木農園」や和食を世界に繋げる「Peace Kitchenプロジェクト」、讃岐うどん文化を伝える宿「UDON HOUSE」など都市と地域、日本と海外を繋ぐ仕組みづくりを行う。現在は地域や社会的変革の起業に投資をしたり、レストランバスなどを手掛ける高速バスWILLER株式会社やクラウドファンディングサービスCAMPFIRE、医療法人の理事などを兼任。
小田切 裕倫
GBP副代表理事・運営責任者/プログラム設計・株式会社Challite 代表
東京と佐賀県唐津市をベースに、全国へ足を運び「地域、企業、生産者、社会問題(環境を含む)」を掛け合わせて場と物語をデザイン。人と人、人と事業のつながりを生みだす。地域に生まれた人とコトの流れの定着と広がりを目指し、2019年に唐津市で株式会社Challiteを立ち上げ。地域を軸にさまざまな分野の企画実施やプロジェクトに携わる。ビールと音楽がすき。最近、畑付きの一軒家に引っ越した。

地域の構造を捉える視点や感覚を養う

小田切:改めてよろしくお願いします。今回、秘馬さんのプロフィールはバッサリ割愛します。今日は長くなると思うので(笑)

小田切:まずはじめに。GBPの理事でもあり、第1期では講師やフィールドワークの受け入れ先としても関わってくれた秘馬さんから見て、GBPとはズバリなんですか?

秘馬:一言でいうと“実践編”ですかね。セミナーやスクールって開催自体が目的になっていると、いわゆる「学んで終わり」になっちゃう。だけど、GBPはプログラムの卒業式でもある「出発式」からが本番というか。実際に「地域に入り込む」ってところまでみているという部分では、めちゃめちゃユニークだと思う。そこまでやってくれるプログラムは中々ないなと。

小田切:そもそも地域に素晴らしい人材はたくさんいるけれど、圧倒的に実践者が足りていないですもんね。そういう人の可能性を広げられる場でありたいとは思っています。

秘馬:GBPは自動車教習所みたいに、座学も試運転的な場も用意して、さらにはそのあと実際に運転できる環境も用意する、みたいな感じなんだよね。

小田切:あぁなるほど。その例えはしっくりくるかも。道路も一緒に作っちゃったりしてね。ただ、地域の課題というか向き合うべきことって本当に場所や時代、人によってそれぞれですよね。知識としての情報、フィールドとしての体験の場は用意しながら、そこへの問いかけが難しいなと思っています。

秘馬:そう、勘違いしちゃいけないと思うのは「横展開」はないってこと。似たようなストラクチャー(構造)の横展開はあったとしても、中身は地域によってまったく異なるので。複数のフィールドを体験しながら、地域ごとの抱えているものを察知・認識する感覚を身につけることができるのもGBPという場な気はしています。

小田切:そうですね。第2期では特に、地域によって異なる文化的背景・そこで出会う人・自分たちがどういう仲間を作っていくか、という本質的な問いを重要視しています。どうしても箱やコミュニティをどうするかってHowの話になりがちですが……。

秘馬:どこの地域ができてる・できてないとかではなくて、たくさん見た上で「なるほど。こういうシチュエーションの場合、この地域でこのプレイヤーはこういう動きをするんだな」と情報を蓄積できるかが重要。一方で、評論家のようにただ情報を貯めていくだけではダメで、「そもそも、なぜ今の課題が生まれたのか」を理解することも大切です。

小田切:ミクロの情報の蓄積と、マクロで構造を捉える視点の両方が必要ということですよね。細野さんとの対談でも「抽象と具体」という話が出ました。その両方を講義や実際のフィールドで学ぶことができるのが、まさしくGBPだと自負しています。

プレイヤーでもなく監督でもなく「プロデューサー」という役割

小田切:10月から2期目に突入します。昨年おこなった第1期は動かしながら修正していくといった手探りな部分も多かったと思いますが、振り返ってみるとどうでした?

秘馬:GBPとして栄養価のある土や水は受講生に提供できたんじゃないかなと。いうなれば、ここから土壌に水が染み込んで、根っこがはえて、ようやく芽がでてくる。まぁ、あとはどうやって芽を出すかは本人たち次第なところはあるよね。

小田切:なるほど。

秘馬:第1期で感じたのは、年齢や性別、住むところ問わずに「地域に関わりたい」と思っている人が集まったなということ。あまりにもタイプがバラバラだったから、最初は距離感やコミュニケーションが難しいと思う人たちもいたかもしれないけど、自分たちの描いているビジョンに対して共通性を感じてからは「同志」となり、結果「仲間」になれたんではないかなと思う。

小田切:それは確かに。少し話は変わりますが、「地域に関わりたい」と思っている人自体は多い気はしているのですが、そういう人たちが全てGBPのプログラムに当てはまるかと言うと、それは少し違うような気がしています。

秘馬:そうだね。単純に「地方創生・地域を活性化させたいです」とか、「会社で培ったスキルや経験を活かして地域の課題を解決したいです」だと、GBPが考えている関わり方と少しポイントがずれるというか。

小田切:課題ってそもそも何?っていうところから考えなきゃいけないですからね。

秘馬:そう、「地域に人を集めるために東京にあるようなオシャレなカフェを作ろう」みたいな話ではなくて。それが全て悪いとは言わないけど、GBPは全然違うアプローチで新しい社会の構造を作ることを目的としているから、その視点でGBPを見てもらえたらなと思っています。

小田切:あと、スキルがあるから地域で通用するってことではないですよね。

秘馬:能力があるのは悪いことではないけど、どちらかというとサバイバル力が必要。

小田切:うんうん、「適応力」とも言う。自分の能力を活かすことに重きをおいてしまうと、相手を変えようとしてしまう。

秘馬:その「自分の能力」っていうのも、どこまでが実力?みたいなところがむずかしいところ。会社名や肩書きってその人の裏側にたくさんの人たちがいて成り立っているものだから、それを自分の能力だと思って地域に入って折れちゃうパターンもあります。

小田切:そうですね。そういう意味でも「自分の能力を持って入るんだ」という感覚で行かない方がいいというのはあると思います。

秘馬:スペシャリストとして「ここ得意ですよ」と入るのではなく、同じ目線で入ることが大切で。自分の能力でやりたいことをやるのは全然いいと思うし、むしろそこから始まることもあると思うけど……。

小田切:自分のやりたいことを始めた上で、社会と環境にどう影響を与えるか。そこまで持っていこうと提案しているのがGBP。

秘馬:もっと大きな視点でね。我々が目指しているのはプレイヤーでもなくコンサルタントでもなくて、プロデューサーなので。何もないところから価値を生み出す。自分でお金を出すか、もしくはお金を引っ張ってくる。時にはリスクを追いながら個人だけではなくみんなを幸せにする。それがプロデューサーだと思っています。

小田切:まさしく。

秘馬:ひとつ例を挙げると、何か作品が賞をもらう時、海外だと一番賞賛されるのは監督ではなくプロデューサー。何もないところから企画をして、監督を選定して、どれくらいの予算をかけるかまで考える人がプロデューサーだよね。日本だとプロデューサーって、ちょっと何をしているかわからない人に見られがちだけど(笑)

小田切:100を見据えて、まずは0から1を、1から10を組み立てていくのがプロデューサーということですね。

秘馬:厳しいことを言うと“提言だけ”する人はいらないんだよね。やりたいことをやる人ではない。目指す未来のためには、時にはやりたいことも封印する。

小田切:さらに言うと、GBPの名称は”グリーンビジネスプロデューサー”なんですよね。そこが肝というか。

秘馬:「ビジネスプロデューサー」は世の中にいるけど、「グリーンビジネスプロデューサー」に着眼しているのがGBPの面白いところだと思う。

小田切:「グリーンが本当にビジネスになるんですか?」という質問が結構多いです。

秘馬:その質問をしたくなるのもわかる。まずはグリーンをどう捉えるか。そしてビジネスになる価値を“生み出すこと自体”がプロデューサーの仕事だからね。

気持ちがあれば、自然とスキルはついてくる

小田切:「価値を生み出す」って言うのは簡単ですけど、実際のところ難しいですよね。よく耳にするのは「一歩がまず踏み出せない」という声です。小さく始めるきっかけってなんでしょう?

秘馬:あのね、やらない人はやらない(笑) まぁそう言っちゃうと終わっちゃうから、カマスの話をしよう。カマスって魚は肉食で、水槽に餌を入れたらものすごい勢いで食べるんだよね。ある程度、頭もよくて。ある時、水槽にガラスの板を餌との間に入れてぶつかったカマスは、一定期間が経ってガラスの板を外してももう餌を取りにいかなくなっちゃう。ぶつかるのが怖いから。で、このカマスがもう1回餌を取るようになるにはどうすればいいかっていうと、野生のカマスをもう1匹水槽に入れるの。その野生のカマスが餌を取りに行くのを見て、最初のカマスも「あ、行っていいんだ」って思うんだよね。

小田切:誰かトライしている人と一緒にいることが重要っていうのはよくわかる。何かアクションを起こして実績ができると「あの人がやって成功したんだから自分もやってみよう」という雰囲気がでてきますよね。それは自分のいる唐津でも何度か体感してます。

秘馬:この話って、学習も大事だけどトライする姿勢やマインドが大事ってことにも繋がっていて。いわゆる体育会系とかそういうことではないけど、ハートとか信念が大事なんだよ。

小田切:知識ありきで行動するのではなく、行動しながら必要だと思うスキルを身につける感じ。

秘馬:あのね、偉そうにこれまで語ってるけど……。僕、実はダイエット1度も成功したことないのよ(笑)

小田切:(爆笑)

秘馬:知識はあるの、知識は。「なんとかダイエット〜」とか「食事の栄養〜」とか、ありとあらゆる知識がちゃんと頭の中には入ってる。でも成功しないのって、「やらされている」「やらなきゃいけない」ものだからなんだよね。

小田切:自ら湧き出る何かがある人はまず動いていて、知識なんかは後からついてきますからね。

秘馬:そう。だからそういう意味でまずは何よりもハートだね。

既成概念に囚われずこれからのスタンダードを創る

秘馬:主体的に動くって実際は難しいのは、よくわかります。とはいえ、GBPに参加する人たちには「来たくて、ここまで来たんだよね?一歩踏み出したいから来たんだよね?」と問いたい。ドライに聞こえちゃうかもだけど、僕が三豊で取り組んでいるプロジェクトでも、イヤならいつでも辞めていいというスタンスではある。

小田切:それって冷たいわけでは決してないですもんね。人間性とか能力だけの話ではなくて、タイミングとかもありますし。無理やり続けていても、お互い不幸になっちゃう。

秘馬:何度も言うけど、僕たちが目指しているのはプロデューサーだからね。シビアかもしれないけど、振り落としていくくらいのスピード感も大切。

小田切:もちろん、プログラムはちゃんと丁寧に対話しながら進めますけどね(笑)やってみたらダメだったってのはよくある話。そこに固執せず、ピボットというかその領域で活動するための経験や学び、視点変えの機会をつくっていく。

秘馬:うん、雑にということではなくて、刻々と変わる環境の中で自分たちで結果を出していかなきゃいけないからね。目的を見失っちゃダメ。仲間は作れる場だけど、それが目的の場所ではない。

小田切:それはそうですね。

秘馬:これからのスタンダードというか、トッププレイヤーは有名企業や大手企業よりもこっち(GBP)だよって真剣に思ってるからさ。

小田切:たしかに、他がやっていないことをやっている実感はあります。

秘馬:誰よりも先に始めることが、実は一番リスクがないと思っていて。例えうまくいかないことがあったとしても、それはリスクではなく経験だから。

秘馬:ただ、そこに言い訳をしないことが大事。例えば僕は大学を辞めた。それを辞めたから〜と言い訳にせず「大学続けているやつより面白いことやれてるか?」って自問自答しています。言い訳だけはしないぞ、と(笑)

小田切:その他大勢の誰かのスタンダードじゃなくて、自分の道をスタンダードにしていく。

秘馬:うん、主語は常に自分。誰かのために始めたことが誰かのためにならなかったら「なんのためにやってるんだ?」ってなるし、責任も転嫁しちゃうよね。小田切さんだってそうでしょ?

小田切:はい。僕も主語は自分ですね。

秘馬:そうね。そして、まわりまわって自分のために動いたことが社会のためになっている。あのね、「鳴かぬなら〜」って句があるでしょ?将軍ごとに3つの有名なセリフがあると思うけど、僕はね「鳴かぬなら、僕が鳴くよ、ホトトギス」なの。

小田切:新しい……(笑)相手を変えようとするのではなく、自分がまず変わる。

秘馬:そう。自分が変われば、周りも自ずと変わってくると思うから。

ー編集後記ー
ずば抜けて人間力の高い秘馬さん。そんな秘馬さんならではの言い回しが炸裂した今回の対談。人によってはズバズバして聞こえるかもしれませんが、何十年も実際に地域に根を張った活動をされてこられたからこそ言葉の深みを感じます。何よりも言葉の端々に愛を感じるんですよね……。個人的にはダイエットのくだりはグサっと刺さりました。明日やろうは馬鹿野郎。(ディレクター:おおもり)



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